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12−8 バルタニアン王子(2)

 フラウリーデ女王は、サリナス・コーリン大佐にバルタニアン王子を玉座の間までくるように伝えさせた。


「マリンドルータ!」

「はい、此処(ここ)に 」

「貴族連合の造反鎮圧に、バルタニアンを出陣させようと考えている。一緒に話を聞いていて欲しい 」

「分かりました 」


 バルタニアン王子の指南役は、『 女王の剣 』マリンドルータ・リンネである。10年前の指南役であれば、剣と槍一筋に師事することで十分事足りていたのだが、フラウリーデ女王の(もたら)した産業革命のもう一つの裏の顔として、火薬を用いた幾つかの武器の台頭があった。


 そのため、マリンドルータは、銃や火薬の扱いに関してもバルタニアンに師事する必要があった。元々のその素質があったのか、陰で血の滲むような努力をしていたのかはわからないが、マリンドルータはフラウ女王も舌を巻くほどの腕前である。


 ある日女王がグレブリー・リンネ公爵に『 マリンは一体いつ銃や大砲の稽古をしているのか? 』と聞いても、笑っているばかりで答えず、挙句の果てには、『 姫様のやきもちですか 』と揶揄(からか)われ口を(つぐ)んでしまったというひとコマがある。


 フラウリーデ女王にこれ程の軽口を叩けるものは、彼をおいて他にはいなかった。それでもフラウ女王はこのグレブリー公爵が憎めない。ハザン帝国との初戦に勝利した後、二人だけの時には女王になった今でも決まって 『 姫様 』扱いである。


 マリンドルータの性格から考えて、新しい武器の取り扱いについては相当量の練習を重ねたことだろうとフラウリーデ女王は確信を持って想像していた。


「バルタニアン王子殿を連れて参りました 」

 サリナス・コーリン大佐がバルタニアン王子を連れて玉座の間に入ってきた。


「女王様、それにマリンドルータ師匠殿!私にお話とは、、、」

「バルタニアン王子、何歳になったのかな?」

「えっ、今年15才になりましたが、、、」


「近く、貴族連合の残党どもが王国に対し再び謀反を起こすという情報が入ってきている 」

「もしかして、私にその先陣を取れと?」


「バルタニアン!今私の一番大切な仕事はなんだと思う?」

「8カ国同盟国の総合的調和を図るのが急務かと!」

・・・・・・!

「それで、叛乱の鎮圧を私に、、、」


 いつかは息子の王子が先陣を取らなければならない日は必ず来る。今15才のバルタニアン王子は、少なくともフラウリーデ王女が15才の時よりも遥かに高い戦闘力や戦略・戦術を身につけていた。だが実戦に絶対に欠かせないものは胆力である。だが、こればかりは経験しないと決して身につかない。


「母上と同じ、十五歳で初陣とは珍しいですね!」


「では、そのような事態が発生した時には出陣してくれると考えていて良いのだな?」


「分かりました。争いごとは決して好きではありませんが、放置すると多くの罪なき王都民や領民を犠牲にすることになるでしょう。私で良ければ、、、」


「有難う。出陣に先立っては、この『 神剣シングレート 』をお前に譲りたいのだが、、、」


 女王が神剣シングレートをバルタニアンに渡すということは、いわゆるこの王国の将来を王子に託すことと同義語である。

 

 トライトロン王国は歴代極めて特殊な一時期を除いては、女王が王国を統治してきた。しかし、今フラウリーデ女王から手渡された『 神剣シングレート 』を自分が譲り受けるということは、一千年も続いたトライトロン王国の統治体制を、全く変えることになる。


 人の心の動きを読み取ることに優れたバルタニアン王子ではあったが、母の心の中を読み取ろうとはしなかった。母は母なりに真剣に考えて後継者を定めようとしているのだと理解した。これまでのしきたりを重んじる女王であったなら、後継者には双子の妹ヒルデガルド王女を選んだのかも知れない。


 フラウリーデ女王も、そのしきたりのことについては全く何も思わなかったかというと、そうでもなく、ヒルデガルド王女に攘夷することを全く考えないわけではなかった。


 フラウリーデ女王は、今ではプリエモ王国に嫁ぎ、産業技術大臣を兼務しているジェシカ皇后とヒルデガルド王女が重ねて見えてしまっていた。

 ヒルデガルド王女は座学の分野では間違いなく天才的な能力を持っていた。その意味ではヒルデガルド王女には、ジェシカ王女と同じような人生を送ってほしいというのが本音であった。


 母エリザベート上皇も、フラウリーデ王女にその剣を渡した時から、王国の内政にはほとんど干渉しなくなった。今、女王である母が『 神剣シングレート 』を自分に譲った時の心の内が少しわかったような気がしていた。


 だが、母エリザベート女王には男子の子供がなく、比べることができなかったという事情もあったのかも知れない。その意味で、トライトロン王国を率いるのは長女フラウリーデ王女をおいて他にはないと迷う必要がなかったことも事実である。


 母から『 神剣シングレート 』の譲渡を受けた時のフラウ王女は、現在のバルタニアン王子ほど精神的には成長していなかったせいか、ただそのような大切な物を母からもらえたことを単純に喜んだものだった。


「それから、バルタニアン王子の出陣にあたっては、このサリナス・コーリンと邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)殿に副将としてついてもらうことになると思う 」


「卑弥呼叔母様もご一緒願えるるのですか?。久し振りに卑弥呼叔母様に稽古(けいこ)をつけてもらわないと、、、」


「もう、王子様にはその必要はないでしょうが、卑弥呼殿の剣法は得るものも多いですから、、、」


「マリン殿もそう思われるでしょう 」


「バルタニアン王子!グレブーリー・リンネ公爵からの情報次第で直ぐにでも動くことになるだろうから、心の準備をしておいてくれないか? 」

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