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12−6 貴族家の叛乱再び

 トライトロン王国の貴族のうち、筆頭貴族のシュトクハウゼン・ゼークスト公爵を中心とする伯爵家や子爵家など5つの貴族家が王国全土を巻き込んだ叛乱を引き起こしてからおおよそ五年が経過した。


 そして大敗を期した叛乱貴族は、首謀者であったゼークスト公爵と総大将シュタインホフの死亡により、一応の決着はついていた。


 しかしその真相は、シュトクハウゼン公爵が先の叛乱において総大将であったシュタインホフ・ガーナにより殺害されていた。

 今では(あんぐ)愚と呼ばれていた長男のシュトライト・ゼークストがその後を継いで侯爵となっていた。

 ゼークスト公爵家は叛乱の責任をとる形で侯爵家へと家格が下げられていた。他の叛乱に加担した貴族家も同様の軽い処分で済んでいた。


 本来であれば、叛乱を起こした者の末路は、一族郎党打首かまたは死ぬまで投獄か砂漠の収容所で死ぬまで強制労働という処置がとられるのが普通であった。


 だが、叛乱後の王国の早期の復興を優先したフラウリーデ女王は、家格を引き下げ、所有できる兵士の数を減らし、更に懲罰として王国への上納金を引き上げることに止め、早期に王国内の情勢の安定化を図った。


 その女王の思いを、知ってか知らずか叛乱貴族達は王国の進める産業革命の恩恵にちゃっかりと乗っかり再び私服を肥やすことに専念していた。


 叛乱の責任をとって首を差し出した叛乱軍の首謀者ゼークスト公爵家であっても、家格が侯爵家に引き下げられただけで、取り潰し、死罪や島流しなど大きな制裁は免れていた。


 そしてゼークスト侯爵家の跡取りは、暗愚として有名であった長男のシュトライト・ゼークストが表向きは統治していることになっていた。


 彼は、元々自らトライトロン王国に対し反旗(はんき)(ひるがえ)すような度胸があるわけではない。しかし、先の叛乱の失敗の折、当時の将軍代行であったシュタインホフ・ガーナに(そそのか)され父のシュトクハウゼン・ゼークスト一人に責任を被せ、今でも相変わらず自堕落な生活を続けていた。


 しかし、元々暗愚な王子であっただけに、ゼークスト侯爵家の頭領となった今も領地経営の主体は親殺しを(そそのか)したシュタインホフ・ガーナ将軍とその側近に任せっきりであった。


 ゼークスト公爵家の諜報員であった、シュタインホフ・ガーナはトライトロン王国の公式書類においては先の叛乱戦争中に死亡したことになっていた。


 しかし彼の顔を知っている人がいたとすれば、先の叛乱で家格の引き下げられた侯爵家の実権を今握っているのは、その死んだはずのシュタインホフ・ガーナだとわかったであろう。


 いわゆる先の叛乱終結の決め手となった首実検はまやかしであったわけである。確かにゼークスト公爵の首は本物であったが、同時に提供されたシュタインホフ・ガーナの首は替え玉であった。・ 


 王国への忠誠の証として首実検に差し出されたはずのシュタインホフ・ガーナの首は実は偽物であったというのが真実で、今では侯爵家をしっかりと牛耳(ぎゅうじ)っていた。


 替え玉の首を差し出したシュタインホフ・ガーナ将軍代行は、暗愚であるシュトライト・ゼークスト侯爵を傀儡化(かいらいか)し、今では侯爵家の実権を完全に掌握(しょうあく)していた。


 そして彼は侯爵代理として、侯爵全軍を率いる立場に返り咲いていた.前公爵が亡くなっているため侯爵家は今では彼の思いのままであった。


 いわゆる事の顛末(てんまつ)はシュタインホフ・ガーナの影武者の首を差し出し、自分はちゃっかりと侯爵家のNo.2という地位を確保していたということになる。そして侯爵家の実権は全て彼が掌握していた。


「そろそろ、侯爵家も再び日の目をみるチャンスが到来してきたようだな 」


 事実、女王の(すす)めている産業革命とやらにただ乗っかっていただけだが、その恩恵は莫大な者であった。そしてその恩恵を利用し、王国打倒のための兵器造りに専念していた。そして、シュタインホフ・ガーナは自分の忠実な僕を自分の副官として、侯爵家の兵器作りと、兵士の管理を任せていた。


「シュタインホフ将軍殿!そろそろ潮が満ちて来たようですな。我が侯爵軍の真の力をあの王国の女王に見せつけてやりましょうぞ 」


 先の叛乱の首謀者であったシュトライト・ゼークスト侯爵家も、産業革命の恩恵を等しくかそれ以上に受けていた。侯爵代理となっているシュタインホフ・ガーナは得られた利益のほとんどを王国打倒のために使用していた。傀儡であるシュトライト・ゼークスト侯爵が女遊びに消費する金額など、侯爵家全体の利益からすれば、微々たる者であった。


 そしてシュトライト侯爵は、領地経営をすっかり手放してしまい、次男の研究者ナダトール・ゼークストの兵器開発に関しても全く無関心で、口を挟むことは全くなかった。    

 そして、今日もシュトライト侯爵の部屋からは若い女の複数の嬌声が聞こえてきていた。


 シュタインホフ・ガーナ侯爵代理は、今では打倒トライトロン王国への復讐のためだけ生きていたといっても過言ではなかった。


「王国のフラウリーデ女王は産業革命にのみ力を注ぎ、主だった兵器の開発は行っていないとの情報が入っているし、今がチャンスかもしれないな?」


 この時点でシュタインホフ将軍の得ているトライトロン王国の兵器開発に関する情報が、実は王国公安省サリナス・コーリン大佐により大きく情報操作が行われていたことまでは予測できていなかった。


如何(いかが)でしょう、ゼークスト公爵家の家格引き上げで一番恩恵を受けたラウマイヤー・リンネ公爵領に量産した新兵器をぶっつけて公爵家の領土を焦土にしてしまいましょうか?」


「そうだな、王国が産業革命の成果に狂喜(きょうき)している内に、一気に攻め落とすのも悪くはないが、、、」


 シュタインホフ・ガーナ侯爵代理は先の王国軍との戦で火傷により少し引き攣った顔半分を側近から避けるようにして、そうつぶやいた。

 そしてシュタインホフ将軍は、現在のリンネ公爵家の当主に関する情報を側近に問いただした。

 

 リンネ公爵家では、先の叛乱鎮圧後ラウマイヤーハウト・リンネ侯爵は、王国から公爵家への家格引き上げの後、公爵領の運営を全て、グレブリー公爵代理に任せ、半年足らずで彼を後継のリンネ公爵としていた。


「侯爵代理だったグレブリー何とかという元王国軍の将軍に関する詳細な情報は入手できているのか?」


「はい、元ダナン砦の大佐で、対ハザン帝国戦での功績を買われ、後はとんとん拍子に王国の大臣にまで昇格したようです」

・・・・・・・!

「その後はリンネ家の跡取り娘マリンドルータと結婚・養子入りし、今では公爵領の筆頭となり領地経営に専念しているとか、、、」


 シュタインホフ・ガーナは、『 何故か奴のことが気になってしょうがない 』とつぶやいた。

 そして、自分の最も気に入っている諜報員をリンネ公爵家に諜報員を忍び込ませ、グレブリー公爵代理の動きに関する詳細を探ってくるように命じた。

 

「はっ、早速諜報員をリンネ公爵領に忍ばせます 」



  ここは、先の叛乱でのその功績を買われ侯爵家から公爵家に家格上げとなったリンネ公爵家の館。

  鎮圧に最も貢献したとして、グレブリー侯爵代理は、今ではグレブリー・リンネ公爵となっていた。


「何、シュトライト・ゼークスト侯爵家の諜報員が、わが公爵領内でスパイ活動をしていると?しかし、そのようなことはこれまででも日常茶飯事(にちじょうさはんじ)ではなかったのか?」


「いや、それが現在公爵領に潜んでいる諜報員は、侯爵家で最も腕のたつと言われている諜報員で、部下数人を加えて可成り執拗(しつよう)な探りを徹底して行っているとの報告が上がっています。特に兵器の内容調査や傭兵の募集状況などについてのようです 」


如何(どう)やら、ゼークスト侯爵家も(しびれ)れを切らしてきたようだな。私は当分家をあける。市中で私の良からぬ(うわさ)が流れても、お主達は気にしないでくれ!これも作戦のうちだ 」


「公爵殿!まさか(ちまた)乱痴気(らんちき)騒ぎの痴態(ちたい)ぶりを振りまかれるおつもりなのでは?」


「おそらくこの公爵家の中にもゼークスト侯爵家のスパイが潜入してくる可能性もあるため、私のことをどうしようもないお目出度(めでたい)い当主だと上手に繕ってくれないか?」


「グレブリー・リンネ公爵殿、何だか嬉しそうですね! 」


「そうだな!久しぶりに大物が釣れそうな予感だ。ついそれが心が顔に出てしまっていたか?ハハハ!ところで、マリンはいつ公爵邸に戻る?」


「今週末には戻られる予定です 」


「そうか、戻ったら私に連絡をくれるように言ってくれ。私は明日からでも市中に出かける 」

「了解しました 」


 グレブリー・リンネ公爵は、直ちに王城のフラウリーデ女王に遠話機で連絡をしていた。遠話機から聞こえてくるフラウリーデ女王の声に自分の精神がいやでも高揚(こうよう)してくるのを抑えることができないでいた。

 やはり、彼は根っからの冒険好きで、公爵領の運営とは異なる新しい刺激にひさしぶりに浮かれていた。

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