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12−5 王国産業革命再始動

 フラウリーデ女王を中心としたハザン共和国への訪問は、女王とニーナ化学技術庁長官に極めて大きなショックを与えていた。

 内乱という不可抗力の理由があったとしても、その間にハザン共和国は、国を立て直すという極めて具体的に直面した課題に、その一番の近道はフラウリーデ女王が提案した産業革命を推し進めることだと確信し、国民全員が一丸となってそれに取り組んだと思われた。


 失うものがない新しく設立されたハザン共和国は、カトリーヌ大統領の元、より良い暮らしを求めて国民全員が一つの方向を目指して真剣に動き始め出していたのだった。


 結果として、産業革命の発案者のトライトロン王国よりも既に1歩も2歩も先を走っているようにフラウリーデ女王には思われてならなかった。そのため、不本意ながらも今度はトライトロン王国がハザン共和国を追いかける立場となってしまったようである。


 それでもトライトロン王国には天才的な能力を持つニーナ・プリエモール夫妻と、サンドラ・スープラン王国科学技術省大臣がいた。この3人を中心として王国の産業革命は再び急速に回り始めるはずである。

 そして間もなく今までの遅れは取り戻せるだろう。いや、必ずそうしなけければならないとフラウリーデ女王は決意を新たにした。


 

 フラウリーデ女王達がハザン共和国に招待されてから3年が経過した。


 本来、トライトロン王国が主導してきたはずの産業革命が、ある意味その後に参加してきたハザン共和国に完全に先を越されてしまった。

 負けず嫌いのフラウリーデ女王とニーナ王女は、ハザン共和国から帰るやいなや、しばらくは蔵書館に(こも)りっきりになっていた。もちろん、ニーナ王女の夫ドルトスキー博士科学技術庁長官も一緒である。


 トライトロン王国には、『 異次元の蔵書館 』が存在しており、そこに所蔵されている蔵書の中に、『 未来予言書 』的な未来に起こるであろうことが記載されたものがあった。

 だが不思議なことにトライトロン王国の蔵書館設立に関する記録はどこにもなかった。そのため、トライトロン王国の蔵書館がいつから存在していて、誰がそれらの蔵書を集めたのかについては知る(すべ)はなかった。


 しかしそこに保管されているあらゆる未来の産物に関することが記載されたそれらの蔵書の中から、今の王国の技術レベルで実現可能と思われるものだけを全て洗い出し、その再現・応用に注目し、ハザン共和国とは少し違う方向での発展を目指すことにした。


 そして更に三年が経過した。トライトロン王国の国庫には百年かけても使いきれないほどの保有財産があった。もちろん先の産業革命で十分すぎるほどの収益が得られていたことと、フラウリーデ女王を始めとする王族の質素な生活がそうさせていたし、不満貴族の叛乱鎮圧で新たな王国の租税対策も功を奏していた。このままでも、国庫金の増加は確実であった。

 

 王国内の数箇所に大きな発電所が設置され、各家庭にも電気が供給されるようになると、それに伴いその電気を用いた数多くの製品が次々と発明製造され、各家庭にもそれらの電気製品が徐々に導入され始めてきた。

 確かに、初めのうちは恐る恐るという感は否めなかったが、人間の虚栄心や嫉妬心が、次々と商品化される新しい便利な生活必需品にその目を向け始めてきた。


 また、その頃になると人々は生活の中にいくらかの遊び心を求めるようにもなってきた。心を豊かにする衣食住やレジャーに関するいろいろな製品が商品化され、次々と購入されていく中で、ひときわ一般市民の目を引いたのは『 小型自走車 』である。これまでは、小型自走車など庶民の品物ではなく王族や、貴族更に商売により大富豪となった者など、所有できる者はごく一部に限られていた。


 フラウリーデ女王は、元々これらの自走車を一般の市民にも活用してほしいとの考えを持っていた。そのため、期間を5年間と区切り、自走車購入費用の30%を国庫で援助するとの条例を発布した。


 人々は、生活がある程度豊かになってくると、たまの休日には家族連れで小旅行でもしたいと考える市民が増加してくることはある意味当然であった。それでも、これまでは自分達の収入ではいくら欲しいと思ってもとても購入することはできないと諦めていたのだが、新しい条例の発布である程度は一般の市民でも少し手を伸ばせば届きそうな位置に降りてき始めた。そうなると、それを手に入れるために人々の労働意欲はいやでも上昇してくる。


 条例が発布されてから市中には一定収入以上の市民に必要な金を貸し付けるという金融業が台頭し始めてきた。そして1年も経つと小型自走車の需要が急速に伸び始め、大量生産の技術も確立され、小型自走車の価格は次第に下がり始めた。


 これまで高価で一部の富裕層にしか購入できなかったものが、価格が半分ほどで入手できるようになり、国庫金からの援助金と合わせ、更に金融業を上手に利用することで、2年足らずで完全に市民の手の届く製品となってきた。

 そうなると、全てが良い方向に回転し始め、関連商品も含めトライトロン王国における自走車産業は最も大きい産業にまで成長してきた。また家電製品の製造・販売業も例に漏れず急速に発展し始めてきた。


 当初、少ない特権階級の所有する製品だと諦めていた一般の市民であっても一生の内に一度くらいは自走車を購入し、家に帰れば新しい電荷製品で快適な暮らしができるようになってきた。


 そうなると自走車の需要は急激に増加し、5年経過時には国庫からの補助金なしにでも購入できる価格になっていた。もはや一般市民達にとっても小型自走車は贅沢品とは呼べなくなってしまった。


 一生のうちに、自分達家族の住居を持ち、その住居には多くの家電製品が並べられ、家の前には自走車が止まっている風景が街の至る所で見られるようになってきた。また、そういう風景を見ると、自分達も早くそこまで達したいという気持ちが働き、そのことが彼らの労働意欲を更に()き立て始めてきた。


 フラウリーデ女王は、ドルトスキー・プリエモール博士がトライトロン王国で最初に自走車を発明し、王国重鎮の前でその走行を披露し、参加者の度肝を抜いたことを思い出していた。


 あれから10年。王国科学技術省の設立以来、途中でハザン帝国軍による飛行船襲来や貴族連合軍の叛乱により、一時的に産業革命は停滞はしたものの、トライトロン王国は再び目まぐるしく発展し始めた。


 その一方で、その王国産業革命の恩恵を余すことなく享受(きょうじゅ)してきたにもかかわらず王国貴族の叛乱分子は、未だ王族転覆(てんぷく)の夢を捨て切れずにいた。

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