12ー4 ハザン帝国とハザン共和国
ハザン共和国の極めて短期間での変化を目の当たりにしたフラウリーデ女王は、改めて王国内の産業革命に本格的に取り組む決意を固め、同行しているニーナ・プリエモール科学技術庁長官を呼び、カトリーヌ大統領の話を一緒に聞くように促した。
「ニーナ!我々の目指していた産業革命は、ハザン共和国においては既にその成果が大きく現れているようだ。我々が内乱の鎮圧に手を焼いているうちに、、、」
ニーナ化学技術庁長官は、フラウリーデ女王の話に耳を傾けながら、今回ハザン共和国の視察に来たことが今後のトライトロン王国の産業革命に大きな変化をもたらすような気がしてならなかった。
そして、『 確かにそのようですね。私もそう思いながら窓からの景色を見ておりました。今回の旅は私にとっても良い刺激になりそうです 』とフラウリーデ女王に答えた。
この世界の産業革命は、トライトロン王国のフラウリーデ女王に触発され推進され始めた。当初はトライトロン王国より科学産業の進んだハザン帝国に対抗するための科学的な発展を目指してのスタートであった。女王がハザン帝国の攻撃型飛行船に対抗するために、科学及び化学の研究者達を集め始めたところから始まっている。
当初トライトロン王国はハザン帝国の飛行船に対抗する手段として、科学と化学を発展させてきた。その副産物が蒸気機関車であり、エンジン付きの自走車、更には大砲や銃の開発につながっていった。
今ではプリエモ王国に嫁いで皇后になっている妹のジェシカ王女の夢であった、大勢の観光客や大量の荷物を運ぶことのできる移動手段としての飛行船開発という夢がプリエモ王国とトライトロン王国を結ぶ蒸気機関車の発明につながっていた。
「そうだな!王国へ戻ったら、もう一度王国のこれからの産業革命について改めて徹底的に考え直す必要がありそうだな 」
フラウリーデ女王は、カトリーヌ・サンダ大統領の方に向きを変えながら、今回のハザン共和国への招待が今後トライトロン王国と手を携えて共に発展していこうとの趣旨で宜しいのかと確認した。
「そういう風に受け取っていただければ、私としても光栄です。ハザン共和国には歴史が存在していません。トライトロン王国には1000年以上の歴史があります 」
・・・・・・・!
「国の歴史、それは極めて大切なことで、私共は一からその歴史を作らなければなりません 」
「カトリーヌ大統領!旧ハザン帝国もハザン共和国樹立のための礎だったというふうには考えられませんか?」
ハザン共和国のカトリーヌ・サンダ初代大統領は、まだこの段階ではハザン帝国の旧軍事最優先だった体制を完全に許すことができないでいた。旧体制の軍部独占の政治がハザン帝国を極めて荒廃させ、市民に圧政を敷いてきたことを、その目でまざまざと見てきた言わば生き証人であることから、ある意味やむを得ないことだと思われる。
彼女が旧ハザン帝国の軍事体制を過去のものとして許せるようになり、旧ハザン帝国をハザン共和国新体制の前身であることを認め切れるようになるのにはもう少し時間がかかりそうであった。
それは、恐らく、軍部の圧政を自ら感じてきた彼女にとって、たった自分世代一代では払拭することはできない可能性があった。
だとしても百年後には、かつてのハザン帝国という軍国主義の前身があってこそのハザン共和国であると、抵抗なく人々が語れる時代が到来するのかもしれなかった。
「時間が、解決してくれるかもしれませんね。ハザン帝国の独裁政権があってこその今のハザン共和国なのでしょうから、、、」
一方、バルタニアン王子とヒルデガルド王女は、列車に乗った時から大統領の長男ギルバート・サンダの話を興味深く聞いていた。
王子と王女はギルバートの話を一言も聞き逃さないようにと聞き入っている。二人にとってプリエモ王国を除けば初めての異国訪問である。見るもの聞くものの全てが新鮮で、喰い入るようにギルバートの話を聞いていた。一方ギルバートは、王子と王女の年齢をはるかに越えた二人の知識の豊富さと理解力に加えて表現力の豊かさに驚いていた。
確か自分よりも5歳年下の二人がほとんど対等に話すその内容に、この二人には一般の人間には理解し難い稀有な才能を有しているのを手に取るように感じていた。
トライト及びリモデール中将は、自分達が関わって新しく樹立されたハザン共和国の近代的な変貌ぶりに驚き、その大きな歴史的な転換点に自分達が立ち会えたことを、いや、その体制を作り上げたのはフラウ女王と自分達だと考えると掛け値なしに嬉しかった。
一方エーリッヒ大臣とラングスタイン将軍は、もしあのまま自分達がハザン帝国に残っていたなら、今頃は戦争責任を取らされて、墓の下にいるのではなかろうかと運命の奇遇さを感じていた。たとえ当時極めて優れた戰巧者の自分達であっても、トライトロン王国のフラウリーデ女王が仕掛ける戦いに自分達が勝てたかもしれないという考えは、微塵にもなかった。
二人の結論の行き着くところは、どのような戦略・戦術を駆使し、あるいはあらゆる奸計を張り巡らしたとしても、自分達の勝利の姿は想像できないでいた。
そして、なぜかこの時二人は同時に邪馬台国の卑弥呼の顔を思い出していた。
あの時の戦には彼女が関与していたのではないかと、、、!




