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2−6 満身創痍(まんしんそうい)

 もうこの頃のフラウリーデ王女は卑弥呼(ひみこ)と自分には同じ血液が流れているのをほぼ確信していたが、容姿が全く違う義姉卑弥呼となぜ同じ血液なのだろうかと疑問にも感じていた。しかし洞窟内の五芒星(ごぼうせい)の魔法陣が発動するための重要な鍵がその血液であったことを考えると、そう思わざるを得ないのである。


 フラウ王女自身は未だ転移呪文を唱えることができないが、血液の中の何かが卑弥呼と極めて近しいと考えると、近いうちに転移もできる可能性もあるのではないかと少し期待を持っていた。


 もうこの頃になると、フラウ王女には邪馬台国(やまたいこく)の卑弥呼が、常人を遥かに超えた能力を持っていることは確信できていたし、むしろ神々の子孫ではないかとも考え始めていた。もし、自分が卑弥呼の能力一部を受け継いでいた場合、トライトロン王国の存在している世界を本来の辿(たど)るべき方向とは全く別の方向へと導いてしまう可能性があるのではないかとの不安を感じてもいた。


 そしてフラウ王女は、

 “ 私さえしっかりとしていれば、悪意を持った第三者から利用される可能性はないのでは。仮りに万が一にもそのような場合には、きっとお義姉様が自分の過ちを正してくれるのでしょう?”

とボソッとつぶやいた。


「フラウよ!いくら何でもそういう理由で、わしを呼ぶのはやめて欲しいもんじゃが、、、まあフラウにはその杞憂(きゆう)はなかろうて!フフフ!! 」


 卑弥呼はところで、と言いながらその念話を打ち切った。シンシュン国との不可侵同盟に関する交渉がうまく行って良かったと言いながら、クロードが帰ってくるのはいつかと聞いてきた。

 そして、

 “ その今回の同盟を上手に利用すれば、5,000人の兵士分の働きになるぞ。しっかりクロを労ってやれ!”

そう付け加えた。

 ” 恐らく、夕刻までには!”

と答えるフラウ王女の顔に少し紅がさした。


 その頃、クロード・トリトロン近衛騎士隊長は、王都まで馬で後半日位の距離のところ、岩一つ見えない、どこまでもダラダラと続く砂漠で一人馬を走らせていた。砂漠内で馬を走らせることは、自分の体力や疲労度以上に馬の疲れ具合をしっかりと把握しておかなければ命取りとなる。


 城まで後半日の砂漠のど真ん中で、馬が完全に(つぶ)れてしまったならば、クロード自身も城に辿り着けない可能性が高くなる。馬にくくり付けていた荷物の大半は馬に飲ませるための水であった。

 その水ももう後一回の休憩分を残すのみとなっている。


 彼は計画的に休憩を取って来たつもりであるが、残りの水の量からもうトラブルが一つも許せない状況であるには違いなかった。クロード・トリトロン近衛騎士隊長は馬の状態に細心の注意を払いながら、可能な限り城の近くまで近づいてから休憩しようと考えていた。


 そしてあともう少しと考え、急ぐために馬に(むち)を当てた。馬はそれに応えようと走りを早めた。その瞬間愛馬の吐いた唾がクロードの顔に当たった。


 クロードは愛馬の過酷な状態を直ちに把握し、馬の走りを緩め、そして馬から飛び降りると愛馬を休ませ、残りの水は全て愛馬に与えた。


「 馬さえ潰れなければ、最後は彼が城まで自分を連れ帰ってくれる 」


 クロードは正に満身創痍(まんしんそうい)の状態で砂漠を走り抜け、やっと王城が見え始めた頃にはクロードは馬に全身を預け、その安堵感(あんどかん)からか急速に意識が遠のいてしまった。


 幸いに門番はクロード近衛騎士隊長の馬を知っていた。そして、数日前この城門から早駆(はやが)けしていたことも、、、早速数名の衛生兵が派遣され、クロード近衛騎士隊長は城内の侍医(じい)のところに運び込まれていた。


 侍医の見立てでは馬に自分の分の水まで与えたために、クロードは砂漠の熱気による汗で軽い脱水症状を訴え、気を失ったのだろうということであった。

 侍医が、布に染み込ませた気付け薬をクロードに嗅がせると、クロードは咳き込みながら意識を戻した。


 侍女シノラインからクロード帰還連絡を聞いたフラウ王女が休憩所に駆けつけた時には、既に必要な水を飲み、丸一日寝ずに馬を走らせてきた疲れから再び深い眠りについていた。

 フラウはぐっすりと眠っているクロード近衛騎士隊長のそのひび割れた唇に軽く指で触れ、ちゃんと規則的な息をしていることにホッとして、そのまま立ち去った。

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