1−32 蔵書館でのひと時
翌朝、フラウ王女とジェシカ王女の二人と、そして非実態のもう一人が蔵書館へと入って行った。ジェシカ王女は、小脇に重そうな手さげかごを持っている。
「ジェシカ!一体何を持っている?その荷物 」
「秘密です!」
頭の中で、卑弥呼の笑い声が聞こえてきたような気がしたが、フラウ王女は無視することにした。
トライトロン王国の蔵書館は卑弥呼の予想を遥かに越す広大で貴重なものであったとみえ、卑弥呼の興奮した驚きの声がフラウ王女の脳内いっぱいに広がっていた。
卑弥呼のその驚きは、その蔵書が半端な数ではなかったばかりでなく、その価値となると全く想像もつかないと考えられたからであった。
「うーむ!ここの蔵書だけで世界が丸ごと買えそうな貴重なものばかりのようじゃのう 」
・・・・・・・!
「早速、『 東の日出る国 』の蔵書のある所へ案内してくれないか? わしと同じ名前の女王のことを書いてあると言ってたじゃろう。年甲斐もなく胸が騒ぎよる、、、!」
「お義姉様、まるで子供のようですよ。今日は、子供二人連れて蔵書館にピクニックですか?」
「フラウよ!年上の義姉を揶揄うもんじゃないぞ。しかし考えても見よ。数千年前に生きていた卑弥呼女王のことが書かれたという蔵書を、今ここで卑弥呼であるわしのこの目で見るんじゃぞ。心躍るのは当たり前のことじゃろう。普通には絶対あり得ないとは思わないか?」
他人ごとには思えない数千年前に死んだとされる邪馬台国の卑弥呼に関して記載されていると思っただけで、卑弥呼は気持ちが昂っていた。
また、その卑弥呼女王のことを後世の歴史家がどのように評価しているのかについても大いに興味がそそられていた。
ジェシカ王女から見た姉フラウはまるで別人みたいに感じられた。そして姉がいつも座学から何とかして逃げ出そうとしていたのを思い出し微笑みながら、
” 今日のお姉様も大好きです ”
と抱きついてきた。
フラウ王女は『 東の日出る国 』の蔵書を片っ端からテーブルの上に並べ始めた。 全部で十数冊はありそうである。この前フラウ王女が一人で蔵書館にきた時には、邪馬台国について書かれた蔵書を見つけ、その蔵書のあらかたを読み終わったところで止めてしまっていた。
これらの蔵書の中のどこかには邪馬台国の卑弥呼が没した以降の『 日の本 』の歴史についても必ず書かれているであろうとフラウ王女は予測はしていた。
卑弥呼は邪馬台国の歴史だけではなく、『 東の日出る国 』がその後、どういう歴史をたどったかについても興味があるようで、蔵書を次々と読み進めていた。
呪術能力に長けた義姉卑弥呼であっても、邪馬台国の未来に関する知識はあまり持っていなかったのか、時々卑弥呼の興奮がフラウの脳に伝わってきた。
卑弥呼はフラウ王女の目を通して蔵書を読んでいるが、早い、早い、次々とページをめくっていくフラウを見ながら、ジェシカ王女は驚いた様な顔をして、
” お姉さま、いつの間にその様な異国の文字をすらすらと読める様になったのですか?”
と目を丸くして不思議そうに聞いてきた。
卑弥呼が ” フッと ” 笑った様な気がした。
しばしの間があって、ジェシカ王女が蔵書の一冊を手に取り、ページを開いた。フラウ王女は不思議に思い、ジェシカのその様子を眺めていたが、妹がその蔵書を喰い入る様に眺めているのを見て、
” ジェシーにはそれがが読めるのか ”
と囁いた。
「お姉さま、不思議ですね。さっきまで全く読めなかった文字が、何故か今は読めるようになりました 」
ジェシカ王女が見開いている蔵書には、王国でのお伽話のような物語が書かれているらしい。その蔵書には挿絵も記載されていて読み易くなっているようである。それにしても、ジェシカ王女は確かにそこに記載されている文字が読めて理解できているようである。
フラウは、脳内の卑弥呼に、
” お義姉様が妹に邪馬台国の文字が読めるようにしたんですね!”
と尋ねた。
卑弥呼は、ジェシカ王女が退屈そうな顔をしていたので、文字が少し読めるようにしてやったと思念を返してきた。
卑弥呼が見たかった蔵書の粗方を読み終えた頃、フラウのお腹からグーと可愛らしい音が聞こえてきた。
「もう昼時じゃのう。わしは、フラウの王国に関する蔵書も少し見てみたいと思うておるが、昼食が終わったらまたここに連れて来てくれないか?一人でも来れるのだが、、、」
「一人でも来れるって、どういう意味ですか?」
「いやまあ、硬い話は置いといて 」
フラウ王女の、腹の虫の鳴き声を聞いたジェシカ王女は、ゴソゴソと大事そうに抱えてきていた手提げかごから包みを取り出し、侍女アンジェリーナに昼食用にサンドイッチと飲み物を包んでもらいましたといいながら、テーブルの上に広げ微笑んだ。
「早速、頂きましょうよ、、、」
女子力の強い妹に呆れた顔をしながらも、またもやの腹の虫の催促にフラウ王女は破顔した。
「ホホウ!これがサンドイッチというものか?パンの間に肉や野菜が挟んであるようじゃのう。わしも食べてみたいのう 」
卑弥呼のワクワクした思念に応え、
” ジェシカ、有難う。蔵書館へピクニックに来たようで楽しいな!”
といいながら、素早くサンドイッチを口に運んだ。
卑弥呼も確かにこれは美味いと言いながら、邪馬台国における似たような食べ物を思念した。邪馬台国では、旅に出たりする時に米や麦を炊いたものの中に、トライトロン王国などではピクルスと呼ばれている漬物や梅干しや塩昆布などを入れて包み込む『 おむすび 』というものを思念した。
「とても、こんなに豪華じゃ無いがのう、、、」
フラウ王女は、昼食が終わってももう少し読みたいものがあるのでもし退屈なら先に帰っても構わないとジェシカに声をかけた。
ジェシカ王女は、姉と一緒に蔵書館に居られる機会は滅多に無いので、最後までお付き合いたいと考えていた。
そして、
” お姉様のお姿を見ているだけでも、ジェシカはそれだけで十分に楽しめていますから ”
と片目をつぶった。
「ジェシカは殺し文句も上手よのう 」
と驚いた様に、脳内の卑弥呼が揶揄てきた。
「ところでお義姉様、王国のどう言った種類の蔵書をお求めなのでしょうか?」
卑弥呼は、王国や周辺諸国の全般の地図、それらの土地の特徴や、それらの国で恐れている天災の類、それと過去数年位の天候を記録したものなどが知りたいと考えていた。
「わしの、先読みや星読みの術が少しは役に立たないものかと願っているところじゃが、、、!」
王国の蔵書をフラウが開くと、フムフムと言いながら早速読み始めている卑弥呼の様子ににフラウ王女が驚いていると、
” お主の脳を使って見ているからトライトロン王国語でも問題ない ”
と笑って返した。
「お姉様、時々ボーッとされておりますが、やはりまだ身体が本調子じゃないのですか?」
ジェシカ王女少し心配そうな顔をしながら聞いてきたが、フラウ王女はそれには応えず、絶品の微笑みをジェシカに向けた。
ジェシカは一瞬弾かれた様に、姉に近づいて大きく背伸びをしてフラウの頬に口付けをした。フラウは、それが妹であるにも関わらず、思わず頬が紅潮するのを感じていた。
「相変わらず、掟破りの可愛さじゃのう!一騎当千のフラウでさえも妹には形無しじゃのう!クククッ、、、」
卑弥呼の揶揄いも、妹の可愛さで相殺することができた。




