9−24 トライトロン王国の迎撃体制
昨晩、フラウリーデ女王はクロード摂政、エーリッヒ将軍、ラングスタイン将軍及びジークフリード公安省大臣を呼ぶと、ハザン帝国飛行船の迎撃作戦について最終の打ち合わせを行った。
フラウリーデ女王のラングスタイン将軍に対しての問いは、もし彼がハザン帝国の総大将だった場合の飛行船によるこの城の攻め方であった。
ラングスタイン将軍はまるで自分が飛行船の総指揮官として飛行船の旗艦に乗っていることを想像しながら、王城の1kmほど手前で一旦停止し、城壁前面に合わせて水平に幅広く布陣し直すのが常道であるとある種確信めいたものを感じていた。
「ほう、そのまま一気に突っ込んでくることは考えられないのか?」
女王の問いに、紡錘形のまま全機で王城めがけて突っ込んできた場合、仮りにその一機だけでも爆発すると、焙烙弾を大量に抱えているため、味方機の誘爆を引き起こす可能性が高いことを指摘した。
ココナ上級大将でもそれくらいは想定しているはずである。
これまでに得られている情報が確かだとすると、焙烙弾は発射装置を使うのではなく、兵士が自ら投下する必要があるため、とにかく王城或いは王都街の上空まで飛来する必要があった。焙烙弾の発射装置はハザン帝国にも存在していたが、とても飛行船に積載できる大きさと重量ではなかった。
そう仮定すると、彼らは飛行船が同時に王城上空並びに王都街上空に辿り着けるような陣形にする必要がある。そう想定するとハザン帝国の飛行船は、城壁手前の上空で水平に展開し、そのままの陣形で20機が同時に襲いかかってくるものと考えられた。
「そうだな!しかしココナ上級大将が並の将で無かったなら、むしろ中央突破図って来るとは考えないか?」
フラウ女王だったら多少の犠牲を考慮しても中央突破を計るであろう。最低でも五機が城壁を突破できることになり王城上空若しくは王都街に入り込むこととが可能となる。その場合でも、500個の焙烙弾を王城と王都街に投下できることになる。
ハザン帝国が王国の大筒、鉄砲及び爆薬付き強弓の威力に関する情報を入手できていなければ、確実に水平展開で来ると考えた。万が一ハザン帝国が王国の城壁からの攻撃を予測していた場合には中央突破の可能性が強かった。
「まあ、今考えてもしょうがないか?ココナ上級大将は常識では計りにくい人物だとの情報だから、、、」
いずれにしても、飛行船の編隊を途中で変更する愚かさくらいは認識しているだろうと予測し、むしろそうあって欲しいと女王は考えていた。
いずれにしても、今の段階で色々想定したとしても、結局は予想でしかない。この場合、ハザン帝国の出方を待ってからのほうがむしろ適当であるように思われた。
実際には、ハザン帝国の王城にこれだけの迎撃体制が備えられていることについて、ハザン帝国の『 草 』サリナス・コーリンはある程度看破していたが、彼女自身ハザン帝国を見限る決心がついていたため、それ以降の積極的な情報提供は行わなかった。
もしかりに彼女がそのままココナ上級大将に報告していたとしても、今回の作戦には全く考慮されなかったであろう。
一方、最近のフラウリーデ女王は戦略・戦術論に関する話となると、その目は俄然と輝いてくる。眠りについていた龍神が目を覚ました気配さえ感じさせられる。
「戦略や戦術をお前達と真剣に語り合えることはとても楽しい 」
エーリッヒ・バンドロン大臣はニヤリと笑うと、ココナ上級大将は、眠った龍神の目をとうとう覚まさせてしまったようだな。そしてこうなると、もう誰にも止められないぞと呟いた。
「ココナが可哀想に感じるのは、わしだけか?」
エーリッヒ大臣はラングスタイン将軍の方を向いてそうつぶやいた。
「本当にココナ殿も可哀想ですな。完膚なきまで叩きのめされるために飛行船に乗って態々こんな遠くまでやって来てくれるのだからご愁傷様なことだ 」
この4人の首脳陣の頭の中には、『 敗北 』の2文字は全く無かった。
作戦会議とは言えないレベルの話ではあったが、対ハザン帝国戦に向けての打ち合わせが終わり、自室に戻ったフラウリーデ女王は、水鏡に向かって呪文を唱え始めた。
わずかな水面の揺らぎの後、邪馬台国の義姉卑弥呼の顔が映り始めた。
「元気そうじゃのう!おう!いよいよか?フラウの顔から途轍もない覇気が感じられる。フラウの後ろに龍神様が揺らいで見えておるわ。どうやら、此度はわしが手伝うまでもなさそうじゃな。
今のフラウであれば一大帝国を築くことも可能なように見えるぞ 」
「それでも、終わってしまうまでは分からないのが戦争。もし不測の事態が生じた場合には、お義姉様を強く思念します 」
フラウ女王の返答は卑弥呼には聞き入れられず、間をおかずして卑弥呼はフラウの脳内に入り込んだ。
「相前後してわしの実体もトライトロン王国入りする。その必要はないかもしれないが、渡したいものもあるし、この目でフラウの働きをじっくりと確認させてもらうとするかのう 」
「有難うございます。お義姉様が見ておられると考えるだけで、私にとっては龍神様より心強いです 」
やがて、卑弥呼がフラウリーデ女王の側で実体化し始めた。
「煽てても、何も出ないぞ、、、そうそう!フラウにあげるものがあった。月の表面でも綺麗に見えるような遠眼鏡をプレゼントしよう 」
「月の表面がそれほど大きく見えるのですか?」
「1km離れた飛行船の操縦士や兵士の顔が目の前にいるように確認できる優れものじゃ。ところで、フラウは王国が開発した鉄砲は使えるか?」
「はい、自分で言うのは照れるのですが、今のところ、照準器で視認できる対象物であれば、外すことなく命中させる程度は習得しております 」
「そうか、今回の戦いではその腕が功を奏する可能性がある。戦わずして勝つのも重要な要素じゃ。一般兵士には罪はないから、頭だけを刈り取って無力化するのも方法じゃろう 」
王城にハザン帝国の飛行船が最接近する前にもし操縦士を銃で無力化し、砂漠に墜落させるのが可能であれば、かなり効率的と考えられた。
焙烙弾であれば導火線に火をつけない限りそう簡単には爆発しないとも思われる。
戦う意欲を喪失した兵士まで殺戮する必要は無い。墜落した飛行船を捨てて歩いて自国に帰りつけるかどうかはその兵士達の運と努力次第というところではあろうが、、、。




