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龍神の異名持ち女騎士と呪術師卑弥呼  作者: はたせゆきと
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9−22 ハザン帝国飛行船迎撃への備え(2)

 ニーナ・バンドロン特別顧問はサンドラ・スープラン長官に『 石油 』から『 水素ガス 』を分離して無人飛行船二十機の飛行袋に詰め込むことが二ヶ月以内に可能かと尋ねた。


「必要であれば、可能にしますが、、、」


 ニーナ特別顧問はハザン帝国の有人飛行船を迎え撃つにあたり、無人飛行船の持つ弱点についてサンドラ長官に説明を始めた。


 有人飛行船がトライトロン王国の無人飛行船を視認後に直ちにその進行方向を変えた場合、無人飛行船は有人飛行船に激突することなくそのまま通り過ぎてしまう可能性が高くなる。その場合、相手は全くの無傷のまま王城の上空まで接近してしまうことになる。そうなると、飛行船1機につき200個の火のついた焙烙玉(ほうろくだま)が王城に降りかかることになる。


「やはり、飛行袋には水素ガスを積めるべきではありませんか?」

 サンドラ長官も同様な結論に達したと見えて、ドルとスキー主席研究員にハザン帝国の飛行船の近くで自爆させる方法はありませんかと持ちかけた。


 幸い、石油からの『 水素 』の分離は現在『 ヘリウム 』を取り出している分離装置がそのまま利用可能である。そうなると、一月もあれば必要量の水素ガスを作ることは可能であった。


 ニーナ・バンドロンは早速大量の『 水素ガス』の分離を正式にサンドラ・スープラン長官に依頼した。飛行船の自爆装置はドルトスキー主席研究員が既に準備を始めているはずである。


 そしてニーナ特別顧問は、これでフラウリーデ女王様にも顔向けができるとつぶやいた。


「ニーナ!フラウリーデ女王様はないでしょう。ニーナと私達は既に正式な姉妹になっているのだから、、、」


 一緒にいたジェシカ王女がそう指摘した。しかし養子縁組が終わり正式な姉妹になったとはいえニーナにとって広範囲な知性と決断力に加えて暖かく懐が深い女王に対し、姉様と呼ぶのは未だ未だとまどわれていた。

 この時点でニーナ・バンドロンは正式にトライトロン王国の第三王女となっており、先般王国よりその布告がなされたばかりである。それでも彼女自身がそれを自覚するのにはもう少し時間が必要なようである。


 確か、ニーナが蔵書館長に任命され、ジェシカ王女の部屋で仕事をするようになった時に、フラウリーデから『 フラウ姉様 』と呼ぶように指摘されたことがあったが、未だ『 お姉様 』と呼んだのは数回しか無かった。ニーナ自身そう呼びたいと何度も考えていたのだが、その第1歩の敷居(しきい)が彼女にとっては途轍(とてつ)もなく高いものであった。


「まあ、しょうが無いか?私がプリエモ王国に嫁ぐのを機に、 『 お姉様 』と呼びなさい。姉様と呼んでくれる存在が身近に居なくなると姉様が可哀相でしょう。それに私を嫁に出さないなんて言い出すかも知れなくてよ。

 そうなったら、私が困るから、フフフ!」


「分かりました。そうできるように努力します 」

 

 翌日から、ドルトスキー主席研究員によるその自爆装置と爆弾の製作が、そしてサンドラ・スープラン長官のグループによる水素ガスの分離が始まった。


 今城門に設置されている攻撃特化型飛行船には全て自爆装置が設置され、飛行袋の中には水素ガスを詰め込む準備が着々と進められていた。

 

 さらに飛行船や大筒、大弓及び二連発鉄砲には、邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)がフラウ女王にくれた遠眼鏡(とうめがね)照準器(しょうじゅんき)に改良したものが取り付けられている。

 また城壁の監視兵にも量産化された遠眼鏡がそれぞれに配られていた。


 なお、ラウマイヤーハウト・リンネ侯爵家と約束を取り交わしていた残りの大筒、大弓及び二連発鉄砲も全て侯爵家への提供も終わっていた。

 リンネ侯爵家のグレブリー・シュトライト侯爵代理は、王国から提供された新しい強力な武器に関する兵士の訓練に余念がなかった。これでは残帝国との交戦中にゼークスト公爵軍が王城に攻め入ろうとしても、グレブリー侯爵代理が必ず(たて)になってくれるはずである。


 フラウリーデ女王がリンネ侯爵軍のゼークスト侯爵家襲来の想定模擬訓練も終わったとの報告を受けた一時間後、ハザン帝国に潜入員として潜り込んでいるトライト・オニール王国公安省大佐から、ハザン帝国飛行船団がトライトロン王国に向けて二十機飛び立ったという連絡が入った。


 城壁を守る全員に緊張の色が走った。しばらくして騎士服姿に身を包んだフラウリーデ女王が同じ騎士服に身を包んだ『 女王の剣 』マリンドルータ・リンネ近衛騎士隊長を伴って城壁に現れた。


 その自信に満ちたフラウリーデ女王とマリンドルータは初夏のまぶしい光の中で救世主の如く光り輝き、見る者全てを魅了した。


「ハザン帝国の侵攻が始まった。ハザン帝国は確実に国家の存亡を賭けて侵攻してくるはずである。ハザン帝国が国家掛け金として攻め込んでくるなら、我々はしっかりと望み通りその願いを叶えてやろうではないか?もう彼らには滅亡の文字しかあり得ないがな、、、。」

・・・・・・・!

「明後日にはハザン帝国はこの世界の歴史から抹殺される。いや、私がそうする 」


 ハザン帝国は、(いくさ)の先にある勝利した軍首脳陣の未来だけを見て、一番重要な死に瀕した国民の顔は誰一人として見ていなかった。

 トライトロン王国のフラウリーデ女王は、王城の城壁の上に立ち、二日でこの戦を終わらせ、明後日からはこの世界の産業革命に突き進むことを声高らかに宣言した。


 時折、城壁の上に立つ女王の(なび)いた髪からは、無数のルビーがこぼれ落ちていると錯覚させるほどの赤い光をふりまかれていた。


 トライトロン王国の見るべき未来は、今よりはるかに豊かで生活し易い世界造りであってその夢の実現のための第一歩がハザン帝国の暴徒共の殲滅(せんめつ)にあると、女王にはその確信が持てていた。


 赤毛の獅子(しし)彷彿(ほうふつ)とさせるフラウリーデ女王を前にし、中には手を合わせて拝礼している兵士も多かった。女王の近くに居たエーリッヒ・バンドロン第一軍務大臣は、ハザン帝国を見限りトライトロン王国のフラウリーデ女王に(ひざ)を屈したことをむしろ誇りにすら感じていた。


 そして人生の半ばを越えて本当に自分が仕えるに足る主人と巡り会えたことに目頭を熱くしていた。おそらくラングスタイン・ザナフィー将軍も同じ気持ちだったと見え、その顔には流れ落ちた涙の跡が見てとれた。


「この(いくさ)にはもう勝ったな。これで、女王の行く手を阻む暴徒の国は確実に女王の公言通り2日で確実に一掃されることだろう 」

 そうつぶやいたエーリッヒ大臣の横でラングスタイン将軍が大きく(うまづ)いた。


「さて、ハザン帝国飛行船を迎え撃つ準備の最終点検を行うか?」

・・・・・・・!

「ラングスタイン将軍は大筒を、わしは強弓と鉄砲を、ドルトスキー殿は飛行船の、それぞれ確認するとしよう。いつ何時(なんどき)発射命令が出されても実行できるようにしておいてくれないか?」


「エーリッヒ大臣殿!。それにしても今回のハザン帝国戦を機に、戦争のあり方は全く変わってしまいますな。名乗りを上げ終わる前に鉄砲で頭に穴が空いてしまう 」

「確かに、剣や弓が重宝される時代は完全に終わってしまったようだな 」


 先般、エーリッヒ大臣とラングスタイン大佐は、フラウリーデ女王からハザン帝国の侵略戦争が終結したら、剣と刀そして槍を極めたい人達のために王都街に自分と一緒に道場を作らないかと問われていた。

 フラウリーデ女王は、今回の対ハザン帝国戦を機に(いくさ)のあり方が全く変わってしまうであろうことを考慮すると軍隊などに時間のかかる剣術を教え、習得させるなどという面倒臭いことは急速に消失してしまうと考えているようだった。


 剣術家としてはいささか淋しい話でであるが、それを否定することは彼らにはできなかった。一方で剣の時代が終わってしまうことに関して、他ならぬ女王自身がその先導者であることを身を以て感じてもいたのだった。


 そのためフラウ女王の考えている市中での道場は、兵士のみを対象とするものではなく、むしろ一般市民の精神修養の一環として開かれた種類のものであった。


「精神修養か?そうですね。我々もその町道場の実現には是非とも一肌脱ぎたいものですね、、、」


 そこでは明日にもハザン帝国との戦の先端が開かれるとは思えない内容の会話が交わされていた。

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