9−21 ハザン帝国飛行船襲来への備え(1)
飛行船20機がトライトロン王国を目指してハザン帝国を飛び立つその3ヶ月前。
トライトロン王国王城においては、ハザン帝国飛行船に対抗する防御武器の最終設置に余念がなかった。王城を囲む2メートルほどの高さの防壁に高さ1mほどの丸い穴が8個 開けられている。この穴はこれまでは存在していなかったことから、今回のハザン帝国の飛行船襲来に備えて新たに改造さたものと思われた。
この8個の穴には大筒が備え付けられていた。また大筒と大筒の間には1m真四角穴が新たに10個開けられており、その穴の部分には三人がかりで引くという強弓が設置されている。
また王城を取り巻く城壁の幅は2mほどあり、その上には既に2種類の飛行船25機が係留されていた。そのうちの5機は他の飛行船と比較して1.5倍ほど大きい。その大きい飛行船が最初に完成された蒸気機関を推進機関とするものであり、残りの小さめの20機は、エンジン搭載の飛行船である。
未だ飛行袋にはガスが完全に入れられているわけではなく、少し風になびく程度の膨らみである。
ハザン帝国に潜入している秘密諜報員からのハザン帝国飛行船発進の報告があり次第、水素ガスを充満させ発射に備える計画となっている。
科学技術庁特別顧問ニーナ・バンドロンは、有人飛行船と無人飛行船の決定的な違いを改めて確認した。無人飛行船は一端方向を定めて発進させると、特に大きな風を受けない限りほぼ真っ直ぐに推進する。そのため、人間が乗って舵を取っているハザン帝国の有人飛行船がトライトロン王国からの小型飛行船を発見し、彼らが直ちに舵を切った場合には避けられる可能性が高くなってしまう。
当初の情報においてハザン帝国飛行船はトライトロン王国の飛行船の100倍位の大きさだと考えられていたが、最新の情報では50倍程度の大きさに変更されている。王城からハザン帝国の飛行船を攻撃する場合、比較的容易に撃墜可能と考えていた。実際には半分の大きさに変更されているところから、より確実に撃墜するためにはハザン帝国の飛行船がある程度王城に接近してから攻撃する必要が生じた。
当然、その分王城や王都街に被害が及ぶ可能性は高くなってくる。
攻撃特化型小型飛行船開発グループはニーナ特別顧問の指摘に、ハザン帝国大型飛行船が王国無人飛行船を発見して直ちに方向転換を開始したとしても彼らが完全に避け切る前に爆発させる方法について検討を重ねてきた。
そして多くの計算の結果、敵の視認可能範囲なども計算に入れると王城の500m程度前後が限界だろうとの結論に達した。
しかし王城から500mの距離ということになると、爆発を免れた飛行船は5分もすれば王城に到達する。最悪1機でも敵飛行船がすり抜けてきたと仮定すれば、やはり王城と王都街は火の海になることは容易に想定できた。
ニーナ・バンドロン特別顧問はその危険性を避けるために、ドルトスキー・プリエモール王国科学技術主席研究員に無人飛行船の自爆装置の製作を依頼していた。
ハザン帝国飛行船に王国の無人機が直接命中しなくても、ハザン帝国の飛行船の近くで無人機を故意に自爆させ相手の飛行袋を損傷させる、少なくとも王城や王都街に到達する前に墜落させることはできないものかとニーナ特別顧問は考えていた。
その思いが通じたのか、ドルトスキー主席研究員は無人飛行船の飛行速度に影響を及ぼさない程度の重さの爆弾を乗せ、敵飛行船の至近距離で自爆させる装置を完成させそれらの飛行船に搭載させていた。
プリエモール男爵が既にプリエモ王国において既に発明していた時計とその爆薬を組み合わせると、自爆装置は完成することになる。その自爆装置を飛行船に取り付けるには10日もあれば十分である。加えて自爆の効果を更に大きくさせるために、彼は火薬を詰め込んだ樽の中にたくさんの金属の切れ端やガラス、陶器片を混合させていた。
「それはちょっとエグイ計画ですね!」
ジェシカ特別顧問の皮肉にニーナ特別顧問は、これは戦争で、手段を選んでいては大敗してしまいますとのニーナ特別顧問の即答に、誰もが苦笑いした。
元々、ハザン帝国の大型飛行船に無人飛行船をぶっつける方法で無力化することを提案したのはジェシカ王女だった。
先程ニーナ特別顧問から改めて無人飛行船の欠点を指摘されてはいたが、ジェシカ王女も日頃の忙しさに十分この欠点を修正する指示は出していなかった。それでもニーナ特別顧問とドルトスキー主席研究員との間ではその対策に関する最終結論は出ていたようである。
「そうなると、できることは全て実現したことになりますね。あとは実践あるのみ、、、 」
ジェシカ王女がそう呟いた。
いよいよ開戦まで三ヶ月となった。
ハザン帝国の有人飛行船の実態がより明確となり、自分達の考案した無人飛行船の利点と欠点とを最終的に洗い出していた。
元々飛行袋にヘリウムガスを選んだのは飛行船が燃えないためであった。それは、飛行船に人が乗ることを前提に、乗組員の安全を考えてのことであった。しかし、トライトロン王国の飛行船は人を乗せるためのものではない。
乗組員が乗っていないとしても、飛行船にふさわしくない『 水素ガス 』を満杯することには若干の抵抗があった。しかし現実は戦争なのである。無闇に同情すると、自国の兵士や王都民が被害を受けることになる。一旦戦争が始まると、平和時の人道的理論など所詮甘ったるい感傷に過ぎなくなってしまう。
実際ハザン帝国の飛行船の近くで水素ガスを満載したトライトロン王国の飛行船を爆発させたとすれば、ハザン帝国の飛行船をはほぼ確実に巻き込んだ大爆発が起こることになる。
トライトロン王国の無人飛行船それ自体は、これまでにこの世界では考えられたこともない強力な爆弾となってしまう。しかもその飛行船が自爆装置を搭載しているとなると、悪魔の兵器と呼んでも過言ではなかった。
ジェシカ特別顧問とニーナ特別顧問は、これでハザン帝国飛行船の迎撃体制は完璧になったと確信が持てたものの、浮かない顔をしていた。




