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龍神の異名持ち女騎士と呪術師卑弥呼  作者: はたせゆきと
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9−20 開戦の火蓋(ひぶた)

 1ヶ月もしないで完全な夏期に入ろうとしている日の夕方、ハザン帝国に潜入しているトライト・オニール大佐からの速文が入った。


 本日、10時にハザン帝国の大型飛行船20機がトライトロン王国に向け飛行を開始した。旗艦(きかん)と思われる飛行船にはココナ・リスビー ハザン国上級大将が、もう1機の準旗艦にはクラウス・トロント戦略兵器開発担当上級大将が乗船している模様。


 飛行船1機につき、操縦兵二人を除き、焙烙弾投擲のための兵士が25人、兵士一人当たり4個、飛行船1機で合計100個の焙烙弾を搭載。従って、飛行船20機で計2,000個の焙烙弾が搭載。飛行速度と風速から想定して、明日の夕方に王城付近に接近の予定。


 無駄な内容は全く記載されておらず、必要とされる事実のみが記載されていた。

「さすがに、グレブリーが最も目をかけていた部下、報告に無駄がない。にも関わらず、我々が必要とする情報は完璧に記載してある 」


 フラウリーデ女王はトライト大佐の報告内容を確認すると、エーリッヒ第一軍務大臣及びジークフリード・スタンフォード王国公安省大臣を呼ぶと、その速文を見せた。

 

「いよいよ来ましたか?この度のトライトロン王国への飛行船による侵攻、恐らくハザン帝国は片道切符で戦いを挑んでくることになるだろうな 」


「エーリッヒ・バンドロン大臣、ジークフリード大臣!(けい)等は今回のハザン帝国の戦略をどうみてる?」


 エーリッヒ大臣 は、もしも自分がハザン帝国の総大将を任せられていたと仮定すれば、陸と空の両面からの攻撃を無理にでも考えたはずだと報告した。 ジークフリード大臣もエーリッヒ大臣と同様に考えていた。例え陽動であっても歩兵5,000名程をあらかじめ進軍させておきたいと、、、。


 ジークフリード大臣の相槌(あいづち)に、フラウ女王は笑いながら、そう言う結論になるよな普通であればと断言した。そのことから今ハザン帝国においては普通ではない判断を敢行(かんこう)せざるを得ない事態が起きているということが想定された。


 恐らく、歩兵部隊を動かせない程財政が逼迫(ひっぱく)し、兵量米が枯渇(こかつ)しているなどの、、、。

 

「女王様の推論で間違いないかと、、、」

 王国公安省でこれまでに集められた情報でも、ハザン帝国の一般市民に於いては、1日1食分の食料しかないとの調べはついていた。その中で5000名の歩兵軍を動かすとなると、市民2万人分の食糧に相当する兵量米を必要とする。


「確かに!私は戦争賠償金の交渉で自分がとても甘かったと後悔している。もっと(しぼり)り取っておけば、再び侵攻などの不遜(ふそん)な考えは起こさず、少しは民に食料が回ったかもしれないな 」

 

 実際にはその程度で翻意(ほんい)するくらいの国であれば、トライトロン王国攻めなど最初から考えにも及ばなかったはずである。


 元ハザン帝国総大将エーリッヒ大臣のその言葉に、フラウリーデ女王は深いため息をつきながら、今回の戦でハザン帝国を完全に滅亡させてみせると明言した。


 フラウ女王はこれまでのハザン帝国をみながら、軍部の粛清(しゅくせい)もさることながら、ハザン帝国を国民に解放する必要が急務ではないかと考えていた。

 実際ハザン帝国を自ら統治するところまでは考えていないかったが、少なくとも、今のハザン帝国の首脳陣と軍部はどうしても許すことができないと考えていた。


 そして女王は決断した。ハザン帝国の全てを解体し、最初から作り直すことを、、、。必要に応じては、シンシュン国を巻き込んででも、、、。

 ハザン帝国とシンシュン国では市民の顔が全く違う。少なく共ハザン帝国の市民に笑顔は無く、誰もが悲痛な顔をしていた。子供達さえそうだった。


「まあ、何れにしてもそれは勝ってからの話だがな。早速、首脳陣を集めてくれないか? 」



 一方、ハザン帝国の上級大将ココナ・リスビーは、飛行船に作られた艦橋(かんきょう)から前方を見つめていた。飛行船は地上100m辺りを順調にトライトロン王国に向かって飛行を続けていた。


 もし前回のトライトロン王国攻めの時、飛行船が完成していたと仮定したら、陸と空からの攻撃で、或いは勝利できたのかもしれない。

 しかし歴史に『 もしも 』はない。


 ココナ上級大将は、上空から見える広大な砂漠を目で追いながら、そう(つぶや)き、自嘲(じちょう)気味に笑った。

 そして思い直したように、 明日の夕暮れまでには王都に着く。これでトライトロン王国は火の海になると誰にとはなくそうつぶやいた。


 彼の目には王城と王都街が火の海になり、逃げ惑う市民や兵士の姿が次々と現れては消え、消えては現れていた。

 

 一方で彼は、そう長くしない内にハザン帝国はどうせ内乱で滅亡する予感を持っていた。


「どうせいずれ滅亡するなら、今のうちに精一杯派手に立ち回り、必ずやトライトロン王国を道連れにしてやる、、、フフフ 」


 今のココナ・リスビー上級大将の顔は何かに取り()かれたように(ゆが)んでいた。ハザン帝国は、『 国家と市民の命 』を賭け金として、ほとんど勝てる希望のない丁半博打(ちょうはんばくち)に打って出ようとしているようにも思えた。


 今、彼の脳裏の中には、王城と王都街が燃え上がっている光景だけが浮かんでおり、飛行船が無力化される可能性については全く頭の中には無かった。


 有史以来の戦争のうち、幾つかはこのように独断と偏見に満ちた一独裁者が己の保身や自己満足のために引き起こされたものがある。

 例え、それが一部の気狂いじみた執着心の持ち主によって引き起こされた戦争であったとしても、一旦、戦端が開かれてしまうと多くの民がその自己満足の犠牲者となってしまう。


 今回のハザン帝国のココナ上級大将のような場合がそうなのであろう。自分の虚栄心を満足させるために、戦端を開くかどうかの極めて重要な判断材料を軍部の上層部に伏せたままトライトロン王国攻めを決定させてしまっていた。


 実際のところ、正確な情報をありのままココナ上級大将が伝えていたとしても、多少の時間の誤差はあったとしても、結局のところはトライトロン王国を攻める作戦の完全中止はあり得なかった可能性は高い。要はそれしか方法が残されていなかったのかもしれない。


 前からは近代的な兵器大筒や鉄砲を持ったトライトロン王国という強大な獅子(しし)、背後からは完全に飢え切った大量の庶民という狼たち、、、。


 勿論このような状況下に追い込んだのは、ハザン帝国軍上層部なのであろうが、この運命は5年前にハザン帝国がトライトロン王国に侵略戦争を仕かけた時点でもう定まっていたのかもしれない。


 今ここに至っては、この世界の神様が介入したとしても結果が(くつがえ)ることはないと思われた。

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