9−19 フラウリーデ女王とグレブリー侯爵代理
グレブリー・シュトライト侯爵代理が、ラウマイヤーハウト・リンネ侯爵家に入って最初の仕事が、シュトクハウゼン・ゼークスト侯爵領とハザン帝国への諜報員の派遣であった。
1週間程前にその彼が予定外に帰郷してきた。そしてハザン帝国の侵攻が秒読み段階になったことを緊急報告した。
「ほう、グレブリーの調査網でも同様の報告が上がってきたのだな 」
グレブリー侯爵代理の派遣した諜報員は、ハザン帝国駐在の諜報員ジェラード・ハウプトとも知己であったようで、時々情報交換を行っていた。そしてジェラード諜報員が、つい先日事務所を畳んで王国に引き上げたことも確認していた。
「相変わらず、グレブリーは早耳だな!」
フラウ女王はついこの間、王国公安省のトライト・オニール大佐とリモデール・レーニン大佐に数人の部下を付けハザン帝国入りさせたばかりであった。
「女王様こそ食えないお方ですな!」
グレブリー侯爵代理は、フラウ女王の二人のハザン帝国への隠密的な派遣にピンとくるものがあった。戦争が今にも開始されそうなこの時期に彼らを惜しみなく投入した真の理由をグレブリーならではの感で嗅ぎ取っていた。
「どうやら、ハザン帝国を完全に無力化させる考えであの二人を派遣したようですな。あの二人なら必ず女王様の意を汲み取って上手く動いてくれるはず。成功の暁には彼等の功に、、、」
「相変わらず、図々しい奴だな。考えておこう!」
女王はそう答えたものの、本心はそこまで行かないでハザン帝国が翻意してくれることを望んでいた。しかしこれまでのハザン帝国の動向から見る限り、それも難しそうな可能性が高かったために彼らを派遣していた。
フラウリーデ女王は挨拶がてらの四方山話はこれで終わりとばかりに、今日は別件で王城に来てもらったと、本題の話を始めようとした。
「ゼークスト公爵家のことですな!」
「さすがに読みが早いな!」
フラウ女王はハザン帝国戦を3日で終わらせるつもりだったが、その混乱時に乗じてゼークスト公爵家から後背を突かれる可能性について危惧していた。
リンネ侯爵もグレブリー侯爵代理も、ハザン帝国侵攻の混乱を利用してゼークスト公爵家が王都攻めを引き起こす可能性については可能性が高いと考えていた。
しかしもしゼークスト公爵家が、王国攻めを敢行すると仮定すれば、必ずリンネ侯爵領を通過することになると思われる。勿論、迂回するルートもあるのだが、その場合不意を突くという状況にはならない。
王家が入手している情報では、公爵家では、最近可成り強力なダイナマイトとよばれる爆弾が開発されているとの確実な情報を入手していた。フラウ女王はその公爵家の爆弾は決して侮れないと判断していた。
「確かに、その情報ならばシトレース諜報員から我々も聞いております。 残念ながら、今わが侯爵家が持っている武器では恐らく太刀打ちできないと見ています 」
「そうなると、侯爵家の私兵の多くに死傷者が出ることになる可能性が高いな 」
「しかしたとえそうであっても、侯爵家の領内をゼークスト公爵家の兵士が素通りするのに黙って見過ごす訳には行きません! 」
今、王国では大筒5門、二連発鉄砲50丁、爆薬付き強弓100丁を追加製造を最優先で進められていた。フラウリーデ女王はそれらの武器が完成次第、侯爵家に無償で提供するつもりでいた。
「リンネ侯爵殿!グレブリーの婿入り道具として受け取ってくれ。癖の強い部下を押し付けたせめてもの私からの償いだ 」
「償いだなんて、幾ら何でもあまりの言いようではありませんか?それではよっぽど私が問題児みたいじゃないですか?」
また、ここで戦争前とは思えないような二人の掛け合いが始まった。最初の内は、この掛け合いをハラハラしながら聞いていたリンネ侯爵とマリンドルータであったが、最近は慣れたもので、中の良い友達同士のじゃれあいであると理解し、笑いながら聞いていた。
「違ったかな!ダナン砦のグレブリー大佐と言えば、王国では知らない者はいない放蕩者で有名であったと思うが、、、」
「もう、女王様とは話したくありません 」
「怒ったか!しかし貴族となっても昔と何も変わらないそんなグレブリーが私は好きだ、、、」
フラウリーデ女王とグレブリー侯爵代理のやり取りを聞いていたリンネ侯爵とマリンドルータは、既に慣れていたと思っていたのだが、話の急展開に呆気にとられ目を白黒させていた。
そして、この二人が強い友情関係で成り立っていることが理解できた。そう、フラウリーデ女王にとって唯一軽口を叩き合える相手のグレブリーは、女王に大きな活力を与えていた。
フラウ女王は真顔に戻ると、王城内で大筒、鉄砲加えて爆薬付き強弓の試射の準備ができているので、早速一緒に見に行こうと三人を誘った。そして試射会が終了したら、帰りに大筒1門、鉄砲5丁及び強弓10丁を持帰り、明日からでもその使い方について兵隊の訓練を始めるようにと命じた。




