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龍神の異名持ち女騎士と呪術師卑弥呼  作者: はたせゆきと
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9−16 フラウリーデ女王の狙い

 フラウリーデ女王は、ジェラード・ハウプト秘密諜報員からのハザン帝国飛行船の最終準備体制に入ったとの情報を受けると直ちにジークフリード・スタンフォード王国安全省大臣にトライト・オニール大佐とリモデール・レーニン大佐をハザン帝国に潜入させるように命じた。

 二人は女王から必要に応じハザン帝国中央政府の軍の要人を抹殺する密命を受けていた。その実行に関しては二人の判断に任せるという内容であった。


 フラウ女王がジークフリードに下したこの命令は、フラウ自身がハザン帝国への勝利以外の選択肢を持っていないことを明確にしていた。また彼女はこれを期にハザン帝国を解体し、軍備を持たない国に生まれ変わらせようという考え方を持っていた。


「さてと、2ヶ月後にハザン帝国の王都攻撃があると仮定して、それまでに使用可能な迎撃武器の完成状況について報告願いたい。まず、科学技術庁長官リーベント・プリエモール男爵殿からお願いする 」


 今回のハザン帝国戦に関する限り、プリエモール男爵科学技術庁長官グーループの主要発明品の蒸気機関車及び自走車についてはハザン帝国の飛行船迎撃武器としての機能を全く持っていなかった。

 しかし蒸気機関を推進機関とする5機の無人小型飛行船及びその後に推進機関をよりコンパクトにしたエンジン付き無人小型飛行船20機については、ハザン帝国の飛行船迎撃のために特化されて発明された攻撃兵器であり、既に何時でも飛び出せる戦闘準備段階に至っていた。

 そして、現在更にあと5機の飛行船を試作中で、2ヶ月後には使用可能になるだろうと、プリエモール男爵は白い髭をしごきながら報告した。


 続けて、ドルとスキー主席研究員から遠眼鏡の量産の結果と用途別の遠眼鏡の種類についての説明が行われた。現在、遠眼鏡には3種類あって、一つは大筒に取り付ける所謂(いわゆる)大型照準器が10個、小型の2連発鉄砲に付ける小型照準器が100個、王城の監視網に利用する小型遠眼鏡が20個、王城の歩哨兵(ほしょうへい)に持たせる遠眼鏡がそれぞれ10個あることを告げた。

 設置の必要なものについては全て取り付けが終了し、いつでも使える状態にあった。


「分かった有難うプリエモール男爵殿にドルトスキー殿!感謝しています 」

・・・・・・・!

「次にサンドラ・スープラン長官!大筒と2連発鉄砲それに、小型爆薬付きの強弓に関し、今後二ヶ月間での完成予想について教えてくれないか?」


 今回のハザン帝国飛行船攻撃の迎撃武器に関しては、リーベント・プリエモール男爵が実用化した小型飛行船を除くと、サンドラ化学技術庁長官による功績が大きい。

 実験室の爆発や小規模のボヤ騒ぎ数回を経験して、今では火薬の取り扱いに関しては他に例を見ない程の第一人者となっていた。


 今、トライトロン王国の存在するこの世界を全部見える者がいたとしたならば、火薬を本格的な攻撃用の武器として完成させているのは、このトライトロン王国だけだと報告したであろう。


 それでも王国内では、ほぼ時を同じくしてゼークスト公爵家において、天才化学者ナダトール・ゼークストが、後にダイナマイトと呼ばれるようになった強力な爆弾を発明していた。

 そのダイナマイトに関する情報を入手したサンドラは、ハザン帝国撃退後の第一テーマとしてダイナマイトの産業用としての実用化を計画していた。


 そんなサンドラ・スープランがこれまでに完成させた大筒が10門、2連発鉄砲が50丁、爆薬付き大弓が100丁で、後二ヶ月で完成予定の防御兵器として更に大筒が5門、2連発鉄砲が100丁、爆薬付き大弓が200丁を予想していると報告した。


 これで、ハザン帝国からの飛行船攻撃に対応可能な防御兵器に関する準備は万端と見られた。フラウリーデ女王はハザン帝国を迎え撃つに当たって何か抜けがないか再度確認した。


 エーリッヒ・バンドロン大臣は元ハザン帝国の将官、ハザン帝国がもし負け戦になった場合の帝国首脳がとる作戦に関してはおおよその推測はできていた。

 飛行船からの攻撃ではとても勝ち目がないと判断した場合、ハザン帝国首脳部は焙烙玉に火をつけて、飛行船に乗っている兵隊諸共に王城に突っ込ませることについても何んの躊躇(ちゅうちょ)も示さないと考えていた。


「飛行船1機に50人の兵隊が乗っているんだぞ。味方の兵士を犠牲にしても王城に突っ込んでくるというのか?」


 200個の焙烙弾を抱えた飛行船が王城に肉弾攻撃してきた場合、王城や王都はたちまちのうちに火の海となってしまい、仮りに戦に勝ったとしても戦後の復興に防御兵器開発費用の何十倍もの復興資金が必要となってしまう可能性が高かった。


「確かに有り得るな。ハザン帝国には逆さにしても金が出てくる状況ではないだろうから、(いくさ)には勝ったとしても、王国が必要とする復興資金はほとんど手出しになるということなのだな 」


 ハザン帝国では人の命は使い捨ての弓の矢と同程度と考えられていた。今回の攻撃の総指揮は、恐らくココナ上級大将がその任に当たるはずである。そうなると、その可能性がほぼ確実だと感じられるのだった。


 フラウリーデ女王は、色の悪い薄い唇のココナ・リスビー上級大将の顔を思い出しながら、不快そうに少し身体を震わせた。


 王国安全省ジークフリード・スタンフォード大臣は、今回の戦に限ってはハザン帝国の殲滅(せんめつ)か、王城・王都街の壊滅かいずれかの選択を迫られることになるだろうとフラウリーデ女王に念を押した。


「エーリッヒ大臣やラングスタイン将軍の時のようにはいかないということだな。もうハザン帝国には跡がないということか!分かった(しか)と肝に命じておこう。もうその覚悟は既にできている 」

 

 事実、フラウ女王はそのために既にトライト・オニール大佐とリモデール・レーニン大佐をハザン帝国に既に潜入することを命じていた。必要に応じ、総裁とその取り巻きの戦争擁立派を全員抹殺してでもこの戦を終わらせるつもりであった。


 そして、勝利の暁にはハザン帝国をシンシュン国の属国とおしつけることになったとしても、それはそれでやむ負えないとさえ思っていた。


「申し訳ありません!出過ぎたことを申しました。女王様はもうそこまで考えておられたのですね。先の戦から未だ2年しか経っていないのに、そのような広大な戦略的構想をお持ちだとは、、、」


「エーリッヒ大臣!私を幾ら(おだ)てても大臣以上の出世は望めないが、、、少なくとも王族を除けば、最高職だからな、、、」

「申し訳ございません。私としたことがくだらない戯言(ざれごと)を申しました。どうかお許し願いたい 」


 大方の考えが、出席者の中から出尽くしたと判断したフラウ女王は詮議の閉会を宣言した。


 そしてジェシカ、ニーナ両特別顧問及びリーベント男爵に、蒸気機関車のレール敷設の件で話を聞くために、そのまま残るようにと命じた。

 ジェシカ王女は、ハザン帝国の侵攻が二ヶ月後に迫っているこの段階において、レールの敷設実施等あり得ないとのではと、女王の考えに疑問を呈した。


「ジェシカ!それじゃーホッテンボロー殿との結婚式が延びても構わないと思っているのか?」


「そうではありませんが、、、」

 

「よーく考えて見てくれ。ハザン帝国との飛行船襲撃戦の最中に、一方ではハザン帝国と戦争と全く関係のない蒸気機関車開通のために大掛かりな工事をしている状況を、、、」

「えっ!良く理解できませんが?」

「ハザン帝国は元より王国貴族連合の皆んなの目にはどういう風に映るのかな?」

  

 フラウ女王の考えには三人とも度肝を抜かれてしまっていた。トライトロン王国がハザン帝国からの猛攻撃を受けている最中でも戦争と無関係な蒸気機関車用のレールを敷いていることが知られれば、ハザン帝国にしろ王国貴族連合にしろ嫌でも王国の底力を認めざるを得なくなるはずとの考えに。

 別の言い方をすれば、トライトロン王国がハザン帝国や王国の貴族連合に故意にそのような情報を漏洩すれば、彼らに与える影響は決して小さくはないであろう。

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