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龍神の異名持ち女騎士と呪術師卑弥呼  作者: はたせゆきと
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9−14 ハザン帝国の飛行船最終準備(1)

 時は2ヶ月前に(さかのぼ)る。

 ハザン帝国の上級大将ココナ・リスビーは、諜報員達から得られたトライトロン王国の最新情報を得た翌日、ハザン帝国総裁ジェームス・リーバン、将軍ザナトリス・バーン及び戦略兵器開発担当上級大将クラウス・トロントとトライトロン攻略戦の時期と方法について詳細な取り決めを行っていた。


 もし、ココナ上級大将がサリナス・コーリンからの報告を詳細に検討した上で彼らに情報伝達していたならば、場合によっては攻略日程の変更が真剣に検討されたかもしれない。

 しかし彼はサリナスからの報告の肝心な王国の兵器開発に関する情報の重要な部分を省いて彼らに説明していた。


 特に射程距離の長い大筒(おおづつ)鉄砲(てっぽう)が王国で既に実用化の段階に至っており、今回の作戦においては使用される可能性が極めて高いことについて彼は、一切触れなかった。


 むしろハザン帝国で既に実用化寸前となっている中型の飛行船よりもかなり小型の攻撃用飛行船がトライトロン王国においても完成間近の状態であるので、その完成前に王城と王都街を完全に殲滅(せんめつ)すべきだと主張した。


 トライトロン王国の攻撃特化型小型宇宙船が十分に完備された場合、資源及び国庫保有財源の関係で太刀打ちが難しくなるであろうという軍中央部の弱みにつけ込んだ主張であった。


「ココナ上級大将!(けい)はそう言うが、もしサリナスの情報に誤りや不足があって、トライトロン王国において既に我が帝国の飛行船への対抗武器が完成していた場合、我々は滅亡の危機に陥ることになるが、その時には一体どう責任をとるつもりなんだ?お前の首をもらったところで何の役にも立たないのだが 、、、」


 ザナトリス・バーン将軍は長く生やした顎髭をしごきながら、ココナ上級大将を(にら)みつけた。


 ココナ上級大将はザナトリス将軍の避難をものともせず、ジェームス・リーバン総裁に直接、今回の飛行船によるトライトロン王国侵攻の総大将を自分に任せてくれるように願い出た。必ずや王城と王都街を廃墟にして帰って参りますと付け加えながら、、。


 ザナトリス将軍は、” フン ” と明らかに二人に聞こえるをうに鼻を鳴らした。


 ハザン帝国は、今度の飛行船襲撃による費用を捻出したら、ハザン帝国の国庫はほぼ底をついてしまう。増税するにしても続く飢饉で税金どころか既に餓死者すら出ていた。いわゆる待ったなしの状況であることには変わりなかった。


 加えてシンシュン国とトライトロンへの戦争賠償金の支払う時期を半年後に控えているが、既に国庫は完全に破綻していた。つまるところ他に選択肢が無いために、ココナ上級大将の作戦を認めざるを得なかったという内輪事情もあった。


 ジェームス・リーバン総裁の低い唸り声が会議の席上を震撼とさせたが、ココナ上級大将はその真意を知られないように、慌てて話を変えた。


「戦略兵器開発担当上級大将クラウス・トロント!トライトロン王国の攻撃兵器開発状況について、どう考えてる?」


 クラウス・トロントは、トライトロン王国は乾燥地帯であることから、爆薬の主原料となる硝石(しょうせき)が無尽蔵に手に入ると読んでいた。それ故、トライトロン王国が爆薬を既に完成しているか、完成寸前であるはずだと主張した。


 彼の本音の部分ではもう少しトライトロン王国を詳細に調査すべきだと言いたかったのだが、ココナ上級大将の激昂(げっこう)している顔を見ながら遠慮がちに、時間が我々に味方するかあるいはトライトロン王国に味方するかは、これまでの情報では判断不可能ですと言うに止めた。


 ジェームス・リーバン総裁は、ココナ上級大将の報告から推測するに正に勝敗は五分と五分、時間がハザン帝国に味方するのも五分。後は、わしの決断のみかと呟いた。


(けい)もココナ上級大将と同じ考えか?卿にも飛行船に乗ってトライトロン王国の攻撃を命じることになるが、それで構わないな 」


 クラウス・トロント上級大将は、今首都の上空に浮かんでいる飛行船は、自分の長年の研究の成果だと考えていた。

 そこで飛行船の威力、欠点については自分の目で直接確認するためにも一緒に出撃したかった。また、万が一、飛行船に不具合が生じ場合でも自分であれば、あるいは対処可能かもしれないとも考えていた。


 四人の間にしばらく沈黙が流れたが、ジェームス・リーバン総裁は意を決した様に予定通り飛行船による攻撃を決行すると命じた。


 総裁の攻略決行が下された翌日から、ハザン帝国の首都付近にはトライトロン王国侵攻の噂が立ち始め、どこに隠して建造されていたのだろうかと思われる程の大きな飛行船が空中に浮かび、にわかに街全体が(あわ)ただしくなり、たちまち戦争一色に染まり始めた。

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