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1−30 フラウリーデ王女の作戦 

 翌日の軍議の席上、召集された責任者達は当初フラウ王女の提案に(うなづ)きながらも具体的な想像が及ばないせいか、若干荒唐無稽(こうとうむけい)と受け取られたようである。

 併せて普段の『 龍神の騎士姫 』からは考えにくい奇策(きさく)過ぎるようにも感じられたのも確かだった。


 第二将軍のジェームクントは、

 ” フラウリーデ王女様が先陣を切られれば 、、、”

と言い(よど)んだ。


「皆の者!少し冷静に考えてほしい。私や将軍や騎兵が仮りに一騎当千(いっきとうせん)猛者(もさ)と仮定してもだ、、、敵軍の数からして我々は何回出撃すればいいと思うか?疲れを癒している間に敵軍は城内に雪崩(なだ)れを打って侵入してくるだろう 」

 

 卑弥呼の受け売りであるが、非難の声はなく皆は静かにフラウ王女の次の言葉を待った。フラウは、扉の外に居る近衛騎士を呼び、予め用意してあった黒い水入った桶を持って来る様に命じた。

 そして、円卓の真ん中に設置させた。


 そして少し時間を置く為に、フラウ王女はシンシュン国との不可侵同盟を結ぶためにクロード近衛騎士隊長を特使として派遣していることを話し始めた。そしてその同盟のハザン帝国に与えるであろう影響などを交えながら、、、。

 同盟といっても、シンシュン国に実際に派兵してもらうわけではない。この戦いに彼らが直接手出しをしないため、王国独自の作戦が遂行可能となり、こちらの作戦を知られずにすみ、シンシュン国から万が一にも裏切られる可能性もない。

 

「いくら同盟を結んだとしてもシンシュン国自体無条件に信用できる国ではないし、チャンスとあらば寝首(ねくび)()く可能性すらある 」

 スチュワート摂政がボソッとつぶやいた。


 フラウ王女は更に話を続けた。


「今回、シンシュン国はハザン帝国を浮き足立たせるためだけに利用しようと思っている。摂政殿のこれからの情報戦次第では色々な効果が期待できるかもしれない。そうですね!摂政殿、、、」


 フラウ王女は、さてと言いながら、話を本題の黒い水に戻した。

 そして衛兵に火の付いた松明(たいまつ)を持って来させ、それを受け取ると、自ら円卓のテーブルの中に入り桶の蓋を開け、火を近づけた。


 黒い水の入った桶は一瞬の間を置いて大きな爆発音を立てて炎と黒煙を高々と上げながら燃え上がった。詮議上の高さは優に20メートルはある。黒い油の火柱はその中程まで上がっていた。詮議参加者全員の顔は(ほお)けたようになっていた。


 この時、周辺諸国を含めた諸国に先駆(さきが)けてトライトロン王国において、ここれからの世界を大きく変えてしまう戦争用の兵器としての可能性を秘めた石油が使用されようとしていた。


 この黒い水が爆発的な音を立てて燃え盛り、ハザン帝国兵が後退した隙を狙い、最も兵が薄くなった本陣を目掛けて中央突破を図りフラウの指揮する突撃隊で敵の将軍を討ち取る作戦について説明した。


「皆の者に願いがあるのだが、勝利を確実にする為に更にもう一つ策が欲しい。奇策でも何でも構わないから。次回、明後日の詮議までに考えておいてくれ 」

 

 フラウ王女は、第三将軍に黒い水を配置するための溝の工事を早急に進める様に提案した。

 そして、

「見取り図と使用目的はしっかりと確認したはずだな。どれ位の時間が必要だ?」

と尋ねた。

 メリエンタリー第三軍務大臣は、自信たっぷりの声で三日くださいと答えた。

  

「それにしても、フラウよ!城内の詮議場内で石油に火を放つなど、良く思い切ったことをしたものよのう。一歩間違えば城が燃えてしまったかもしれないというのに 」

 実際はフラウ王女の中に卑弥呼の精神体が存在している為、ジェシカ王女との黒い水での実験のことは知っているはずであるが、卑弥呼は確認するようにフラウ王女に語りかけたのだった。


「実は、妹のジェシカに教えてもらいました。効果的な演出方法を 」

「どうやらわしの出番は無かった様じゃが 」


 卑弥呼はとても上機嫌で笑っていた。卑弥呼の実体がここに居たら、頭をブンブン振り回して喜んでいそうな気がして、フラウ王女は声をたてて笑い、詮議上を後にした。

 途中ニヤニヤしているフラウ王女を見て、近衛騎士が怪訝(けげん)な顔しながら敬礼した。


 フラウ王女は、久々に戦場とは異なる種類の高揚感(こうようかん)を味わっていた。その感覚は戦場で覚えるそれとは異なり、精神的な疲労が一時的に脳内を麻痺させてしまう麻薬のようにも感じられた。

 それでもそれは決して不快な物ではなく、時間が経つにつれて少しづつ喜びに変化していった。


 これまでの戦場での戦いはいわゆる、基本1対1の戦いであった。そのため、剣に自信のあるフラウ王女にとっては、一太刀(ひとたち)一太刀ごとに自分の出来栄えを確認することができたが、それでもその高揚感は一瞬の内に霧散する。


 もちろん相手が好敵手であればあるほど、その高揚感は長続きするが、いずれにしてもそれはあくまでもその場限りのものである。どちらかが倒れてしまうとそこで全てが終わってしまう。


 フラウ王女自身は、一時的ではあっても剣による制圧の方が自分の性分(しょうぶん)には合っていると思っている。それでも、剣のみではどうしても解決できない戦も存在していることを今回彼女は知ってしまった。


 今後は単なる刀と刀が、力と力がそのままぶっつかる様な単純な戦さは急速に少なくなるとも考えられた。


 また国同士が仲が悪いから戦争となるということより、要因が明確にならないままに戦争にまで発展するような事態さえ生じるような予感をフラウは漠然(ばくぜん)と感じていた。

 例えば、黒い水を求めての争奪戦だとか、、、

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