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1−29 黒い水作戦

 ジェシカ王女の頬に軽くキスをすると、自分の部屋にもどり再びハザン帝国兵を城に攻め込ませないための具体的な方法を考え始めた。あれ以来、脳内の卑弥呼は沈黙を保っている。恐らく、フラウ王女が自ら結論を出すのを待っているのだろう。


 フラウ王女は自分がハザン帝国の総大将で、3万の兵を率いて、トライトロン王城を攻めるとしたらどう布陣するかを考えていた。3万の兵の数といえば城の砂漠側の城壁をすっかり囲むことに十分な数である。そうなると、南の城門を中心に大きく取り囲む様に布陣するだろうと考えた。当然のことながら本陣は半円形に布陣した門から最も遠い中央部分の奥に設置することになるであろう。


 砂地に(みぞ)を掘り、その中に黒い水を流し入れ、そして溝にきっちりと隠し蓋(かくしぶた)をして、その上に砂漠の砂を(かぶ)せておくと、黒い水から徐々に燃えやすい成分が大量に発生し、その発生した何かに火がつけば、大きな爆発音と共にに炎と黒煙が吹き上がるはずである。

 フラウ王女は、ジェシカ王女の実験のお陰で黒い水の効果的な火の付け方が明確に想定できていた。


 実際には、中央部分の本陣近くを可能な限り大きく削りとるためにどのような溝をどのように掘るのがより効果的かを考える必要があった。

 それで最初に逆V字に溝を掘ることを考えてみた。しかしその場合、掘った溝のV字型の先端部分よりも更に後方に本陣が置かれていた場合、兵士達の混乱は本陣までは届かない。その結果、本陣のある中央部分の兵力を大幅に削り取る効果はほとんど期待できないと想定できた。


 業火(ごうか)が本陣のほぼ近くまで到達して初めてフラウ王女の考えている中央突破の作戦は成り立つ。V字の先端より更にその先迄直線の溝を敵の本陣に向けて掘り進める。つまり逆Y字型の溝を掘り、その中央部分の交点を狙って火矢を放ち着火させると、中央部分から敵軍に向かって3方向に音と炎と煙が走ることになる。


 ハザン帝国軍はまずその爆発音に驚き、次にその燃え上がる炎に(あぶ)られ当然のように逆Y字の外側に分散する結果、本陣が剥き出しになっていく光景がかなり明瞭に想定可能となった。

 この方法だと、南の城門全域に敵兵の侵入を許すこともない。仮りに一部の猛者(もさ)が火を飛び越えて溝を渡ってきたとしても単騎であり、城を守る兵士達だけで十分に殲滅(せんめつ)可能となる。


 炎が少し衰えた頃をねらい、敵本陣が少しでも確認できた時点で『 竜神の騎士姫 』率いる少数精鋭騎馬隊での中央突破をはかる。この方法なら、自分を含め数百騎でも敵の総指揮官を討てる、、、おそらく。


「どうやら、考えがまとまったようじゃのう。フラウ!必要なら、敵の陣形を自分が戦いやすいように、相手が気づかない内に変形させる。それが戦術であり、戰巧者(いくさこうしゃ)というのじゃ 」


 フラウ王女は自身の剣の強さに少し頼り過ぎていたような気がしていた。確かにこれまでの戦いのように少数対少数の戦いでは、それで十分だったのかもしれない。しかし今回の様な想像を絶する大群で攻め込んで来られた場合には、数人の『 剣神 』が存在していたとしても焼石に水であろう。


 フラウ王女はこれ迄、自分が戦ってきた中で一番自分の無力さを感じていた。それでも真剣に考えれば、それを突破する何がしかの方法が生まれてくる可能性を今経験した。これを機に、彼女は戦略・戦術思考に目覚め始める。


「本来戦争の基本は、より多くの兵で少ない兵を叩く。それが常道なのじゃ。フラウもいつまでも一騎当千(いっきとうせん)というわけにはいかんじゃろうて 」


 今まで力ずくで敵を退けてきたフラウ王女の中に徐々にではあるが戦略的思考が芽生えつつあることに卑弥呼は喜びを感じていた。そしてなぜか邪馬台国(やまたいこく)姫巫女(ひめみこ)の切れ長の大きくて黒い瞳の白い顔をフラウに重ねて見ていた。


 二人の顔は決して似ているわけではなかったのだが、、、


「ところでお義姉様、火はどのようにしてつけるつもりでしたのでしょうか?」

「ああ、そのことか!わしなら、そうじゃのう!呪術(じゅじゅつ)を、、、」

 途中まで言いかけて卑弥呼は言い(よど)んだ。


 卑弥呼の呪術能力は、トライトロン王国のあるこの世界では異端(いたん)である。フラウ王女がその呪術を使用した場合、やがて畏怖(いふ)され、その結果、異端者(いたんしゃ)扱いとなる可能性は否定はできなかった。

 卑弥呼はフラウ王女にもう少し考えるように言い、不測な事態が生じた場合にのみ自分が介入しようと考えていた。

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