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1−27 戦略会議(2)

 卑弥呼(ひみこ)はフラウ王女に、彼女が過去に戦った(いくさ)において、敵兵の数が最も多かった時のことを聞いてきた。

 フラウリーデは自分が過去に鎮圧した戦を思い出していたが、せいぜい数千名というところだった。卑弥呼は、たかだか数千名の兵士であれば、一騎当千(いっきとうせん)騎士姫(きしひめ)とクロード近衛騎士隊長の知恵と剣の腕を併せれば、不可能ではないと考えていた。


 今回のハザン帝国侵略軍は三万という数的に圧倒的に凌駕(りょうが)している。かりに王国内に一騎当千(いっきとうせん)猛者(もさ)が10人居たとしても、立て続けに3〜4回の連続出陣を強いられることになる。

 フラウ王女はそこまでは思い至っていなかった。7,000名対30,000名が相対する戦の模様がフラウの頭の中では未だ明確には描ききれていなかった。


 卑弥呼は中央突破の作戦において、絶対にやってはいけないことについてフラウ王女に指南(しなん)し始めた。

 敵軍の数が圧倒的に多い場合、幾ら精鋭の騎馬兵で突き進んだとしても、幾重にも幾重にも布陣している敵兵に阻まれ、本陣に到達する前にその精鋭達は確実に力尽きてしまうことになる。

 結局はハザン帝国兵に取り囲まれて全滅してしまうのは予想に難くなかった。


 トライトロン王国の強大な私兵を有する貴族連合軍に助力を命じれば、数の上では圧倒することになる。一方でそれは一枚岩とはいえないいわゆる借物の軍隊となり、全体の統一をはかることはかなり難しくなる。その結果、烏合の衆(うごうのしゅう)となってしまい、フラウ王女の考える(いくさ)の方法が取れなくなってしまうのはほぼ確実である。


 それでも相手のハザン帝国の将軍が全くの凡人であれば、数に圧倒されて本来の能力が発揮できない可能性は考えられなくもなかった。しかし、それはあくまで偶然を期待するようなもので、普通に考えれば凡将(ぼんしょう)であっても対等以上の戦いとなると考えるべきであった。


「確かにな!統一の取れていない軍隊など一匹の羊が狼の群れを率いて狩りをしているようなものじゃろうな。処で、わしに会いに来てわしから何を得たいと思っているのじゃ 」


「具体的な考えはありませんでした。とにかくお姉様にお会いすることで答えが見つかる様な気がしてならなかったのです 」


「おうおう!わしに丸投げか?まあフラウに頼られることは、決して不快なものではなくてむしろ嬉しいと感じてはおるのじゃが、、、 」

 卑弥呼は少し(あき)れたようにしばらく沈黙していたが、それを感じ取ったフラウ王女は慌てて、

 ” ハザン帝国軍が王都に到着するまでに可能な限り、出来れば兵の半数程を()げたらと考えその方法を模索しております。父やクロードにも考えてもらっているところではありますが、未だ最終結論を得るに至っておりません。お義姉様!”

と正直に答えた。


「お義姉様か!、良い響きじゃのう。もう一度呼んでくれないかの?」

「お義姉様!からかううのはそれくらいで、早く教えてもらえませんか?卑弥呼殿の考えられている作戦とやらを!」

 

「この城の中に、黒い水が出る井戸があるといってたのう。あれは、石油というものじゃ。もし、邪馬台国(やまたいこく)にあの石油が大量にあれば、邪馬台国の周辺諸国まで併せて、全大和国(やもとのくに)の統一でさえも可能だったやもしれん 」


「お義姉様はあの黒い水を今回のハザン帝国戦に利用しろということなのでしょうか?」

「あの黒い水が突然に目の前で燃え上がったら敵国の兵はこぞって逃げ惑うであろうな。もし敵兵を分散させることが可能であれば、あるいはフラウの考えている中央突破も可能になるやもしれんな 」

 

 黒い水の業火(ごうか)(おのの)いたハザン帝国兵が秩序(ちつじょ)を取りもどす前にフラウはその中央の守りの兵が薄くなったところを本陣目掛けて一直線に中央突破を図るべく愛馬に鞭打っている自分の姿が頭の中に一瞬浮かんだような気がした。


「もし、それが可能であれば、この戦の戦局が大きく変わるかもな。もうわしの思念が流れ込んでいるフラウにはある程度理解できたことじゃろうな 」

「はい!今何となく 」

「じゃが、この奇策の重要な要素となる石油をどの様に使うかについては、フラウ自身でもう少し考えてみるほうが良いじゃろうのう!」


 今、フラウ王女は暗闇の中に一筋の光を見たような気がしていた。

 それでも、あの黒い水が戦争用の大きな武器になることなどこれまで全く考えたことがなかったフラウ王女にとって、卑弥呼が黒い水を一目見ただけで、それを(いくさ)の道具にしようという考えに至った卑弥呼の不思議な知識には驚くばかりであった。


 しかも、トライトロン王国の黒い水の存在に関しては王国にやってくるまで卑弥呼は知らなかったはずである。

 仮りに、フラウ王女の頭の中の全てを卑弥呼が(のぞ)く能力を持っていたとしても、フラウ自身の頭の中には黒い水の存在自体が全く無かったため、卑弥呼がそれを(のぞ)き見ることはできなかったはずである。

 卑弥呼はこの黒い水の存在を知らないままトライトロン王国入りして、洞窟内で初めて黒い水の存在を知った訳である。


 この時フラウ王女には、卑弥呼がこの他にも別の大きな作戦を考えているような気がしてならなかった。


 しかし、この黒い水こそがこれからのトライトロン王国の存在する世界をそしてその未来を大きく変えていくことになろうとは、フラウ王女といえどもこの時点では考えが及んでいなかった。

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