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1−25 近衛騎士隊長

 無事帰ってきたフラウ王女を出迎えたのは、涙で目を赤くしたエリザベート女王とスチュワート摂政の両親であった。

 怪我はなかったかと、フラウ王女の身体をベタベタと触りながら涙を流す女王と摂政は、その様子だけを見れば、自分の子供を心配する一般市民の家族の姿にしか見えなかった。

 フラウ王女は両親の気持ちは十分に分かっていたが、卑弥呼(ひみこ)に対する多少の照れもあって、そっけなく

  ” 只今 ”

とだけ応えた。


「良い良い!そんなに、わしに気を使わなくても 」


 卑弥呼はそういったが、フラウは卑弥呼の(ばく)としたさみしさを感じ取っていた。そして思った。両親だけでなく自分の子供、孫更に曾孫……と次々と見送って来た卑弥呼の思いは、決して自分には永遠に計り知れないものだと、、、。


「フラウは優しいのう! フラウが義妹になってくれて、わしはとても感謝しているのじゃ。忘れ去っていた家族の(きずな)も再び思い出すこともできたし、、、」


 久しく感じることも無くなっていたが 、かつて卑弥呼にもフラウと同じ様に家族と共に喜び、時には悲しみ、時には怒り、その様な平凡でかけがえの無い日常が確かにあった。


 邪馬台国(やまたいこく)に帰ったら、姫巫女(ひめみこ)を真っ先に抱きしめてやりたいと考えた卑弥呼であったが、そのことについては何も触れず、卑弥呼はそのまま沈黙を守っていた。


 フラウ王女は家族との食事もそこそこにクロード近衛騎士隊長を呼び、ハザン帝国から侵略戦争に関する詮議を行うべく、直ちに関係者に召集をかけるよう命じた。

 フラウの命令に深く頭を下げたクロード・トリトロンであったが、中々立ち去ろうとはしなかった。


「クロ、どうした!聞こえなかったのか?」

「ご命令の件は直ちに召集を行いますが、私は詮議への参加をご遠慮させてもらいたいと思いますが、、、」


「詮議への不参加などというからには何か特別な秘策でも思いついたのであろう。それならそうと、早く教えてくれ!」


 クロード近衛騎士隊長の考えは、ジークフリード総参謀長とも相談しフラウリーデ王女帰還の折にその判断に任せるとの了承を得ていた。

 むしろ総参謀長からは何としてでもフラウ王女を説得して欲しいと依頼されていた。


「詮議よりも優先したい作戦とは何かな?ちょっと期待してしまうぞ 」


 クロード近衛騎士隊長の発案した作戦とは、ハザン帝国の隣国シンシュン国と不可侵同盟を結ぶことであった。そして今その足で早駆(はやが)けするためにフラウ王女の帰還を待っていたわけである。

 エリザベート女王に同盟親書の国璽(こくじ)をもらうために、クロードはフラウ王女のお帰りを待っていた。

 そのクロード近衛騎士隊長の考えた戦略とは大凡(おおよそ)次の様な内容であった。


 シンシュン国とトライトロン王国が不可侵同盟を結ぶことはハザン帝国への単なる牽制(けんせい)になるばかりでなく、ハザン帝国兵がトライトロン王国との国境を越えた途端に、シンシュン国から背後を突かれるのではないかという精神的な不安を与えるには十分過ぎると考えられた。


 シンシュン国との同盟は、ハザン帝国兵の戦闘意欲の減退につながるだけではなく、更にトライトロン王国の諜報員を駆使してシンシュンシュン国が具体的に兵を動かし始めているという嘘の情報を大々的にハザン帝国の巷に流布(ちまたにるふ)することにより、ハザン帝国侵略軍首脳部にもかなりの圧力をかけることが可能になると考えられた。


 もしハザン帝国兵が途中で引き返す決断をしたとしても、シンシュン国との挟み撃ちになり、逃げ場を失ってしまうのではという精神的脅威も決して馬鹿にはできなくなると思われた。


 要するにシンシュン国が動こうと動くまいと、トライトロン王国には直接的な被害は生じない。一方で、ハザン帝国はいつシンシュン国から背後を突かれるかもしれないという現実的な恐怖感を受けることになる。


 実際、トライトロン王国がシンシュン国と同盟を結んだとしても、実際にはシンシュン国は目立った動きはしないだろうと考えられた。


 そのことを考慮すると、シンシュン国の同盟に対する報奨金(ほうしょうきん)は、ハザン帝国から得られる戦争賠償金の三分の一程度を供与するという条件を提示する位で十分だろうと、、、クロード近衛騎士隊長は考えていた。


 唯一の懸念(けねん)は、もし王国の貴族軍が全く動かないで、王国軍だけでハザン帝国の防衛に当たるという不利な事実がシンシュン国に知られてしまうと、シンシュン国はその同盟を破ってでもハザン帝国と共同でトライトロン王国を攻めにかかる可能性も考えられないこともなかった。


 その為、トライトロン王国と貴族連合軍は共同で今回の(いくさ)に当たる準備をしていると思わせておく情報工作が必要と思われた。


 クロード・トリトロンの話を最後まで黙って聞いていたフラウ王女は、クロード近衛騎士隊長を副参謀長に起用したのが間違っていなかったことに安堵すると共に、早速戦略家としての才能を開花させ始めたクロード・トリトロンに自分が一歩遅れをとった様な気分がしないわけではなかった。

 またその一方で、そのシンシュン国への使者としてクロード自身が(おもむ)くことについてはいささかの不安も感じていた。


「クロードを作戦参謀に起用したことで、圧倒的に不利な状況から少し改善方向に向きつつあるような気もするのじゃが、これはフラウの考えなのか?」

 フラウ王女の頭の中の卑弥呼が感心したように(うなづ)いている。

「フラウ!どうしたのじゃ?」

「いや、クロなら絶対上手く同盟を取り付け、無事に帰ってくる、、、」

「おやおや、クロのことがとても心配な様じゃな?やっぱり、フラウはクロを好いておるんじゃのう 」


 クロード・トリトロンの申し出を聞きながら、顔を青くさせたり、赤くさせたりしているフラウ王女を見て、両親や妹が不思議そうな顔をしたものの、長旅の疲れがでているのであろうと勝手に解釈してくれていた。


「納得した、クロ!急ぎシンシュン国へ(おもむ)き、同盟を取り付けてくれ 」


 卑弥呼が特に何も言ってこないことで、同盟の使者をクロードに任せることにした。この時フラウ王女は卑弥呼から反対されなかったことで、根拠はないが、クロードが大きな危険に遭遇せず無事に帰って来ると確信が持てた。


 エリザベート女王は当初フラウリーデの無事帰還祝いを盛大に催したいと考えていたが、ハザン帝国の侵攻が迫っている現状、とクロード・トリトロンも直ちにシンシュン国へ向かうことを知った為、内輪だけで催すことを告げた。

 クロード・トリトロンは女王から不可侵同盟の親書をもらうと、フラウへの挨拶(あいさつ)もそこそこに愛馬に飛び乗った。


 フラウリーデ王女の顔に一瞬不安の影がよぎったが、それを打ち消すように、

 ” それでは詮議場(せんぎじょう)に出かける ”

と、侍女のシノラインに言い残しその場を切り上げた。

 

 その後を父親であるスチュワート摂政が詮議(せんぎ)に出る為に急いでフラウ王女を追いかけた。

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