1−24 卑弥呼トライトロン王国へ
主祭殿の祭壇の前で卑弥呼は呪文を唱え始めた。その呪文が終わるころにはフラウ王女の意識が卑弥呼から離脱し始めた。それから卑弥呼は祭壇の扉を開いた。
そこにはあの洞窟の中にあったものと同じ形をした五芒星の魔法陣があり、その上に戦闘服に身を包んだフラウ王女の仮死状態の肉体が横たわっていた。
五芒星の中心部分に卑弥呼は自分の血液を垂らし、魔法陣を発動させた。魔法陣が輝き始めたのを確認すると、卑弥呼は魔法陣の上でフラウリーデ王女と並んで横になり、さらに呪文を唱えた。
やがて卑弥呼の精神体は仮死状態のフラウ王女の頭の中に入り始め、卑弥呼の肉体からは生気が少しづつ薄すれ、同時に肉体の仮死化が始まった。
一方でフラウ王女の身体は自分の精神体と卑弥呼の思念が同時に脳内に入り込んだためか、少しづつ生気を取り戻し始めた。顔の色も幾分か赤みを帯びてくるのと同時に魔法陣の輝きは少しづつ薄れてきた。
「今から、フラウはトライトロン王国へ帰るのじゃ。わしの思念を連れてな!」
フラウ王女は、ふわっとした浮遊感と共に、以前に感じた物と同じ感覚、ずっとずっと天上界にまで登って行くかの様な気分となり、やがてその意識はスーッと描き消えてしまった。
卑弥呼の呼びかけに再び意識を取り戻したフラウ王女は、辿り着いた場所があの洞窟内の魔法陣の上であることを知った。
「今回はすごく時間が短かった様に感じましたが、お義姉様!ここが私の言っていた洞窟で間違いありません 」
「フラウ!今回で3回目じゃろう。だいぶ慣れてきたのかも知れないのう。それにしてもいささか暗過ぎるな!ここは?」
フラウは、四方にあった光を灯す皿に火をつけた。
「ところで、その大皿の中に入っている黒いものは何じゃ?」
「私も詳しいことは知りませんが、私共は燃える『 黒い水 』と呼んでおります 」
王都の中心部分に水くみ用の井戸を掘らせたところ、その中からは水ではなく、黒い水が出てきた。それは匂いがきつく、全く得体が知れないものであったところから、当初は直ちに塞いでしまう予定だった。しかし、発見者の一人が、たまたまその黒い水が良く燃えることを発見し、以来明かり取り用に使用するようになったという経緯があった。
フラウ王女の頭の中の卑弥呼は何かを考えているかのようにしばらく黙りこんだ。実際にフラウに見えた訳ではないが、一瞬卑弥呼の黒曜石色の目の奥が妖しく輝いたような気がした。
フラウ王女は、洞窟の扉を開け、外の澄んだ空気を思いっきり吸い込もうとしたその矢先、鉄砲玉の様に飛び込んできたジェシカ王女の体当たりに、思わず転びそうになったが、持ち前の運動神経で上手く受け止めた。
「お姉様!お姉様!よく御無事で!お姉様が居なくてとっても寂しかったの!お母様もお父様も、お城の者も皆んな戦の準備で忙しそうで 、、、」
妹ジェシカ王女の眼から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「おおお!!!何じゃ〜その掟破りの可愛い過ぎる娘は、フラウの妹か?」
卑弥呼は昔自分が昔見た異国の本に描かれていたお人形さんみたいだとはしゃいだ。
「ということは、、、その可愛過ぎる姫もわしの義妹ということになるのじゃな!」
喜びのあまり狂喜する卑弥呼の思念にフラウ王女は、
” もう少しお手柔らかに!頭が破裂しそう ”
ですと思念を返したのだった。
「妹の名前はジェシカ・ハナビー・フォン・ローザスで、そう確かお義姉様の曾曾曾…孫の姫巫女様と同じ15歳です 」
「フラウ!そこの部分は普通強調しないで『 姫巫女と同い年です 』でスルーするところではないのかえ?」
その後、卑弥呼は黙り込んでいる。怒らせてしまったのかと考えないでも無かったが、脳内の割れんばかりの思念に疲れていたフラウ王女にとっては、良い休養になっていた。
ジェシカ王女の後ろに控えていたクロード近衛騎士隊長は、
” お待ち申し上げておりました。ご無事のご帰還おめでとうございます ”
と膝を落とし恭しく頭を下げた。
「どれ位留守していた、クロ?」
「今日が、丁度約束の一週間目です。それで、ジェシカ姫と一緒に洞窟の外で待っておりました 」
「どうせジェシカが連れて行けと言って聞かなかったのだろう?」
ジェシカ王女は、
” そんなこと言っておりません ”
と頭をブンブン振りながらクロードに目で訴えている。
「良い良い!二人が迎えにきてくれて私はとても嬉しい 」
フラウ王女は卑弥呼様も大変喜んおられるといおうとして、その言葉を飲み込み、
” さあ、今日からは忙しくなるぞ ”
と誤魔化した。
しばらく沈黙を守っていた卑弥呼だったが、
” おう!おう!何とか誤魔化せたようだな ”
と楽しそうに笑っていた。




