1−23 人生の分岐点(ぶんきてん)
人間は誰でもがその大きな分かれ道に遭遇した時、そのどちらかの選択を余儀なくされる。しかし実際には身体は一つしかないため、どちらかの一方を選択するしか方法はなくなる。ただそれが一生を左右する様な重要な選択の局面においは、それぞれが自ら選択した道で各々が別の生き方をしながら年をとって行く可能性も考えられないことはなかった。もし、並行世界というものが存在していると仮定すればではあるのだが、、、。
例えば、洞窟へ入ることを選択したフラウ王女が卑弥呼と出逢い、こうして邪馬台国に来ている。一方であの時、クロード近衛騎士隊長と剣の稽古を選んだフラウがもし存在したと仮定したら、今頃ハザン帝国との戦を前にクロードと途方にくれているのかもしれない。
勿論、この時点ではハザン帝国との戦の結果がどうなるかはどちらの道を選んだとしても未だ分からないだろう。
「この先のフラウがどうなるかについても、未だわしにも分からん。我々は、常に何かを選択するという宿命を背負わされている。それが一生を左右するようなことであったとしても、選べるのはたった一つの道だけじゃ 」
実際には、洞窟を発見しなったフラウ王女もどこかの時間軸に存在していて、そのフラウは全く別の時間の流れの中で自分の定められた一生を過ごしている可能性もあると卑弥呼は考えているようであった。むしろ、そうであって欲しいと願っているのかもしれない。
どちらが正しいとか正しくないとか、どちらが本物とか偽物とかいう問題ではなく、何れも本物のフラウであることには変わりはない。
結局のところ、今卑弥呼の頭の中に仮住まいしているフラウは、二つの選択肢の中で洞窟へ入ることを優先したフラウ王女と考えることができる。そして洞窟に入ることを選択しなかったもう一人のフラウは、並行世界の別の時間軸に存在している可能性がある。
これらの、二人は同じ時間軸では絶対に共存できない。その為、もう一人の自分を見ることは決して不可能である。
無数に存在する時間の流れの中のその一つの可能性を選択したフラウ王女が卑弥呼の頭の中に仮住まいしていることになる。その理由は卑弥呼にも良くは分からない。たまたまフラウ王女と卑弥呼との時間軸が交差して、本来は出会うべくも無い二人が奇跡的に出会った可能性もある。
実際には卑弥呼に出会うためのキーワードが血液であったこと考えれば、必ずしも偶然に出逢ったのではなく、運命に導かれた可能性が強かったとも思えてくる。
「どうした?心の声が出ないのう?ラウ!まあ仕方がないかのう。フラウの住む王国ではこのような荒唐無稽な概念など存在しないだろうからな 」
それでも、実際にフラウ王女がこうして邪馬台国の卑弥呼と出会っている現実を考えてみると、結局フラウが自分で選択した自分の生き方ということになるのだろう。
「ところで、フラウの王国は今理不尽な侵略を受けているといっておったのう 」
「敵国の兵士があまりにも多く、中々勝機をつかめないでいます 」
「どうじゃ!今度はわしの思念をフラウの王国に連れて行ってはどうかのう?」
「ええっ!そんなこと可能なのですか?」
「フラウのいう『 東の日出る国 』に関する蔵書とやらにも興味がある。それを見せてもらうことが見返りということで、、、。 」
フラウ王女自身もハザン帝国の動きが気になり始め、そろそろ王国に戻ろうと考え始めていた。
「今度はフラウの目を通してわしがトライトロン王国の色々を見ることにするか?今フラウがわしの目を通して邪馬台国を見ている様にな 」
「お義姉様!それにしても邪馬台国の方は大丈夫なのでしょうか?お義姉様がしばらく居なくなっても 」
「安心しろ。実は、私の曾曾曾…孫の巫女が、5歳の頃より類いまれなる能力を発揮しだしてのう、15歳の今じゃわしよりも強い呪術能力を持っておる 」
フラウ王女の返答思念に少し時間がかかった。
卑弥呼はすかさず
” こら!フラウ!一々数えるでない。女の歳を数えるのはフラウの王国でも無礼じゃないのかえ?”
といいながら魔法陣のある主催殿へと急いだ。
「九郎兵衛、九郎兵衛!!!」
「はっ!、、後ろに 」
いつの間にか来たのか、片膝をついて頭を下げた九郎兵衛がそこに居た。
「しばらく、わしは留守をしようと思う。司祭や政殿は、姫巫女とそなたに任せる 」
「はっ!仰せの通りに 」
「それから、日に2回、水と、食事は欠かさぬ様に祭壇に上げるのじゃぞ。ああー、次いでに夜は一杯の御神酒も備えることも忘れないようにな。これだけは絶対に守るんじゃぞ!」
そして卑弥呼は、
” わしの肉体は祭壇に置いて行くが、仔細は姫巫女が分かっておる ”
と言い残した。
「ハッ!何事にも姫巫女様と相談いたします故、、、」
卑弥呼が魔法陣を通って色々な国に旅をすることは、姫巫女と九郎兵衛にとっては特に珍しい話では無かったので、九郎兵衛は平然と聞いていた。




