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1−21 戦(いくさ)の種明かし

 あまりにも圧倒的な邪馬台国(やまたいこく)の戦いぶりを見て、フラウ王女はまだ心の整理はついていなかった。加えて彼女の知らない現象が次々と起こったため、正直どこから質問すれば良いのか分からないほど混乱状態であった。

 卑弥呼(ひみこ)が引き起こした種々の現象とは別に、邪馬台国が残存した肥後兵(ひごへい)を捕虜としなかったことに関しても疑問を感じていた。

 

「捕虜は必要なかったのですか?」

 トライトロン王国の場合、戦の折には、敵兵を捕虜として捕らえ、戦争終結時に人質交換をするか、敗戦国に賠償金を払わせる方法が取られていた。


 フラウは、『 何故. 』と言いかけて、あっ!とつぶやいた。こちらの兵士が相手国に捕虜として一人も囚われていない場合に敵方の捕虜を取っても人質交換はできない。捕虜の数が多ければ多いほど、その間の捕虜の食料費は相当なものとなる。かと言って人道的に捕虜たちを餓死(がし)させるわけにはいかない。

 トライトロン王国のように、飢饉(ききん)が少なく絶えず食料が豊富な国においては考えつかないことだったのかもしれない。


 長期間かけて戦争賠償金をもらったとしても、捕虜として捕らえた兵士が食べる食料は邪馬台国の備蓄を使用してその日からでも提供しなければならなくなる。明日必ずもらえるかわからない賠償金と目の前にある食糧、この時代において、どちらがより貴重かということ。


 そう、実際に賠償金が戻ってくるのはずっと後になってしまう可能性が強い。この時代、将来の不確かな補償金より、今ここにある備蓄食料がはるかに貴重であるのをフラウ王女はつい失念していた。

 今回の(いくさ)においては邪馬台国は全くの無傷であった。そして邪馬台国はもともと肥後国(ひごのくに)など歯牙(しが)にもかけていない。もし邪馬台国の兵士達が敵軍に捕虜となっていた場合には、人質交換は避けれない状況となる。しかし今回のような圧倒的な勝ち戦の場合、邪馬台国にとって将来得られるかもしれない賠償金より備蓄食料の方がはるかに貴重である。


 卑弥呼女王の考えでは敗戦国からの賠償金の支払いに関しては、支払い途中で国家が消失してしまう可能性があることも示唆(しさ)していた。特に自国の飢饉(ききん)暴動(ぼうどう)などが原因で、その国民の目を()らすために引き起こされた戦争において、敗戦国となった場合、 賠償金そのものが全くの空手形に終わってしまい、結果としてもらい(そこ)ねる可能性も大いに考えられた。また、その様な国土()せ切った国を邪馬台国が占領したとしてもメリットは無いに等しかった。


大方(おおかた)、フラウの世界のそのハザン帝国とやらも国民の不安の芽を誤魔化すために、トライトロン王国への侵攻を考えたのじゃないのかな?」

「確かに、私どもの王国とハザン帝国は元より全く付き合いはなく、ただ単に近隣にその様な国が存在している程度にしか見知っていませんでした 」


 卑弥呼の指摘した空手形になるかも知れない戦争賠償金の話に関しては、卑弥呼がこれまでにいかに多くの戦争を経験してきたかをそのまま示すものだと、フラウ王女は理解した。


「フラウや!そろそろさっきの(いくさ)の種明かしをしようと思うが、、、良いかな?」

「十分に理解出来る自信はありませんが、お願いします。お義姉様!」

「今、お義姉様と呼んだよな!」

「申し訳ありません、卑弥呼殿!卑弥呼殿の気さくな言葉に甘え、つい、口走ってしまいました 」


「そうじゃ無い!お主が、お義姉様と呼んでくれたことがとても嬉しいのじゃよ!」


 卑弥呼はいつになく饒舌(じょうぜつ)にフラウ王女に話しかける。

「多分、最初の疑問は、昨夜大きな風が吹き荒れることをどうしてわしが知り得たのかということじゃろうな 」


 卑弥呼は少し勿体(もったい)ぶるような素振りで、神殿には過去からの天候や風の向きや強さ、加えて潮の満ち引きの時間やその潮の高さなどを記録しているフラウ王女が神殿の中で見た卑弥呼が自ら作成したという暦のことについて話し始めた。


 この有明の海(ありあけのうみ)の沿岸地帯は毎年同じ頃に大きな風の厄災(やくさい)に見舞われる。邪馬台国ではそれを『 大風(おおかぜ) 』と呼んでいた。

 卑弥呼は過去にやってきた大風の記録と独自に作った暦を併せ読み、それに星読みの術を併せ、大風の進む方向とこの有明の海に来る時間について予測を立てていた。

 また併せて有明の潮の満ち引きの時間も暦から一緒に読み取っていた。


 実際に有明の海は、潮の干満の差が大和国(やまとのくに)の中でも一番大きく、今の時期だと丁度6メートル程の差がある。肥後国(ひごのくに)はそのこと知らずに襲来してきたようである。あるいはある程度知ってはいても、小舟で兵隊を陸に上げる程度は十分に可能だと考えていたのかもしれない。

 そのため計画が大きく狂ってしまったと考えられた。


「フラウは、何故大風(おおかぜ)が急にピタッと止み、急に青空が見えたことについては不思議には思わなかったのか?」

「えーっ!あれは義姉様が何か一生懸命に呪文(じゅもん)(とな)えておられたからでは無いのですか?私の読んだ蔵書の中では、お義姉様が多くの呪術(じゅじゅつ)を用い侵略者のことごとくを退け、一大王国を築き上げたとありましたが 、、、」


「ほう!わしのそんなことまでがあの蔵書には記録されていたとな。だが、種明かしはあまり早過ぎても面白味が少なかろう 」

 卑弥呼はそう言いながら少しもったいぶる様に、

  ” そう急ぐこともないようじゃのう “

と笑った。

 

 どうやら卑弥呼は今ここでフラウ王女にその真相を明かすつもりなないようだったが、何も言わない分、その蔵書に記載されていた呪術を得意としていたという卑弥呼の情報はフラウ王女にとって、むしろより確かなような気がしてならなかった。

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