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6−20 トライトロン王国の貴族達

 シュトクハウゼン・ゼークスト公爵からの面会の申し入れがあった。

 彼は当然フラウ王女が万難を排しても自分の面会を許諾するものと鷹を括(たかをくく)っていた。しかしフラウ王女はエリザベート女王を通じて、結婚式の準備で多忙を理由に彼との面会を拒絶した。

 またゼークスト公爵は女王と摂政にすれ違いざまに挨拶をしようとしたが、女王は立ち話で歓迎の意を表しただけだった。


 フラウ王女自身、会いたくなかったというのもあるが、今ゼークスト公爵に合うと皮肉の一つや二つを言い出しそうな気がしていたからでもあった。大事な結婚式の前に嫌な思いをしたくないと考えたのも確かだった。


 ゼークスト公爵のフラウ王女にとっての印象は極めて良くない。フラウ王女は公爵に会うたびに、砂漠の中で獲物を探し回っている禿鷹(はげたか)を思い出してしまう。

 そうかといって、公爵自身が王族の前で己の野心をあからさまにむき出しにしていたわけではない。むしろはっきりとそう表現してもらうほうが、フラウ王女にとっては分かりやすかったのだが、、、。


 言葉使いなどは至って慇懃無礼(いんぎんぶれい)で、王族の繁栄をいつもいつも願っていますとすり寄ってくる。だが時折公爵の目の奥に剣呑(けんのん)な光を見出しているフラウにとっては、トライトロン王国の貴族連合の中で最も気の許せない人物としてリストアップしていた。


 フラウ王女は父スチュワート摂政から聞いたことがある。王国の貴族連合は、大きく二分されていると。つまり、シュトクハウゼン・ゼークスト公爵派とラウマイヤーハウト・リンネリンネ侯爵派に。

 そしてそのゼークスト公爵は常日頃、正当な王族の血を持つのは我が公爵家であると根拠もなく折に触れて他の貴族連合に触れ回っているうわさが王城内にも聞こえてきていた。


 フラウ王女は王国科学技術省並びにその研究所が軌道に乗った場合、いよいよ貴族連合の調整にも自分自らが乗り出す必要があるのではないかと考えていた。エリザベート女王にしてもスチュワート摂政にしても幼い頃からトライトロン王国の筆頭貴族としてゼークスト公爵と接してきた経緯から、その役割を両親に(ゆだ)ねるのは少し(こく)なような気がしていた。


 このように古くから引き継がれてきている王族と貴族連合の関係を正常化させることは、種々の(しがらみ)の少ない自分にしかできない改革だとも思っていた。


 フラウ王女は、国内の暴動や近隣諸国からの嫌がらせや大掛かりな盗賊団等の鎮圧にクロード近衛騎士隊長と精鋭部隊数百騎で鎮圧して回っていた頃の自分を懐かしく思い出していた。

 その頃の自分はクロードと一緒なら敵や獲物を求めて地の果てまでも走って行けると信じて疑っていなかった。


 邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)と出会い、それまでの自分の行為と考えが痴気(ちぎ)に等しく、目の前の邪魔な存在を自らの持つ彼らよりちょっと優れた剣術の才と無鉄砲さで排除していただけであったことを知らされた。


 クロード近衛騎士隊長との結婚は、いわゆる王位継承の時期がもう近くまで来ていることを否が応でも感じないわけにはいかなかった。しかももう今では、次期女王のあるべき姿についても卑弥呼と出会ったことにより、本来の予定よりも早い時期に覚醒し始めたようでもある。


「フラウ!入ってもいいか?」

「卑弥呼お義姉様!先程からお義姉様のことを考えておりました 」

「『 以心伝心(いしんでんしん) 』というものかのう?」


 事実、『 大和言葉(やまとことば) 』にはそういう言い回しがあった。親密な二人が、何かを真剣に考えたとき、その考えが漠然と相手に伝わるということをそう表現するらしい。

 フラウ王女の住むトライトロン王国においても、親子や兄弟姉妹などの近しい間柄(あいだがら)などではそう表現することがあった。


「実際には幾ら血の繋がった親子や兄弟じゃったとしても、そうそう簡単に相手の考えている内容など分かりようもないがのう!

 何となくフラウがさみしがっていそうな気がしてな、、、。邪魔じゃなければお茶でも一緒しないか?」


「そうですね!先程まで5年振りに会う珍しい客が来ておりました。その客のことに端を発し、王国の好ましくない未来をあれこれとつい想像していました 」


 フラウは、ストムガーデ イ が打った刀が保管されているクローゼットから1本の小刀を取り出しながら、それを邪馬台国の今は天翔(てんしょう)女王になっている姫巫女(ひめみこ)様にと差し出した。

 フラウにとっては天翔女王と云うより姫巫女と呼ぶ方が、相応しいように感じていた。それ位若くて少女の域を出ていないように感じていたからだ。


 特にジェシカ王女と同じ歳ということもあって、妹のように感じられてならなかったのである。

「お義姉様!ここにある刀(katana)の1本を邪馬台国の姫巫女様にもらって頂く訳には行きませんか?今は天翔女王様でしたね 」


「この刀はフラウの家族とそれに等しき者のために(あつら)えた逸品(いっぴん)だと思っているが、それは邪馬台国(やまたいこく)の天翔女王をフラウは家族と思ってくれているというとなのだな?」


「邪馬台国の姫巫女様のことは、とうの昔に私の家族です 」

「そうか、嬉しいのう。フラウが姫巫女をそう思ってくれて、姫巫女も喜ぶことじゃろう。ずっと一人っ子で育ってきたからのう 」


「天翔女王様には武器としての刀は必要ないかとも思いますが、、、」


「そうでもないぞ!天翔女王には不思議な力があってのう!宝物級の剣や杖を手に取ると、自分の持つ妖力が極端に上がり、呪文なしにでも多くの術を発動可能できる能力を持っておる。宝玉の埋め込まれたこの刀であれば理想的じゃな 」


「この刀を見たら、時々私のことを思い出してもらえるかもしれません 」


 フラウは、邪馬台国の姫巫女を思い出すたびに、妹のジェシカと重ねて見ていた。ジェシカには姉フラウがいることもあって、王国の政争に関わることは全くしなくて大きくなることができていた。


 その妹と同じ歳であるにも関わらず(まつりごと)の多くを自分の力で処理している姫巫女を見ると不憫(ふびん)さを感じていたのである。彼女以上に能力のある兄や姉がいたのであれば、ジェシカ王女と同じように、明るい毎日を送れたであろう。そう考えると、抱きしめてやりたい感覚が湧き上がってくるのだった。


「ああ!言い忘れるところであった。王国内に来た日にフラウに『 銅鏡 』を渡したが、、、、」

「はい、しっかりと覚えています。というか、私のベッドの側に置いていて、朝起きたらいつも最初に銅鏡に写った自分の顔を見ます 」


「喜んでもらえてわしも嬉しい。あの銅鏡だが、実はフラウがわしと話したいと願いながら水鏡の呪文を唱えると水鏡の代わりにも使用できるのじゃが、、、」


「えっ、それでは私の部屋でなくてもあの銅鏡さえ持っていればお義姉様といつでもお話しできるのですか?」

「まあ、そういうことになるのかな、、、」


 フラウリーデ王女は、卑弥呼からそのことを聞き、トライトロン王国と邪馬台国の距離が今まで以上に近くなったような気がして嬉しかった。

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