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6−19 秘密諜報員マリンドルータ・リンネ

 結婚式の前日、フラウリーデ王女とクロード近衛騎士隊長の結婚式に招待された近隣諸国の王族や王国の貴族達が続々と王城に到着していた。城内の多くの者がその招待者の接客に追われていた。


 フラウ王女は式の前日は一人で静かに過ごしたいと考えていた。そのことを知っていた侍女のシノラインは遠慮がちにフラウのドアを叩いた。


 ラウマイヤーハウト・リンネ侯爵は、フラウ王女にどうしても紹介したい人物を同行してきていた。

「リンネ侯爵殿の紹介したい者?分かった、少しの時間ならばと断って、中にお通してくれ 」


 トライトロン王国の王城では年に1〜2度王国内の貴族を呼んでパーテイが開催される。その際に公爵や侯爵、伯爵や男爵などと顔を合わせる。フラウ王女が若いということもあって彼等とゆっくり話をする機会は少ない。その中で唯一、フラウ王女に警戒を抱かせない存在が、リンネ侯爵であった。


「リンネ侯爵殿!ご無沙汰致しております。ハザン帝国侵攻の折に侯爵殿のお力をお借りしようかと随分と迷いましたが、他の貴族家との関連で侯爵殿にかえってご迷惑をかけることになりそうでしたので遠慮しました 」


「迷惑等と!姫様のご下命とあれば如何(どの)様な犠牲を払ってでも参戦致したものを、、、」


 フラウ王女の最初の挨拶が先のハザン帝国戦に関することであったのは、リンネ侯爵にとっては意外であった。

 そしてその理由は、恐らくフラウ王女自身が王国に迎合してくれる貴族連合情勢について完全に把握できていなかったための選択の結果であったのだろうとリンネ侯爵は想像した。いわゆる、親王国側の貴族と反王国側の貴族との明確な区別がつかないでいたのだと、、、。


「有り難う。その気持ちだけは有り難く頂いておこう。貴族連合のいささかきな臭い話は私のところにも聞こえて来ているのだが、、、」


「やはり王女様も既にご存じだったんですね!」


 実際のところ、貴族連合は必ずしも一枚岩ではなく、ゼークスト公爵を中心とする派閥と親王族派に二分されていた。全体として見るとゼークスト公爵家に(くみ)する勢力の方が数が多かった。


「ところで侯爵殿、私に紹介したい人とは、そちらの女性なのかな?」

 

 フラウ王女は、その女性に既視感(デジャブ)があったので先程から頭をフル回転させて思い出していた。

 しばらくして、フラウ王女の大きな深いブルーの瞳が更に大きく見開かれた。そして、何かを納得したかのようにうなづいた。


「もしかして、侯爵殿がご養女として迎え入れられたマリンドルータ嬢なのか?

 必ずしも女性には()め言葉ではないのかもしれないが、侯爵家お抱えの女性騎士かと見間違がってしまった 」


 マリーンドルータ・リンネは、街のごろつき暴漢からフラウリーデ王女に助けられた後、侯爵家の養女として迎え入れられ剣術を習い始めた。今では侯爵家では相手をできる者がいなくなる程剣の道を極めていた。

 そして養父の心配をよそに諜報活動などという危険な仕事に自ら進んで従事していた。


「フラウ王女様がクロード殿とご結婚なされますと、クロード殿が常に王女様の後ろを守ることも、今まで通りというわけにはいかなくなるのではないでしょうか?」


「確かに、いつまでもクロードを私専属の近衛騎士隊長にしておくことはできないと悩んでいたところだ 」


 リンネ侯爵は、フラウ王女が助けた娘の命を一旦姫様に返すつもりで連れてきていることを報告した。

「お養父様!私はそのようなつもりは、、、」


「わかっておる!姫様から助けられた御恩を返したいためにお前が血の滲むような努力を続けてきたことは、父親の私が一番よく知っておる 」


 マリンドルータは、フラウ王女に命を助けてもらった時以来、いつか王女の役に立ちたいという一心から、毎日毎日剣術を習い、今では侯爵家随一の剣の使い手となっており、その剣の腕を生かして危険な諜報活動を行ってきていた。


「そうなのか、あの時の娘さんか?あの頃の私は怖い物知らずで無鉄砲だったから、今考えると恥ずかしくて頬が赤くなりそうだ 」


 フラウ王女は、決して甘やかされて育ったわけではないが、かといって女王になるための厳しい帝王学を叩き込まれたわけでもない。

 しかし持って生まれた性格なのか、弱いものがいじめられることについては、極端に拒否感を持っていた。


 それは恐らくフラウ王女の生まれながらに持っていた母性本能だったのかもしれない。生まれてすぐの頃の妹ジェシカ王女が病弱だったこともあって、小さい身体ながらに妹をおぶってあやしたりしたことも少なくなかった。

 周りの乳母や侍女達に、第一王位継承権を持つ王女のする行為ではないと(たしな)められても全くどこ吹く風と気にしなかった。

 

「あの時王女様に助けてもらって、今の私があります。あの日のことがなければ、お義父様に出会うことも叶わなかったでしょう 」


「話は分かった!もう一度良くよくご養父殿と相談して、本当に私の元に来たいのであれば、近衛騎士の入団テストを受けてくれ!その時の対戦相手は勿論この私だ 」


 フラウ王女はリンネ侯爵とマリンドルータに、旅の疲れをゆっくり落とすように声をかけて下がらせた。


 思いがけない出逢いにフラウ王女はあの頃の無鉄砲な自分を思い返して苦笑した。

 また、侯爵との話で、王国内の貴族連合の複雑な関係についても、そろそろ自ら手を着ける時期にきていることをヒシヒシと感じていた。

 そしてその時がきたら恐らく侯爵の娘のマリンドルータ・リンネの存在が大きく影響してくるであろうことを何となく感じとっていた。

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