表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/434

6−17 卑弥呼の見た未来

 フラウ王女とクロード近衛騎士隊長の結婚式を数日前にひかえた朝食での出来事。

 妹のジェシカ王女もニーナ蔵書館長もいつになく落ち着きがない。フラウ王女は、そんな二人を見ながら、体調でも悪いのかと尋ねた。


 フラウ王女の問いが聞こえているのかいないのか、二人共少し赤い顔をしてソワソワとしている。

 エリザベート女王は、いかにも自分が忘れてしまっていたというように手を叩き、今日がプリエモ王国の王族とリーベント・プリエモール男爵とその孫息子達が王城入りする日であることを告げた。


 今朝もジェシカ王女の隣にはエーリッヒ将軍の一人娘のニーナ・バンドロン蔵書館長が座っている。母エリザベート女王のその言葉にフラウ王女はニコリと微笑むと、ホッテンボロー王子とプリエモール男爵の孫息子ドルトスキーが王城入りすることで二人の様子がおかしいことを理解した。


「そうか、それで二人とも落ち着かないのだな!」


 フラウ王女の声も頭に入っていないように、ジェシカ王女は考えごとをしている。フラウの隣に座っている卑弥呼は直ぐに事情を察したように一人微笑んでいた。


「若いというのは、何事にも代え難い程素晴らしいことですよ!」


 卑弥呼のその低い声にエリザベート女王は、何をいわれますかヒミコ殿!ヒミコ殿こそ絶世の美貌をお持ちの独身女性。披露パーテイでは素敵な殿方が放っておきませんよと少し冗談ぽく笑った。


 フラウは、卑弥呼から何か反撃があるのではないかと一瞬ドキリとしたが、彼女は少し恥ずかしそうに下を向いただけだった。


 フラウ王女はジェシカ王女に、ホッテンボロー殿が入城したら、二人で自分の部屋に寄るように告げた。



 朝食が終わり、フラウ王女は卑弥呼を自分の部屋へと連れていくと、未来のトライトロン王国の世界に関する彼女の考えを聞いてみた。

 しかし卑弥呼は未来世界がどのようになっているのかについては、よく知らないとしか答えなかった。ただ、人々が一様に平和かと聞かれると、それはおそらく違うだろうというにとどめた。


「確かに多くの民は平和に暮らすことができるようになるじゃろうが、その一方でその日の食事も取れずに餓死する者が多く出てくるのも確かなことじゃろう 」


「卑弥呼お義姉様!それは、私がこの世界の歴史に強引に割り込んもうとしているために起こることなのでしょうか?」

「いや、この流れはフラウやわしがどのように介入しようが、そうでなくても遅かれ早かれ必ず引き起こされることなのじゃ!精々百年ほどの誤差あるかもしれないがのう 」


 フラウ王女は、もしそうであればこの歴史の転換点の牽引役を担うのは必ずしも自分自身でなければならないことはないような気がしていた。

 それでも実際にはこの世界の歴史はフラウ王女にその役目を課してしまったようである。


 トライトロン王国のある世界での考え方では、歴史というより神様がフラウ王女にその義務を課したと考えるほうが理解しやすかった。


 神という名前が出てくると、フラウ自身がそういう教育を受けてきたためか、身が引き締まる。神は人間が極めて無知な一介の動物のときから今の知恵を持った人間に進化するまでの気が遠くなるような長い時間、この世界の歴史をずっと見守ってきていると信じられていた。そして、それは今でも続いていると、、、!


 神と呼ばれている存在は人間社会の多くの争いごとにも過度の干渉を避けながら、じっと見守ってきている。それがもし神でなかったら、とっくの昔に(さじ)を投げ出してしまっていたであろう。

 一旦知恵がついてしまった人間は、次々と武器や生活が便利になるものを発明してきた。そして人間は多くの豊かさと快楽の恩恵を受けることができるようになり、そして今では未知の力を持つ『 石油 』にまでも手をつけはじめている。


 こうなってしまうと、その動きはもう誰にも止められない。もしフラウ王女がそれをやらなくても他の誰かが必ずやることになる。


「私じゃなくても誰かがやるのであれば、その誰かに任せることはできませんか?」


「じゃがこうなってしまった以上、トライトロン王国が、いやフラウが主導権を握るべきじゃないかのう。フラウは嫌なのか?」


「正直とても怖いのです。自分の身の(たけ)に合っていないようで!」

 

「それでは世界征服を企ているハザン帝国にそれを任せても構わないと、、、?フラウ!自分の心にもっと素直になるのじゃ!」


 フラウ王女自身、それが自分自身に課せられた使命だと明確に自覚していたつもりではあったが、そのことの大きさにやはり不安を感じ、義姉である卑弥呼の前では自分の素を(さら)け出していた。

 恐らくフラウ王女の強さも弱さも知り得ている卑弥呼にだからこそ、そのような弱音を言いたかったのだろう。


 正直彼女の中ではもうとっくに決断はできていた。それでも、卑弥呼のように何でも相談できる者がいると、つい甘え、弱音を聞いてもらいたくなる。

 フラウ王女の年齢は未だ満19歳、王国やその世界を牽引するには余りにも過酷な使命であることに違いはなかった。


 卑弥呼は、フラウ王女に課せられた過酷の運命を十分に理解できていたし、それでも彼女がそれをやり遂げるであろうことは確信していた。

 そして話を()らすように、これからの時代では刀(katana)や槍(yari)による(いくさ)は早晩終わってしまうと明言した。

 そのことは、フラウ王女自身明確に自覚していたことなのだが、剣一筋で生きてきた自分にとって卑弥呼のその言葉は彼女に耐え難いさみしさを感じさせていた。

 

 フラウ王女のそのような心の葛藤(かっとう)を読み取ったかのように、卑弥呼は『 日の本(ひのもと) 』では、月やもっと遠くの星に向かって飛行船が飛んでいる時代になっても、剣道(けんどう)槍術(そうじゅつ)弓術(きゅうじゅつ)など武道が精神修行の一貫として永久に取り入れられているとフラウ王女を慰めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ