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6−15 異次元の戦い

 ヒミコ(卑弥呼)との真剣での模擬戦が終わり、エーリッヒ将軍は自分の最も信頼する『 神道無限流(しんどうむげんりゅう) 』の剣技を持つラングスタイン大佐に、ヒミコがやってみせた瞬間移動術について尋ねた。

 ラングスタイン大佐も、将軍が感じているのと同様にヒミコの動きが通常の人間業(にんげんわざ)ではないと見ていた。

 どのように俊敏(しゅんびん)な動物であっても卑弥呼(ヒミコ)が取った移動術には及ぶべきもなかった。


 確か、戦場でフラウ王女と対峙した時に一瞬の内に身体のブレと同時にエーリッヒ将軍の頭上を飛び越えたことがあった。同じことをラングスタイン大将もフラウ王女との模擬試合で経験していた。

 エーリッヒ将軍は戦場でのフラウ王女のその瞬間的な動きと、今回のヒミコとの試合に多くの共通点を見出していた。そして、この二人が同一人物ではないかという荒唐無稽(こうとうむけい)な考えさえ浮かんできたが、そのようなことはあり得るはずがないので、将軍は頭を振ってその考えを否定した。

 

 確かに、今回のヒミコがとったあの動きは少なくとも人間にはあり得ないレベルのものであった。瞬時に移動、いや実際には確認されてはいないが、『 瞬間転移 』しているとしか思えなかった。


「いずれにしても、我々の常識の及ばない何かをあのお二人はお持ちのようだ。少なくとも敵に回せばやはり勝てる気がしないな。ラングスタイン大将!」


「確かに!それにしても人間長生きはするものですね。ハザン帝国にいた時に、将軍と酒を()み交わしながら、二人の剣で世界へ出て行こうなどと豪語(ごうご)していた自分達がとても恥ずかしくなりますね 」


「あの頃は、わしらも若かったな。わしとお前の二人がいれば剣で世界が取れると信じて疑わなかったからな。今考えるととても恥ずかしいわ!ハハハ、、、」


 フラウ王女と卑弥呼そしてクロード近衛騎士隊長の3人が並んで城の中へと入っていった。そしてフラウは大きなため息を吐いた。


 もちろん、卑弥呼と将軍の練習試合の(すさ)まじさを垣間見(かいまみ)たことが一番であるが、ハザン帝国との(いくさ)でフラウ王女がエーリッヒ将軍と剣を交えた際に自分が180㎝以上もある将軍の頭上を軽く飛び越えたときのことを思い出していた。

 今考えると、あれは自分の能力ではなくて卑弥呼が自分の中に居て、自分にそうするように仕向けたのではないかと思えたからだ。


「フラウ!そのようなくだらない昔のことでグダグダ悩むのはお前らしくないぞ。最初の発端が如何(どう)であれ、今のフラウはわしと同じ動きをすることがもう可能なはずじゃ 」


 確かに先にフラウ王女がラングスタイン大将と模擬試合をした時のこと、あの時も大佐の頭上を超えて大佐の後ろを取った。その時卑弥呼は全く介入していなかった。そう考えると、フラウの身体の中には既に瞬間転移の(わざ)が組み込まれていることになる。


 勿論、フラウ王女は最初から剣豪であったわけではない。一つ一つ血の滲むような努力を積み重ねて今の剣士に成長していた。勿論クロードという剣の師匠がいてくれたため、今のフラウ王女が存在していることは間違いない。


 その後、邪馬台国(やまたいこく)の卑弥呼女王との運命的な出会いやエーリッヒ将軍などの出現で、今や真の意味で王国随一の剣の使い手となり、名実ともに『 龍神の騎士姫(りゅうじんのきしひめ) 』の渾名(あだな)を自分のものにしていた。


「わしは年じゃからのう。自分の動きを出来る限り少なくしたいので、横に瞬間的に移動した。フラウは若くて血気盛んだから上に飛んで頭上を超えて移動した。ただそれだけの違いじゃ 」


「あまり。慰められている気がしませんが、、、」


「フラウももう少し歳をとると、頭上を越えるより横に動く方が楽だと感じるようになるじゃろう。わしから見ると八双飛(はっそうとび)びの方がよほど見応えがあって格好良いと思うのじゃがのう 、、、」


 フラウ王女の本当の意味での剣の師はやはり卑弥呼であった。


 卑弥呼は、元々剣豪と呼ばれる程剣技に優れているわけではない。卑弥呼は呪術に優れた神子(みこ)で、邪馬台国(やまたいこく)で最も優れた呪術師として、尊敬され畏怖(いふ)されていた。


 フラウ王女が邪馬台国に転移し時、卑弥呼はフラウの持つ極めて優れた剣技の指南(しなん)を受けた。それをほんの一日で習得し、それに卑弥呼が元々持っていた呪術師としての能力を付加し、今では神技(かみわざ)としか思えないレベルにまで昇華させていたのだった。

 その意味では、卑弥呼がフラウ王女に出会うことがなかったら、卑弥呼の剣の腕は驚嘆すべきレベルにまでには至っていなっていなかっただろう。


「クロード!どうした?少し元気が無いようだが、、、」

 卑弥呼が、クロード近衛騎士隊長の浮かない顔を見て、そう聞いた。

「ヒミコ殿や将軍などの剣、それにフラウの剣裁(けんさば)きを見ていると、フラウの指南役(しなんやく)をそろそろ辞退すべきではないかと思うのです 」


「クロード!それはお主の思い過ごしだと思うぞ、、、。お主はフラウに傷をつけることを一番恐れている。それが今一歩の所でフラウに勝ちをゆずる羽目になっているとわしは見ているが、、、」

 

 事実、卑弥呼はもし二人が敵同士として合間みえた場合であれば、恐らく実力伯仲でクロード近衛騎士隊長がフラウ王女に遅れを取ることはないのではと見ていた。


 この時、トライトロン王国内には神の領域に達した『 剣神 』が既に4人も存在していた。

 少なくとも剣の力だけであれば、トライトロン王国はこの世界の他国をも圧倒できるのかもしれなかった。

 

 しかし現実には、そう遠くない頃に剣の時代は確実に終わるはずである。フラウ王女やクロード近衛騎士隊長が天寿を全うする頃までは剣術も未だかろうじて残っている可能性はあるのだが、、、。

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