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6−14 真剣での模擬戦(2)

 卑弥呼(ヒミコ)はエーリッヒ将軍に真剣での模擬試合を申し込んだ。

 卑弥呼その申し入れに、周囲は一瞬どよめいたが、将軍の目は一瞬怪しい輝きを見せたものの、特に驚いた風もなく、さも当然だというように小さくうなづいた。

 周囲のどよめきが更に高くなる。


 将軍が自分の刀(katana)を腰に差した途端、場内は水を打ったように静寂に包まれた。立ち会いの審判はラングスタイン大佐が指名された。


 開始の合図と二人の礼が終わり、卑弥呼が先に刀を抜く。その刀の短さに皆があっと驚く。フラウ王女もまさか卑弥呼がまさか小刀のままで試合を行うとは考えていなかったので驚いた。一方、エーリッヒ将軍は卑弥呼のその刀の短さを気にしている風ではなく無言で対峙した。


 卑弥呼やエーリッヒ将軍にとって剣の長さは大した問題では無かったようである。当然将軍は『 居合抜刀術(いあいばっとうじゅつ) 』で迎え撃つつもりなのか、刀は(さや)に納められたままである。


 卑弥呼は将軍との間合いを測りながら彼に1歩近づく。フラウ王女は、卑弥呼が既に将軍の刀の間合いの中に完全に入ってしまってることに不安を感じていた。

 卑弥呼はそれを全く気にする風もなく更にじわじわと間合いを詰めていく。

 それまで長い間気を消していた将軍からの殺気が一瞬に膨れ上がった。


『 来る!』

 フラウは思わず自分の(てのひら)をしっかりと握りしめた。その(てのひら)は少し汗ばんでいた。


 卑弥呼が自分の間合いの中に完全に入ってしまっていることを確認したエーリッヒ将軍の刀は、普通の目では見えない速度で抜刀されていた。しかし、卑弥呼は、自分の身体を少し斜め横にそらしただけだった。卑弥呼の顔の数cm横を風切り音を発してその剣先が通り過ぎて行った。


 フラウ王女はすぐに次の『 返しが来る 』と再び自分の手をしっかりと握り締めた。将軍の返しの刀は確実に卑弥呼の肩先をとらえていた。

 そのはずだった。しかし、その将軍の刀は空を切った。卑弥呼はいつの間にか一歩程横に飛んでいた。


 フラウ王女の目には卑弥呼の身体が一瞬ブレただけのようにしか見えなかったことから実際には跳躍(ちょうやく)して避けたとは思えなかった。もし飛んで卑弥呼が避けたとすれば、将軍の刀の振り下ろされる速度の方が早く、確実にヒミコの肩先をとらえていたはずである。


 初手と次手までもが卑弥呼に避けられたエーリッヒ将軍であったが、少しの焦りも見られない。彼は今度は刀を(さや)に戻すことなく、自分の背中側に刀を隠して再び殺気を消した。


 エーリッヒ将軍はこの時、フラウ王女と戦場で対峙したときのことを明確に思い出していた。


 先程ままでヒミコ(卑弥呼)に感じていたその既視感の正体を今正確に理解した。そして、将軍はこのヒミコとフラウ王女が実は同一人物ではなかろうかとさえ考えてしまった。もちろん二人の姿形(すがたかたち)は全く異なるが、その対峙し方や剣筋に多くの共通点を見い出していた。


 フラウ王女も二人の試合を見ながら、あの日の自分と将軍との戦いを思い出していた。しかし、あの時の自分は卑弥呼の持つ小刀よりはるかに長い『 神剣シングレート 』を穿()いていた。その分間合いも長く取れたのだが、卑弥呼が小刀で将軍と立ち合いをしていることを考えると、そこには自分の勝機は全く見い出せないでいた。


 今度は、卑弥呼が将軍との間合いを詰める。相変わらずエーリッヒ将軍からの殺気は消されたままで微塵(みじん)にも感じられない。ヒミコは更に間合いを詰めようと少し前に身体を動かした。しかし、それこそが卑弥呼が仕掛けた誘いの罠であった。


 将軍の殺気がたちまち一気に膨れ上がり、彼の後ろ手に隠されていた刀(katana)がヒミコの脇腹から肩に向けて切り裂くように通り抜けていった。誰の目にもそうしか見えなかった。フラウ王女でさえも一瞬卑弥呼が切り裂かれたのではと思い顔をおおってしまった。


 しかし将軍の刀の軌跡の先には既に彼女の姿は無かった。


 将軍が返す刀を振り下ろした瞬間に、ヒミコの姿は将軍の真横で彼女があたかもずっと前からそこに居たかのように移動しており、かつ彼女の持つ小刀が将軍の首を捉えていた。


「それまで!」


 ラングスタイン大佐の声がかかり、エーリッヒ将軍の額から一筋の大粒の汗が流れ落ちた。


「参りました。ヒミコ殿!お見事です 」

 鍛錬場内は水を打ったような静けさに耳が痛くなるほどであった。


 今回の対峙でエーリッヒ将軍はヒミコの剣の(さば)きが、戦場でフラウ王女様と対峙した時との同一性を見出していた。


「どうしてかフラウ王女様との戦いを思い出してしまいました 」


「そうですか、あの戦争の少し前に私はフラウ殿からトライトロン王国の剣術の指南を受けましたので、そう感じられたのではないでしょうか?」


 将軍は、十分には納得できていないような顔をしたが、それ以上深くは追求して来なかった。正に敗軍の将、(へい)を語らずである。


「うーん、やはりエーリッヒ将軍殿は強いのう!わしに瞬間移動の能力がなければ、確実に逆袈裟(ぎゃくげさ)に切り裂かれ絶命していたじゃろうな。それでもあの時将軍が見せた恐ろしい量の殺気、あれはそれでも未だ真の殺気では無かったようにも感じているのじゃが、、、 」

・・・・・・・!

「多分、何かを確認したかったためにわざと発した殺気だったような気がするのう 」

「その何かとは?」

「フラウとわしの関係を知るためじゃろうな。恐らく、、、」

・・・・・・・!

「いずれにしてもフラウは素晴らしい剣の師を自分の味方につけることができたものよ。それもお主の持つ能力の一つじゃろうて、、、」

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