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6−12 クロードと卑弥呼の刀(katana)

 クロード近衛騎士隊長はエーリッヒ将軍から手渡された黒い長刀の()を握るなり、満面の笑みを浮かべ、何回も何回もその握り心地を確かめていた。

 そして意を結したように(さや)から刀身を引き抜いた。

 クロードの手の長さと刀(katana)の刃渡りがピッタリと合っており、刀を抜いた彼は非常に絵になる『 サムライ 』姿であった。


「それにしても、トライトロン王国の2大剣豪が共に刀(katana)に魅せられるとは、不思議なこともあるものですな!」


 エーリッヒ将軍自身、刀(katana)は実用性と芸術性その両方を兼ね備えていると確信していた。そんな刀に惚れないはずはないと思いながらも、刀を扱う習慣の全くないトライトロン王国の二大剣豪が認めてくれたことに喜びを隠せなかった。


「刀(katana)派の私としてはお二人が刀を大切に思って下さるのはとても喜ばしいことなのですが、王国の長い剣の歴史に少し申し訳ない気がしないでもありませんな、、、」

 エーリッヒ将軍は、少し照れたように頭を下げた。


「お話中、申し訳ありません。実はこの10本の小刀の中にはお二人の長刀と特に相性の良いものがあるはずです。調べてみましょうか?」


 そういいながら、ストムガーデ イ は小刀をテーブルの上に並べ、フラウ王女とクロード近衛騎士隊長にそれぞれの長刀をゆっくりと引き抜いてくれるようにと頼んだ。


 まずフラウ王女が赤い長刀を少しづつ抜き始めたその途端、並べられていた小刀のいくつかが、それに呼応するかのようにカタカタと振動し始めた。中でも一番反応が鋭かった赤い小刀の一本をストムガーデ イ はフラウ王女に差し出した。続いてクロード近衛騎士隊長は黒い長刀引き抜き抜かせ、最も相性の良さそうな小刀を彼に手渡した。


 フラウリーデ王女が蔵書館で『 日の本(ひのもと) 』の歴史を読んでいたとき、日の本で武士(もののふ)と呼ばれたもの達はその小刀を得物(えもの)として使用するのは緊急時のみで、主として武士としての身の潔白を証明する目的や自分の意思を貫くため、自らの腹を切り自決するために使われていと書かれていた。


 只、今回ストムガーデ イ が鍛造した小刀は、通常の小刀より数センチほど長めになっていた。


 トライトロン王国においては、そのような剣で身の潔白を証明するなどという風習は無い。そのため、ストムガーデ イ はいざという時に得物(えもの)としても十分使用できるように中程度の長さにしたようである。


「んん?それだと、『 神剣シングレート 』とこの小刀を組み合わせて持ち歩くことも可能ということになるな 」

 フラウ王女は、新しい発見をした子供のように目を輝かせた。


 エーリッヒ将軍やラングスタイン大将の持つ長刀はフラウ王女が使用するには長すぎ、少し短めの方が彼女の実力を発揮できるのではないかといい出したのは卑弥呼(ひみこ)である。

 フラウ王女はどうしても自分用に鍛造された刀をどうしても卑弥呼に見てもらいたいと思い強く思念した。


 次の瞬間フラウ王女の部屋の扉がノックされた。

 そして、扉を開けて入ってきたのは、白銀の髪、黒曜石(こくようせき)の瞳を持つヒミコ(卑弥呼)だった。


「ヒミコ殿の部屋から私の部屋までは歩いて5分以上はかかるはずなのに、、、」


「フラウ王女!そう硬いことはいわないでくれないか。おーっ!とうとう念願の刀(katana)ができ上がったのですね。私にも良く見させて下さい 」


 エーリッヒ将軍とストムガーデ イ は、驚きの余り無言で目だけが異様に見開かれていた。王国内では黒曜石の瞳と白銀の髪を持つ人間はほとんど見かけない。


「貴方がエーリッヒ将軍ですね。フラウ王女が剣の師と仰いでいる元ハザン帝国の将軍...」

・・・・・・・!

「フラウは将軍の刀(katana)と居合術(いあいじゅつ)に魅せられて、刀が欲しいといっていましたが、その刀がいよいよ完成したようですね 」


 ヒミコ(卑弥呼)はフラウ王女の持っていた刀を受け取ると、それを見つめる目が妖しく光り始めた。握りをしっかりと確かめたあと、刀を抜き始めた。鞘から刀がすっかりと抜かれると、フラウ王女が刀を抜いた時と同じように(まぶ)しいほどの光がその場にあふれ始めた。

 そのフラウ王女用に鍛造された刀は、卑弥呼(ヒミコ)にも同様に反応していた。おそらくその刀はフラウ王女と卑弥呼の血液の同一性を感じ取っていた可能性があった。


「想像以上に優れた刀(katana)が完成したようですね。私からも御礼をいわせてもらいます。この刀には魂が宿っています 」

 

 フラウ王女は、(あわ)ててヒミコが摂政の腹違いの妹であることを紹介した。しかし、エーリッヒ将軍はそのことよりも、自分の心の奥にあるヒミコに対する既視感のほうが気になっていた。

 何となくそのヒミコと名乗る人物と一度剣を交えたような気がしてならなかったからだ。


 刀を抜いたヒミコからはいいようもない妖気が放たれていた。

 フラウ王女は、自分の赤い長刀と呼応する小刀をヒミコのために1本選んでくれないかとストムガーデ イ に頼んだ。


 フラウ王女は、自分とクロード近衛騎士隊長の結婚式に出席するために、遠路遥々(はるばる)おいでいただき有難うございますといいながら、ストムガーデ イ の選んだ赤い小刀をヒミコに差し出した。

 ヒミコはその小刀を受け取ると、少し抜きかけ絶品の笑みを浮かべ、 観賞用としても素晴らしいが、自分は実用的な剣として使用したいと思っていると話した。


「ところで、話は変わりますが、ハザン帝国随一の剣豪エーリッヒ将軍殿!いえ、『 ハザン帝国の剣神殿 』一度私とお手合わせをお願いできないでしょうか?」


 ヒミコ(ひみこ)の申し出にフラウ王女は、やはり義姉は底が知れない と言葉を無くしていた。


 フラウ王女がさっきまで知らなかったエーリッヒ将軍の二つ名さえも卑弥呼は既に知っていた。フラウが邪馬台国(やまたいこく)に転移したとき、卑弥呼(ヒミコ)九郎兵衛(くろべえ)邪馬台国(やまたいこく)随一の剣の使い手だと紹介したが、恐らく九郎兵衛よりも自分よりも卑弥呼の方が遥かに強いだろうと、この時なぜか確信した。


 一方、エーリッヒ将軍は自分の既視感の真偽を確かめてみたいという誘惑に(あがら)えず、ヒミコの手合わせに関する申し入れを了諾した。

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