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1−19 宝の海と黄金の平野

 フラウ王女は、卑弥呼(ひみこ)に連れられて物見櫓(ものみやぐら)に登った。邪馬台国(やまたいこく)では主祭殿(しゅさいでん)を中心にして東西南北いずれの方向の遥か彼方(かなた)まで視認できるように物見櫓が設置されている。

 ここは南に位置する物見櫓。頂上まで登って眺めると、そこには、どこまでもどこまでも続くいている広大な湖が広がっていた。


「フラウ!その方の国では湖しか無いのかえ?これは海というものじゃ!その遠く行き着く先には大陸が存在するのじゃが、目では見えない 」


 見渡す限り青い水しかない卑弥呼が海と呼んだものに、フラウは母が話してくれたトライトロン王国から幾つかの国を経たところに広大な海というものが存在しているらしいことを知識としては知っていた。しかし実際に目にするのはこれが初めてだった。


 事実、この世界の殆んどはこの海から成り立っている。一説には動物はこの海から陸地にはい上がってきて、長い長い年月を経て今の人間にまでに進化したという話も存在している。その一方で人間は神様が作ったという話も根強く存在はしている。

 どちらも本当のようで、また嘘のようでもあった。


「トライトロン王国では人間は神様が作られたと、たいていの者がそう信じています 」

 

「あの海を我々は、『 有明の海(ありあけのうみ) 』と呼んでいてな、(くじら)や色々な魚、そして色々な貝、ワカメやひじきなどの海藻類も一年中豊富に採れる宝の海(たからのうみ)なのじゃ 」


 自慢げに話しかける卑弥呼は、フラウ王女から見るとやはり自分とさして年の変わらないお姉様であって、千年近くも(よわい)を重ねてきたと人物とはとても感じられなかった。


「そうそう、フラウは(くじら)というものを見たことがなかろうな!有明の海に()む鯨は、20m以上の大きさの生き物なのじゃ。その肉も美味いが、油は灯の原料に使用されたり、捨てる所の無い生き物として重宝されているのじゃ 」


 卑弥呼は少し自慢げにフラウに話した。フラウの世界では、その昔マンモスという陸上に住む動物が食料にされていたということを聞いたことがあった。

 マンモスは陸にいる巨大生物で、鯨は海に()む巨大生物なのであろう。フラウ王女の世界ではマンモスは絶滅してから久しい。卑弥呼の話では、海に住むその鯨は今でも生きていて、食料や生活必需品として重宝されているらしい。


 卑弥呼は服の袖の隠し(そでのかくし)から細い筒の様なものを取り出すと、

 ” フラウよ!これを(のぞ)いてみよ ”

とフラウ王女の脳に呼びかけた。


 卑弥呼の頭の中の呼びかけに、フラウ王女は海の方向に向けられた筒の中を(のぞ)いた。といっても実際には意識をそちらの方に向けただけである。その中に見えたものは、海の中に無数に浮かんでいる黒いものであった。その一番先頭のそれをよくよく見ると、その上には人間らしい人影が動いていた。


「フラウや!あれが肥後国の軍船(ぐんせん)というものじゃ 」

 卑弥呼が目にしている細い筒を通してじっくりと見てみると、その船の一つ一つには30人位の武装した兵隊が乗っていた。その船は少なくとも200艘以上はありそうである。そうなるとその船に乗っている兵士は総勢約六千人近くとなる。


「なんとまあ厄介(やっかい)な!」

 卑弥呼はつぶやいたが、特に心配している様子や(あせ)りは微塵(みじん)にも感じられず、ただただ面倒臭い厄介者(やっかいもの)とだけ思っているように感じられた。


「卑弥呼殿!邪馬台国で迎え撃つ兵隊の数はどれぐらいの予定でしょうか?」


 卑弥呼は肥後国の軍船を、神殿の守備部隊500名程で迎え撃つつもりであった。実際、肥後国の兵隊程度に対し、わざわざ徴兵(ちょうへい)するまでもないだろうと考えていた。

 まして他国の力を借りるなど後々面倒臭くなると、微塵(みじん)にも考えているふうではなかった。


折角(せっかく)フラウが邪馬台国に来てくれたんだ。ほかの物見櫓も見せておこうかのう 」

 卑弥呼はそう言ったかと思うと、フラウは卑弥呼の身体がフワッと浮遊するのを感じた。次の瞬間、卑弥呼の身体は北の物見櫓の上だった。

 「 ここから北の方向を見ると、全部が山となっておるだろう 」

 卑弥呼はそう尋ねたが、フラウ王女は一瞬のうちに数百メートル離れている北の物見櫓に卑弥呼の姿が移動したことが気になってしょうがなかった。


「これは、転移というものじゃ 」

 卑弥呼はこともなげにそう思念したが、フラウリーデ王女の世界では、その様な移動法があること自体全く聞いたことがなかった。

「これが、呪術というものなのですか?」

 卑弥呼はフラウ王女の問いに、

 ” まあな ”

と答えただけであった。


 卑弥呼のいう北の山々には野生の動物がたくさん生息(せいそく)してた。食料となる多くの(うさぎ)鹿(しか)(いのしし)(くま)などの(けもの)(きじ)などの野生の鳥などが村人の貴重な食糧源となっていることなどを卑弥呼の思念で知ることができた。

 加えて、その山々には蜜柑(みかん)葡萄(ぶどう)、イチゴ、(くわ)の実などの果実も豊富で、村人は1年中食料に難儀(なんぎ)することが少ないことも卑弥呼の思念から感じ取れた。


 一方でその険しいその山のおかげで、これまで北の方向から敵軍が山を越えて攻め込んで来たことは無かった。つまり天然の要塞(ようさい)となっていた。

 

 女王卑弥呼がフラウ王女に語りかける言葉は、所謂(いわゆる)思念であるため、フラウの脳内に直接卑弥呼の考えがそのまま感じられる。フラウ王女は王国内で類似したものを想像しながら聞いていたので、その多くは理解できた。とはいえ(くじら)についてはフラウは想像できなかったが、、、。

 

「最後に西の物見櫓を案内しよう 」


 卑弥呼はそう言いながら再び転移した。

 そこには見渡す限りの緑や小麦色の広大な平野がどこまでも続いていた。東側より西側の平野は特に広大で、トライトロン王国で主食とされているような小麦色した穀物(こくもつ)収穫(しゅうかく)されるのを待っているかのようにゆらりゆらりと風に(なび)いて揺れていた。

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