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6−5 卑弥呼とジェシカ

 卑弥呼(ひみこ)はジェシカ王女に案内されながら、今晩からしばらく宿泊する自分にあてがわれた部屋へと向かった。その部屋に入った途端、卑弥呼はその部屋の広さと豪華さに驚き、普段は飄々(ひょうひょう)としている彼女でさえも一瞬息を飲んだようである。


「いや〜、驚いた。このの部屋はとても大きいのう。邪馬台国(やまたいこく)の神殿の広さぐらいあるわい!」

「卑弥呼お義姉様!ここは城内でも一番広い部屋です。お義姉様が来られるというので、両親がこの部屋を用意してくれたようです 」

「そんなに気を()ってもらわなくてもかまわなかったのじゃがな 」


 卑弥呼はジェシカ王女に感謝を示したが、満更でもなさそうな顔を見せていた。


「それにしても、ジェシカは邪馬台国の言葉をすっかり覚えたようじゃのう!」

 

 ジェシカ王女は姉フラウ王女が卑弥呼義姉と出会ってから大きく変化したことについて話し始めた。実際、卑弥呼と出会う前のフラウ王女は考えよりも先に行動が優先していた。俗にいえば、走ってから考えるタイプであった。


 それでも、最近のフラウ王女は、走り出す前に自分の中で色々とシュミレーションを行うように変わってきていた。それでも、元来の彼女の性格故か、内容によっては走りながら考えてしまうところは残っていた。

 しかし、それは彼女が戦略性と行動力が両立できている証拠だとも考えられた。


「ジェシカから見た今のフラウは、好ましくないのかのう?」


「いいえ!とても思慮深くなってきたと感じています 」


「そうなのか?フラウも少しは成長しているようじゃのう。そうよのう!出会った頃のフラウは剣一本で世界でも制覇(せいは)しそうな、とんでもない勢いでとても危うく感じられたものじゃったからのう 」


 卑弥呼にとって、これまで身内は姫巫女(ひめみこ)だけだといっても嘘ではなかった。しかし邪馬台国にフラウ王女が時空を超えて紛れ込んできてからは、自分と同じ血を持つ者が姫巫女以外にも存在すると分かり、卑弥呼は歓喜した。


 エリザベート女王とも恐らく血のつながりがあると思われる。

 少なくともジェシカ王女と卑弥呼の血のつながりは、自分の思念がジェシカ王女にも確実に及んでいるところから、そう判断できた。

 エリザベート女王に対しては、さすがに一国の女王。そうむやみに卑弥呼が脳内へ入り込むことは(はばか)られていた。


「ジェシカはフラウみたいに無鉄砲なことはしないと思うので安心じゃが、フラウは剣の腕に優れ過ぎて、その分危うさも(あわせ)せ持っていた。だから、剣以外の戦い方をいくつか伝授してきたつもりじゃが、、、」

 

「ところでヒミコお姉様!私も魔法陣で邪馬台国に行くことは可能でしょうか?」

「可能とは思うが、わしとしては決して勧めたいとは思えないのう 」


 卑弥呼は、人間の生体を構成している元素についての話をジェシカ王女に話し始めた。

 ジェシカ王女が蔵書館でその元素に関する内容を読んだ時には彼女が初めて目にする概念で、完全に理解することはできなかった。それでも物質を構成する元素が実在しているという大凡(おおよそ)のことは何となく理解できていた。

 しかし、この時卑弥呼がジェシカ王女に話した人体を構成する『 元素 』の概念が、この先のジェシカ王女の座学の知識を大きく開花させていくことになる。

 

 魔法陣による転移は、魔法陣の光によって人間を構成する肉体が一旦は全て原子の状態に分解され、目的の魔法陣まで元素のままで移動し、その受け側の魔法陣の光の中で元の人間の形に再構成されると卑弥呼は考えていた。

 

「卑弥呼お義姉の考えが正しいと仮定すると、相当に危険な行為となってしまいますね 」

「そうなのじゃ!移動した先に同じ種類の魔法陣があったとしても、一端、原子状態に分解されバラバラになった身体が正確に元通り確実に再構成されるという絶対的な保証はないからのう! 」

・・・・・・・!

 つい最近、フラウ王女からも同じように卑弥呼に会うために邪馬台国へ行きたいとなことを頼まれたことがあったが、婚約者のクロードの気持ちにもなって考えろと言って止めさせたところである。


「良くわかりました。確かにあの時のフラウ姉様の場合は、トライトロン王国の命運と自分の命を天秤にかけた上での邪馬台国行きでしたものね!」


「聞くところによると、ジェシカにも(いと)おしいと思っているホッテンボロー殿ができたわけじゃから、彼の身になって考えてみると良い。未知の危険を冒して好きな相手を送り出したいとは誰も思わんじゃろう 」


「確かにそうですね!逆の立場だったらきっと猛反対すると思います 」

 

「まあ、どうしてもジェシカにその必要な事態が発生した場合には、その時にはわしが何とかしよう 」

「ありがとうございます。お義姉様!」


 卑弥呼は、ジェシカ王女をじっと見つめた。そしてジェシカの予想しているトライトロン王国の今後の変化をどう予測しているかについて聞いた。

「トライトロン王国は、いやこの世界はこれからどう変わって行くと考えている?ジェシカ!」


 ジェシカ王女はそれが実力を伴わない進化であれば、いずれその文明を自分達だけでは制御(せいぎょ)できなくなってしまい、遅かれ早かれ自滅の道を、坂道を転がるようにあっという間に転落してしまうのではないかと予想していた。

 ジェシカ王女は座学に精通していたこともあり、既に実力を伴わない進化が、結局は自分達の身を滅ぼしてしまうであろうことを感じ取っていた。


 今回の王国科学技術省の設立で飛行船を初め、新しい色々な物が発明されていくことになるであろうが、恐らくその中にはこの世界にとって極めて危険な代物(しろもの)(まぎ)れ込んでしまう可能性は極めて高かった。


「私の役目は、そのストッパー役になること、、、」

「そうじゃな!ジェシカはその科学者や化学者達に彼らが思いつきそうな程度のヒントを与え、あくまでも彼らが自ら発見したように思わせること、、、」


 ジェシカ王女は義姉卑弥呼の考えていることがよく理解できていた。そのため、自分の仕事は、研究者を上手に誘導することだと改めて自分に言い聞かせた。

 

 卑弥呼は、フラウ王女から聞いていたジェシカ王女と同じ年のジェシカがひそかに天才少女と呼んでいる友人ニーナ・バンドロンのことについて聞いてきた。

 ジェシカ王女はこのところほぼ毎日のようにニーナと一緒に蔵書館通いをしていた。彼女はエーリッヒ将軍の娘で、彼女の王国内での正式な役職は蔵書館長である。


「ほう、蔵書館長とな!ということは、あの蔵書の秘密も既に知っているということなのかな?」

「フラウ姉様が、ニーナに永久的な城勤めの了解を取り付けていますし、彼女は蔵書を抱いて眠るくらいの蔵書好きです 」


 卑弥呼は、ニーナ蔵書館長に関する大方(おおかた)の話はフラウ王女から聞いていたものの、一番仲の良いジェシカ王女から直接彼女の考えているニーナ像を聞いておきたかった。

 それでも卑弥呼からすれば、ニーナに関する話はそれほど重要ではなかったとみえて、その話はすぐに打ち切ってしまった。

 そして今回は時間も十分にあるため、ジェシカ王女に蔵書館へ自分を連れて行ってくれるようにと頼んだ。


 卑弥呼からすれば、トライトロン王国の蔵書館であれば、一ヶ月でも二ヶ月でも(こも)っていたいほど魅力満載の場所であった。


「ああ、そうだな!時間を見つけてニーナ蔵書館長とも直接話がしてみたい。ジェシカに天才少女と言わせるその子にな 」

「分かりました!明日にでも一緒に蔵書館へ行きましょう!」

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