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6−4 邪馬台国の姫巫女(ひめみこ)

 『 水鏡(みずかがみ) 』の前に立った卑弥呼(ひみこ)はその中をを(のぞ)き込みながら短い呪文を唱えた。しばらくすると、水面がざわめき始めやがてそれが治まると、冴羽色(さえばいろ)の黒髪、黒曜石(こくようせき)のような黒い瞳、小さく赤い唇の若い姫巫女(ひめみこ)の顔が映り込んできた。


「お婆様!無事到着されたご様子。安心しました 」


 姫巫女は、最近卑弥呼の従者(じゅしゃ)であった九郎兵衛(くろべえ)と結婚し、その名前を天翔(てんしょう)女王と改名していた。それに伴い卑弥呼(ひみこ)邪馬台国(やまたいこく)の第一線からはしりぞき、よほどのことがない限り祭事に介入することはなくなっていた。


 姫巫女から普段『 お婆様 』と呼ばれているようだが、フラウ達の手前少し決まり悪そうな表情が見てとれた。確かにフラウには義姉と呼ばせている。その矛盾に気付いたのかもしれない。

 フラウ王女はそれに構うことなく、水鏡の上に身を乗り出すようにして、自分はトライトロン王国のフラウリーデだと名乗った。

「卑弥呼お義姉様にはいつもわがままな頼みごとばかりをお願いしており、姫巫女様にとても申し訳なく思っております 」


 天翔女王は、フラウの燃えるような赤い髪、空に吸い込まれるような青い瞳、引き締まった唇、それを際立たせる透き通るような白い肌に一瞬息を飲んだ。そして卑弥呼がいつか彼女に見せてくれた蔵書に描かれていた異国の女性を思い出していた。

 

「フラウリーデ王女様に出会ってから、お婆様はとても私に優しく接して下さるようになりました。フラウ王女殿が家族の(きずな)の大切さを思い出せてくれたとお婆様がとても喜んでおりましたので、こちらのほうこそ感謝に耐えません 」


「ああ、天翔女王!それ位にしてくれないか、わしのほうが気恥ずかしくなるではないか?それより、もう一人の義妹トライトロン王国の第二王女を紹介しておこう。フラウの妹でジェシカ、お主と同い年じゃ 」


 フラウ王女は、ジェシカ王女の手を引き水鏡を見つめさせた。

「フラウリーデの妹でジェシカと申します。姉がいつもお世話になっております。これからも私達の力になって下さいませんか 」


 ジェシカ王女の少し硬すぎる挨拶に天翔女王はむしろ好感を持ったようで、クスッと笑いながら、自分こそよろしくと頭を下げた。


 卑弥呼は、天翔女王に急ぎの用事の際にはいつでも思念を送ってくれと言い残して水鏡での連絡を切った。どうやら卑弥呼と天翔女王は楽に思念でやりとりが可能なようである。

 水鏡に映っている天翔女王の顔は次第に薄くなりやがて何も見えなくなった。


「フラウお姉様!さっきからずっと大事そうに抱えておられるそれは何ですか?ひょっとしたら、それは邪馬台国(やまたいこく)の『 銅鏡(どうきょう) 』と呼ばれている鏡ではありませんか?」


「何!ジェシカはこの銅鏡のこと知っているのか?」


「 私、『 東の日出る国(ひがしのひずるくに) 』の蔵書の中で見たことがあります。その銅鏡の裏には五芒星(ごぼうせい)の魔法陣を下彫りとしてその上に伝説の火の鳥朱雀(すざく)が彫ってあるんですよね?」


 ジェシカ王女のフラウ王女への問いに、卑弥呼は感心したようにジェシカ王女を見つめた。そしてトライトロン王国の蔵書館とそこに保管されている蔵書の数々が極めて貴重なものであることを改めて確信していた。先に卑弥呼がフラウ王女の頭の中に宿って王国に来た時には、他に興味の対象があったため、その部分は見逃(みのが)していたのかもしれない。


「そのようなことまであの蔵書には記載してあったのか?やはり、あの蔵書館は宝の山のようじゃのう。今回の旅も当分退屈しないですみそうじゃ。少し早めに来たのは、それを期待してのことでもあったのじゃが、、、」


 フラウリーデ王女がもう少し落ち着いたらジェシカに蔵書館を案内させましょうというと、卑弥呼は今度の旅も楽しくなりそうな気がすると笑いながら、よろしくなジェシカとその手を肩にあてた。


「ジェシカ!少しゆっくりしたい。わしのために用意下さっているという部屋へ案内してくれないか?お主ともう少し話しをしておきたいこともあるし、ジェシカが学んでくれたという大和言葉(やまとことば)でゆっくりと話そう 」


 ジェシカ王女は、卑弥呼のために用意されている貴賓室(きひんしつ)への案内を自分に頼まれたのがとても嬉しかった。姉の慕ってやまない卑弥呼義姉が自分に直接声をかけてくれたことにこの上もなく感激していた。そしてこの先、王国科学技術省を率いていく上で、卑弥呼の知恵を借りることが多々出てくるだろうと予感していた。


「ヒミコお義姉様!私は姉から聞くお義姉様の話で自分なりに想像していました 」


「それで、フラウから聞いていたわしと実物には違いがあるのかな?」


「いえ、話を聞きながら私なりに想像を働かせていましたが、自分の眼で直接見るお義姉様は、想像の域を出ています 」


「それは、()め言葉として受け取ってもかまわないのじゃろうのう 」


「もちろんです。遥かに、、、」

 

「やっぱり、ジェシカは人の心を(とろ)けさせる天性のものを持っているようじゃのう。ホッテンボロー殿がジェシカを好きになったのも十分に(うなづ)けるというものじゃて、、、 」


 貴賓室に向かいながら卑弥呼は、プリエモ王国のホッテンボロー王子の仁成(ひととなり)についてジェシカに尋ねた。もちろん彼のことについてはフラウ王女からある程度聞いているので、特に聞く必要はなかったのだが、ジェシカ王女との話のきっかけに、あえて彼のことを話題にした。

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