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6−3 卑弥呼とエリザベート女王

 卑弥呼(ひみこ)の手に握られたその銅鏡(どうきょう)はきれいに磨かれており、おそらく特殊な処理が施されているのか、トライトロン王国にあるガラスの鏡より更に鮮明に人の顔を写し込むことができそうな代物(しろもの)であった。

 またそ鏡面の裏には邪馬台国(やまたいこく)特有の伝説の生き物と思われる朱雀(すざく)の彫り物が施されていた。


 二人の驚嘆した顔をよそに卑弥呼はニコニコと微笑みながら、手にしたその銅鏡をフラウ王女に手渡した。


「そうだ!これはフラウに贈ろう。フラウが別世界から邪馬台国に訪れた初めての人間として、その記念としてな。フラウの部屋に飾ってもらえれば、わしも嬉しい 」


 フラウ王女は驚きながらもその銅鏡を手に取り、磨きすまされた表面加工に自分の顔を写し、そして銅鏡の裏の彫りの精巧さを指でなぞった後、胸に抱いた。


「喜んでくれたようで、良かった。その銅鏡は特別なもので邪馬台国でも全部で3つしかないものなので、その一つはフラウが持つに相応(ふさわ)しい 」


「そんな大切な物を私がもらい問題ないのですか?」


「義妹と銅鏡を比較するまでも無いと思われるが、、、!」


 卑弥呼は何時になく機嫌が良く、鼻歌でも出てきそうな雰囲気である。やはり、卑弥呼自身もフラウの目を通して周りを見るのよりも実態のままで王国の城や中庭の風景を(じか)に自分の目で見れるのが楽しくてしょうがないというように空気を深く吸ったり、空の青さや城の景観を五感を使って楽しんでいる様子であった。


 三人が城の中に入ると、エリザベート女王、スチュワート摂政とジェシカ王女が出迎えてくれた。


 スチュワート摂政は、娘フラウがヒミコにいつも迷惑をかけて恐縮していることを深く頭を下げながら感謝の言葉を述べ始めた。実際、ヒミコの存在がなければ、今自分達はこの場で無事にヒミコを迎えることは不可能であったことを確信していたため、そのあいさつも極めて丁重であった。


「王国の救済者として王国を挙げてヒミコ殿を歓迎させていただきます 」


「ああ、スチュワート摂政殿!どうか頭を上げて下さい。義妹の危機を助けるのは義姉として当たり前のことです。気になさらないでください 」

・・・・・・・!

「それとフラウ王女から聞かれていると思いますが、フラウと私の間には同じ血が流れています。恐らく女王様とも似たような血が流れているかと、、、!」


 スチュワート摂政はフラウからヒミコが長い漆黒の髪と聞いていたため、純銀色に輝くの長い髪に少し驚いていた。


「フラウと相談して、トライトロン王国では漆黒の髪は極めて(まれ)だ聞いておりましたので、良からぬ詮索(せんさく)を避けるために白い髪にしてみました 」


 フラウ王女からヒミコのことを詳細に聞かされてはいたものの、やはり半信半疑の部分も多く、戸惑いながらも女王と摂政は、改めてヒミコに丁重に頭を下げた。


 卑弥呼は、少し照れたように自分はフラウ王女が好きで手助けしただけで、王国の女王や摂政が頭を下げるようなことではないと、二人の頭を上げさせた。


 ジェシカ王女はモジモジとしていたが、卑弥呼が邪馬台国の言葉を話すことを前提に、ここ数週間『 大和言葉(やまとことば) 』を徹底的に研究しほぼ完全にマスターしていた。そのため、卑弥呼がトライトロン王国の公用語で話していることに、驚くとともに少し残念に思った。


「ヒミコ女王様は、トライトロン王国の公用語を話されるんですね。私、女王様と大和の言葉で話そうと思い、一所懸命勉強しました、、、」


「ジェシカ!有難う。後で二人でゆっくり大和の言葉で話をしようではないか!ジェシカに伝えておきたいことも沢山あるし、その時はやはり大和言葉が便利じゃからのう、、、」


「さあさあ、卑弥呼殿もさぞお疲れのことでしょう。立ち話はこれ位にして一旦来賓室でくつろがれませんか?」

 この様子では、立ち話がまだまだ続きそうと感じたのか、エリザベート女王は卑弥呼を来賓室に案内し、しばし旅の疲れを取ってもらうようにとフラウ王女を促した。


「フラウ王女!、その前に『 水鏡(みずかがみ) 』の所へ案内してくれないか?姫巫女(ひめみこ)に無事トライトロン王国へ着いた旨を連絡しなければ、、、」


 フラウが水鏡の場所に連れて行くため卑弥呼とジェシカ王女を連れて自分の部屋に向かった後ろ姿を見ながらエリザベート女王は、それにしても荷物は何も持たれていないがと不思議そうにつぶやいた。

 クロード近衛騎士隊長は、卑弥呼の持つ不思議な小物入れの話をするために女王と摂政に椅子にかけるように促した。


 ジェシカ王女は卑弥呼がフラウ王女と一緒に自分にもついて来るように声をかけてくれたことに喜びを隠せないでいた。


 ハザン帝国との戦が終わった後、しばらくは水鏡と護摩壇(ごまだん)のある部屋はカーテンで仕切られていただけだった。しかし今ではその部屋は綺麗な壁で完全に隔てられており、ドアには鍵がかけられていた。フラウ王女以外は中に入れないように作り替えられていた。この部屋に入るのは妹のジェシカ王女であっても今回が初めてである。


 フラウ王女としては、他の者に知られたくないという気持ちもなかった訳ではないのだが、それよりもこの護摩壇と水鏡が自分と卑弥呼義姉をつなぐ唯一のものとして無闇に知らせたくないという気持ちがそうさせていたのかもしれなかった。

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