6−1 時空を超えた卑弥呼
これから第六話の始まりです。
今回、邪馬台国の卑弥呼は実体のままトライトロン王国に転移してきた。フラウ王女が夢にまでみた卑弥呼は相変わらずの破天荒さで登場してくる。
そしてフラウ王女の結婚式。その結婚式で将来フラウリーデ女王の剣となるマリンドルータ・リンネが運命の出会いを果たすが、一方でトライトロン王国内の貴族達が少しづつその正体を表し始める。
また、いよいよ飛行船開発のための研究所も始動開始です。
フラウ王女が『 水鏡 』を使って卑弥呼に結婚の招待を出してから10日後、トライトロン王国王位第一継承者フラウリーデ・ハナビー・フォン・ローザス王女の脳内に義姉である邪馬台国の卑弥呼からの思念が入ってきた。
明朝、卑弥呼は邪馬台国の神殿に設置されている魔法陣を通ってトライトロン王国に転移するつもりのようである。それでトライトロン王城から少し離れたところにある魔法陣のある洞窟に自分を迎えに来て欲しいとの内容であった。
実際のところは卑弥呼一人でもなんなくフラウの部屋まで来ることができるのだが、今回はラウ王女の結婚式への正式な招待ということを考えると迎えにきてもらう方が無難だと判断したようである。あり得ないことであろうが、万が一にでも不審者として取り扱われるのは卑弥呼の本意ではなかった。
まあ卑弥呼であれば幾らでも誤魔化して侵入する方法はあるのだろうし、洞窟から直接フラウ王女の部屋まで転移することも可能であるのだが、王国からの正式な招待客でもあることを考えると、正々堂々と表門から入るのが礼儀であろう。
元々フラウ王女自身も当然洞窟までクロード近衛騎士隊長を同行するつもりであった。
先般、卑弥呼がフラウ王女の脳内に仮り住まいして王国入りした際に、婚約者のクロード近衛騎士隊長についてはフラウ王女の目を通して既に知っているはずである。
それでもフラウ王女としては自分の婚約者の近衛騎士隊長クロード・トリトロンを真っ先に卑弥呼に正式に紹介したいと考えていた。
「明日本物のお義姉様に会えるのをとても楽しみにしています 」
「本物も偽物も無いのじゃがな!」
卑弥呼の笑い声とその思念を最後にフラウ王女の脳内から彼女の気配は消えてしまった。
フラウ王女は、明日の朝卑弥呼と直接逢えることの喜びに眠れそうになかった。何度か寝返りを打ちながら、邪馬台国に行った時に見た『 銅鏡 』の中に映し出された卑弥呼の姿を想像していた。
フラウ王女が自分の意思で邪馬台国へ転移した2回目。フラウ王女の思念は卑弥呼の脳内に入り込み、そしていつも朝起きるような感覚で卑弥呼の敷布団の中で目覚め、その時最初に見たのが枕元にあった銅製の鏡であった。
フラウ王女は『 銅鏡 』の中で卑弥呼の顔を初めて見た。銅鏡の中の卑弥呼の顔はもやがかかったように少しぼやけて見えた。最近では自分の部屋の中に設置されている 『 水鏡 』で卑弥呼義姉の顔はしばしば見ることができる。だが水鏡の中での卑弥呼の顔はやはり少し無機質的に感じる。
今回は、実物の卑弥呼を自分の目で直接見れるのだ。
白い肌、長い黒髪、黒曜石の瞳、意志の強そうな引き締まった綺麗な赤い唇だったと思うが、今日はっきりと卑弥呼義姉の姿形が明確に自分の目で確認できると考えると、フラウ王女の心は浮き立ってなかなか寝つけそうにもなかった。それでも何回か寝返りを打っているうちに、フラウ王女の騒いでいた心は次第に凪いできて、やがて深い眠りへと入っていった。
翌朝、フラウ王女は朝食の食卓で母のエリザベート女王、父のスチュワート摂政、妹のジェシカ王女と婚約者のクロード近衛騎士隊長に、邪馬台国の卑弥呼女王が自分達の結婚を祝うためにトライトロン王国を訪問して来ると爆弾発言をした。
もちろん、これまでのフラウ王女の言動から家族の誰もが卑弥呼の存在を疑っていたわけではないが、フラウを含めまだ誰も卑弥呼の実体を目にしたことはなかった。
食事をしていた全員のスープ用のスプーンが一斉に凍りついてしまったように止まってしまった。
「クロード!一緒に洞窟まで迎えについて来てくれないか?」
いつもフラウ王女と一緒にいるクロード近衛騎士隊長は邪馬台国の卑弥呼の実在をほかの誰よりも強く感じ取ってはいたのだが、それでも実物の女王に会うことは信じ難く、大きな期待と少しの不安を抱えながら出迎えの支度を始めた。
「シノライン、アンジェリーナ!今晩は大切なお客様の歓迎をするので、早速準備を始めるように召使い達に連絡して!それと当分この城にお泊まりになるので、最上級の部屋の掃除も念入りに頼みましたよ 」
エリザベート女王の声に早速二人の侍女はその場から散っていった。
朝食が終わって1時間位経った頃に卑弥呼からの思念がフラウの脳内に入ってきた。今から邪馬台国を出るという。
二人は早速連れ立って、卑弥呼義姉を暗い所で待たせては申し訳ないと急ぎ城外にある洞窟へと向かった。
洞窟入り口の扉を開くための鎖を引っ張ると、扉が徐々に開き始める。それと並行して下へ降りるための階段が生じ始めた。この時何故か、フラウ王女はプリエモ王国のリーベント・プリエモール男爵の顔を思い出していた。
プリエモール男爵家の機械仕掛けの門の開閉とこの洞窟の岩の開き方に類似性を感じたからだ。この洞窟の扉も、せり下がって生じていく階段も、少なくともトライトロン王国には見られない機械仕掛けと思われる。しかも、扉が開くと同時に洞窟内の全ての場所が明るくなる仕掛けはフラウ達には全く見当もつかなかった。
今ここに、もしプリエモール男爵が居たら直ちに齧りつきそうな仕掛けだと思いながらも、男爵には未だ話すべき時期ではなだろうとも考えていた。




