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1−18 剣術指南(けんじゅつしなん) 

 卑弥呼(ひみこ)は自分で公言した通り、まるで砂漠の砂が水を吸い込むようにフラウリーデ王女の持つ剣術の能力をたったの三日間で次々と習得していった。実際に立ち合ったり言葉で指導することもなく、卑弥呼はフラウ王女が頭の中で思念するだけで次々と彼女の持つ剣術の技術を身につけることができていた。


 一方、フラウ王女は邪馬台国(やまたいこく)における過去の膨大なデータから未来を予測する方法や、星読(ほしよみ)みの術などを卑弥呼から習得していった。


「わしはフラウの持つ剣の技術をほぼ身に付けることが出来たようじゃが、そなたに対しては未だすぐに役立つものを教えたとは思えないのう、、、」


 もうこの時点で肥後国(ひごのくに)の軍勢は既に邪馬台国の近くの有明(ありあけ)の海まで迫っていた。

 フラウ王女は卑弥呼から、

 ” 時間が許されるならばもう2〜3日此処に留まり、先読みの術などを実体験して帰ってはどうかな?”

と問われた。

「フラウの活用し方次第では、ハザン帝国のトライトロン王国への侵略に対する対応策に新たな考えが生まれてくるやも知れぬぞ?」


 卑弥呼は唐突に、

 ” 自分の持つ呪術力でもしフラウ王女が時代を超えて生きることが可能となった場合、フラウにその覚悟があるのか ”

と聞いてきた。


 フラウ王女がもし実態であったならば、確実に目を輝かせ、それは不老ということですか?それとも不死ということでしょうか?と問いただしたであろう。


しかしそれを聞いたフラウ女王は、とても無責任に答えられる内容ではないことを理解し、

 ” とても難しい問いかけです ”

と答えるにとどめた。


 トライトロン王国のある世界では一般的に50〜60年位の命が与えられており、70歳や80歳になるととても長生きだといわれて極めて珍しい存在であった。ところが卑弥呼の思念から感じられるのは、その程度の長さではなさそうだった。


「そうよのう!わしが考えている寿命というのは、数百年或いは千年という単位じゃのう 」


 フラウ王女は、両親はともかくとして妹やクロード、更には自分の子供達や孫が次々と死に、それを看取(みと)ることに耐えられるだけの強い精神を持っているとはいえなかった。

 というより、そのようなこと全く考えたこともなかったため、ただただ驚愕(きょうがく)していた。少なくとも彼女の今の精神力では、一時の望みで長命を得たとしても、結局その重圧に耐え切れず、自らの手でいずれ死を選んでしまうような気がしてならなかった。


 邪馬台国においては、卑弥呼殿にどうしても長く生きて外敵からの侵攻を防がなければならないという、人間が未だ知り得ていない例えば神様などの第三者が介在し卑弥呼を特別に神に近しき人間として定めた可能性も考えられる。そのことが本来卑弥呼のたどるはずだった運命に大きく修正を加えしまった結果ではないのだろうかとフラウ王女は考えた。

 少なくとも今の自分にはそのようなことが要求されているとは思えなかった。


「フラウ、そなたはとても賢いのう!わしが人にこのような話をしたのは今度が初めてじゃ。確かに重い話よのう。悪い。このことは忘れてくれて構わない!」


 卑弥呼が急にそのようなことを言い出したのは恐らく卑弥呼の寂しさの裏返しだったのかもしれない。幾世紀も自分の末裔(まつえい)を見送ってきた彼女には、その長すぎる生を共有してくれる者など誰一人として存在しなかったはずである。


 もし、フラウ王女の住むトライトロン王国で、不死性を得てまでも王国や民を守らなければならないような事態が発生した場合、彼女の考え方も変化する恐れはあった。もしそのような事態が生じた場合、その時に改めて考えても良かった。


「うう、、、そうじゃのう!わしはフラウのことが好きになって、つい結論を急いでしもうたわ 」


「卑弥呼殿の思いやり、とても有り難く深く感謝致しております。国と民が、トライトロン王国を守る為に私に長寿を求めてきた場合には、その時は卑弥呼殿に遠慮なくお願いしたいとそう思っております。わがままな私ですが、なにとぞお許しを、、、 」


「良い、良い。そういうお前だからこそのわしの提案じゃったからのう!とはいえ、その様な可能性が残されていることだけはしっかりと覚えておくのじゃぞ!」

 そして必要になったらいつでも言うてきてくれて構わない!と何事もないように卑弥呼は言った。


「処で、クロ、、、! とか呼んでおられた卑弥呼殿の従者(じゅしゃ)殿、、、」

「ああ、九郎兵衛(くろべえ)か!私の従者となってからかれこれ10年位なろうか。あれで、とても優秀での。邪馬台国一の剣の腕を持っているばかりでなく、隠密行動にもとても長けている 」


 九郎兵衛は大和の国(やまとのくに)で『 忍びの者 』と皆から恐れられる一族の後継者だった。だが考え方の違いで一人抜忍(ぬけにん)となり、卑弥呼女王のもとに流れ着き、そしていつの間にか卑弥呼の従者となり、今では自分や姫巫女(ひめみこ)にとっての一番の理解者となっていた。


 そういう卑弥呼の真白い肌が少し赤みを帯びている様にフラウ王女は感じた。


「もしかしたら卑弥呼殿は、九郎兵衛様を好いておられるのですか?」

「な、な、、、ただの従者じゃ 」


 フラウ王女は、焦せった様な卑弥呼を感じ、自分に姉が居ればこんな話をしながら、笑い合っている光景を想像して微笑んだ。


 今、卑弥呼の頭の中にその一部を借りてフラウ王女が住んでいる訳だが、卑弥呼の九郎兵衛に対する感情を少しは読み取ることができていた。それが卑弥呼の思い人に対する感情なのか、家族としての感情なのかまでは感じ取ることはできなかった。


 少なくとも数百年以上生き続けている卑弥呼ではあろうが、卑弥呼の寝所の銅鏡(どうきょう)で見た卑弥呼の顔や、二人の間の念話でフラウが感じ取れるのは、自分より2〜3歳年上の姉としか思えなかった。


「処で、お前の心の中で時々、クロという従者の顔が浮かんでくるのは、、、」


 突然反撃に出た卑弥呼に、今度はフラウが焦り始め、

 ” 参りました。やはり卑弥呼殿には全く勝てる気がしません。この話やめにしませんか?”

と降参した。

「わしは一向に構わんが!先にちょっかいを出してきたのは確かフラウの方じゃなかったかのう?」

 

 さすがに伊達(だて)に数百年以上を生きてきたわけではない百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の卑弥呼に心理戦、口舌戦(こうぜつせん)いずれにおいてもフラウ王女が勝てる道理はなかった。


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