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5−35 科学と化学の融合

 サンドラ・スープランは正直、飛行船を浮かすことついては、既に幾つかの考えを持っていたが、飛行船を推進させる方法については、正直全くの手詰まり状態となっていた。ある意味全くの専門外であるからやむを得ないことであろう。


 しかしサンドラ・スープランは、プリエモール男爵が彼の専門分野である動力の研究に特に優れた成果を有することを既に知っていた。そして、その男爵の研究内容こそが飛行船を遠くまで飛ばすためには欠かせない要素となってくるであろうことも確信していた。


 サンドラ・スープランは昨日の今日で、既に飛行船の建造についての下調べをしてくれていた。その意味でもジェシカ王女とニーナ蔵書館長の選定眼が極めて正しかったことをフラウ王女に確信させた。

 しかし実際のところは、先にジェシカ王女がサンドラ・スープランを尋ねた折に、理路整然としたジェシカ王女の話に人一倍共鳴できたいたし、ジェシカ王女の順序立てたその話を聞いているうちに、飛行船開発の実現性を確信するに至っていた。そのこともあっての突然の来訪になったようである。


 フラウ王女は、現在王国内では極秘の内容となっており、かつ王国の公式な書類からも全て抹殺されている『 黒い水 』の存在についてサンドラ・スープランには事前に話しておくべきだと考えていた。彼女自身卑弥呼、ジェシカ王女及びニーナ蔵書館長から飛行船の開発は、『 黒い水 』の存在無しには実現不可能であることを十分に理解していた。


 フラウ王女はサンドラ・スープランがこの先研究を進めていく上で絶対には欠かせない情報として、先のハザン帝国侵略時に、王国軍が火を用いて撃退した件について話し始めた。

 

「確かに、その件に関しましては私も聞き及んでおります。無責任なうわさではフラウリーデ王女様の奇術や呪術だとの根も葉も無い話もちらほら聞こえてきておりますが、私は化学者です。あの防御戦には『 石油 』が使用されたと考えています 」


「ほう、『 石油 』の存在をサンドラ殿はご存じなのか?」


 サンドラ・スープランは、この世界では未だ『 黒い水 』などと呼ばれている『 石油 』の存在を既に知っていた。そしてハザン帝国の飛行船にはその『 石油 』から取り出した『 空気 』より軽い『 水素 』が使用されているとの確信を持っていた。

 サンドラ・スープランは、どうやら既に飛行船の核心に相当近づいているようである。


 フラウリーデ王女は、その『 石油 』を必要なだけ自分が責任をもってこの研究所に供給する用意があるため、安心して研究だけに没頭してもらいたいとサンドラ・スープランに明言した。


「えっ!石油が本当にたやすく手に入るというのいですね!」


 フラウ王女は確認の意味を含めてサンドラ・スープランに、今回彼女の存在を発見し、彼女をその気にさせたのは、ここに同席しているジェシカ第二王女の知識だったと考えてもかまわないなと質問した。

 確かに最初のうちは、若い王女が何故あのような話をするのか疑問だらけのサンドラであったのだが、よくよく話の内容を吟味しているうちに、完全にジェシカ王女の知識の豊富さと実現の可能性に引き込まれてしまっていた。

 そしてサンドラ・スープランは未だにジェシカ王女がどこであれだけの知識を身につけたのか、疑問に感じているところであった。


「あれだけの未知の知識を持たれているジェシカ王女様を、私は研究者としてとても尊敬申し上げています 」

 

 フラウ王女は、同席しているニーナ蔵書館長を紹介がてら、プリエモール男爵や孫息子のドルトスキー・プリエモールをその気にさせたのが、ジェシカ王女と同い年のニーナ・バンドロン蔵書館長であったことをサンドラ・スープランに告げた。


「えっ!ここに同席されているニーナ殿がプリエモール男爵殿をその気にさせたと?」

「彼女の科学的な知識に男爵はこの世界の将来を見たと受け取っている。私にはさっぱり理解できない内容ばかりだったがな、、、」


「あの男爵殿が、、、」


 フラウ王女は、サンドラ・スープランに、明日からでも研究所建設の設計が開始されるので早速参加してもらえないかと依頼した。


「えっ!研究所の建設計画立案にも参加させてもらえるのですか?」

「必要であれば直ぐにでも城内にサンドラ殿の居室を用意するが、、、」


 サンドラ・スープランにとって国家規模の研究所建設プロジェクトに自分が携わることができるなど、全く考えていなかったことで、この上もなく研究者冥利(みょうり)につきるとフラウ王女に心から感謝した。


 フラウ王女は、大方(おおかた)の話が終わったと考え、サンドラ・スープランにこれから先この世界がどう変わって行くと彼女自身が想像しているかについて聞いてみた。


 サンドラ・スープランは技術の発展は人間に便利さと快適さをもたらしてくれるその一方で、同時にその技術を用いて兵器作り、より強大な支配圏を求めようと考える国が出現してくるのは確実だと考えていた。

 元々は平和目的で発明された技術が、発明者の考えとは別の思惑で別の用途例えば戦争用の殺人兵器に取って代わる可能性は決して低くはないだろうと彼女はつぶやいた。


「私は、危惧(きぐ)というより間違いなくそうなると思っています。しかしそのことが技術発展の妨げになってはならないとも思っています 」


 サンドラ・スープランは少し遠い目をして、そうフラウにそう答えた。

 確かに歴史が始まって依頼、人間は火を使うことを学び、他の動物よりも優位性を確立し、動物や植物を食料とするための武器や農機具を考案し、文字通り動植物界の頂点に立った。


 更には他部族に優位に立つために多くの武器を作った。その武器は棍棒(こんぼう)から銅剣へ、そして鉄製のものへと変化し、離れている敵にも攻撃できるように弓矢や投石機が開発され、防具も布から革製へ、そして必要な箇所を金属で補強した(よろい)へと進化してきた。


 確かに、文明の進化は他部族に対する優位性を保つために武器を開発してきたともいえる。そしていよいよ人間世界の中で誰がその頂点に立つか極めて大スケールな争いが始まろうとしているのかもしれなかった。


 このように科学と化学の進歩をトライトロン王国が見てない振りをしたとしても、いずれ他の者がそれを成しとげることになる。

 現に、ハザン帝国は他国への侵略を前提として攻撃兵器である飛行船の開発を始めており、既に完成の手前まできている。

 良識的な考えの国、邪悪な目的を持った国、どちらが先にそれを実現させるかで、この世界情勢は大きく変わるだろうとも思われる。


 サンドラ・スープランは、その世界の未来が大きく左右されるかもしれない歴史的転換期の中で自分が一つの役割を演じれるかもしれない可能性が与えられたことを感じ、喜びに興奮していた。


「サンドラ殿の覚悟は確かに聞かせてもらった。王国はサンドラ殿の良識に()けることにする。ジェシカ、ニーナ、それで良いな!」

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