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5−34 化学者サンドラ・スープラン

 翌日の昼前、フラウリーデ王女の部屋のドアを侍女のシノラインがあわてたようにノックし、サンドラ・スープランという者がフラウ王女とジェシカ王女にどうしてもお目通り願いたいと面会を求めてきていると尋ねてきた。


 事前に面会の申し込みがなかったところから、通常だと後日を改めてということになるのだが、シノラインには何か感じるものがあったようで、少し戸惑いを含んだ顔をしながらフその取り扱いについてラウ王女に確認してきた。


「何!サンドラ殿が、王城を自ら訪ねてきたというのか?」


 ちょうど明日当たりにフラウリーデ王女が自分から彼女に挨拶方々(あいさつかたがた)出向こうかと思っていた矢先のサンドラ・スープランの訪問に気を良くした王女は、彼女を客間に通し、ジェシカ王女とニーナ蔵書館長にも同席するようにとシノラインに命じた。


 サンドラ・スープランは、王城の古式豊かな決して華美過ぎず落ち着いた応接室に少し落ち着かない様子で座っていたが、3人が応接室に入って来ると、必要以上に腰を折りあいさつした。


「どうぞ、遠慮無く座ってください。シノラインお客様に紅茶をお持ちしなさい!」


 シノラインが応接室のドアを閉めると、早速で申し訳ないのですがと前置きをして、サンドラ・スープランはこれからの研究のリーダーとして必要な人材3名の名前を挙げた。

 その3名が各々自分達の実験の助手として必要な人材を指名しており合計9名の名前を記載したメモをテーブルの上に置いた。


 ジェシカ王女とニーナ蔵書館長はその中の数名には既に心当たりがあるようで大きく(うなづ)いていた。


「サンドラ殿を含めて10名程だが、少し少なく無いか?」


 フラウ王女は若干少な過ぎないかと思ったため、正直な感想を述べたのだが、サンドラ・スープランは、出足はそれで十分と考えていた。勿論実験が進むにつれて自分の研究助手を欲しいという化学者が当然出てくる。従ってその折々で採用の裁可をお願いするつもりであることをフラウ王女に願い出た。。


「サンドラ殿は、意外と謙虚だな!それとも自分がこれからやろうとしている研究に自信がないのかな?いや、それは冗談だが、、、」


 確かにサンドラ・スープランも当初は、もう少し大掛かりな人数を考えていた。しかし実際には研究の方向性とその結果次第で必要とする人材の種類と人数が大きく変わることを予想した。その為、先ずはこの10名で始め、それぞれが必要な人材を集めることにしたようである。

 この点については、プリエモ王国のリーベント・プリエモール男爵の考えとよく似ている。

 

「お主の考えていることは良く分かった!慎重さは大事だとは思うが、三年という期限も忘れずに必要なら直ちに上奏(じょうそう)してくれ。先般の王国会議でこの研究を最優先事項とするのが既に決定された 」

・・・・・・・!

「処で、話は変わるが、サンドラ殿はプリエモ王国のリーベント・プリエモール男爵殿はご存知かな?」


 サンドラ・スープランは、一瞬驚いた顔を上げてフラウ王女を見つめた。その顔は、何故ここでプリエモ王国のプリエモール男爵の名前が出てくるのか分からず驚いているという顔であった。サンドラ女史は、フラウリーデ王女が今回の人材探しがプリエモ王国にまで及んでいるとは全く予測していなかったからであろう。


 サンドラ・スープランは化学の専門家で、一方のプリエモ王国のプリエモール男爵は科学の分野に極めて秀でた人材である。そういう意味ではその直接的な接点はあまりないようにも考えられるが、実際には過去に、彼女はいくつかの研究で男爵との交流があり、既に多くのの教示(きょうじ)を受けたこともあり、今でも時々は手紙のやり取りをしていた。

 ある意味、異端者と呼ばれる者同士何か相通じるものがあったのかも知れなかった。

 

 もちろん、サンドラ・スープランはプリエモール男爵がプリエモ王国内ではその実力に反して不当な扱いを受けていることは既に知っていた。しかしサンドラは、斬新で優れた才能を持つ男爵に対し周りの学者達が嫉妬した結果として悪意のうわさが流されていると確信を持っていた。

 

素人(しろうと)の私から見れば、化学と科学では学問的に大きな開きがあるようにも感じているが、その点は大丈夫なのか?」


「大丈夫か?とはどういう意味でございましょうか?」


 フラウ王女は、今回の王国科学技術省研究所の設立に関し、化学と科学が融合された機械技術の開発を望んでいることをサンドラ・スープランに告げた。


「ということはもしかして、リーベント・プリエモール男爵殿もこの飛行船建造プロジェクトに参加頂けるということなのでしょうか?」

 フラウ王女は、男爵とその孫息子の了解も既にもらっており、向こうでの仕事の整理がつき次第、王国科学技術省の科学部門の長官に就任してくれる予定であることを告げた。

 

「それは、ありがたい話です。私も是非プリエモール男爵殿から、色々と師事(しじ)を願いたいことがあります 」


 フラウリーデ王女は、この時サンドラスープランとリーベントプリエモール男爵が国境を超えての知己(ちき)であったことに幸先(さいさき)の良いスタートを予感した。そしてこのプロジェクトの成功率が何倍にも引き上げられたような気がした。


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