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5−29 両王国の合意内容

 フラウリーデ王女は、プリエモール男爵との話し合いが予想以上にスムーズに進んだことに安堵してプリエモ王城に帰り、直ちにキングスタット王とフレデリカ王妃に感謝の挨拶へと向かった。


「王様と王妃様のお取り計らいで、そしてナイトール内務大臣のご同行のおかげで、プリエモール男爵とそのお孫さんのドルトスキー殿がトライトロン王国での研究を快く引き受けて下さいました 」


「それは何よりでしたな。変人で名高いプリエモール男爵のこと故、いささかか心配はしておりましたが、、、」

 

 実際、たまたまであろうが、男爵達も推進機関に関し多くの研究を行っていたらしく、ニーナが書いたメモ書により、自分達の長年の夢が実現できる可能性を明確に見い出したのは間違いなかったようである。


「それはそうと、男爵領の領地の経営の方は男爵殿が居なくても大丈夫なのかな?」


 キングスタット国王の問いに、ナイトール内務大臣は今では長男が実務を全部取り仕切っており問題無いと思われますと報告した。


 フラウ王女は、今回プリエモール男爵とその孫息子というプリエモ王国の優秀な科学者を奪うようで申し訳なく思ったが、両国のこれからの発展のためにと再び深く頭を下げた。


「ところで、妹のジェシカはいかがしておりますか?フレデリカ王妃様! 」


 フレデリカ王妃の話では、ジェシカ王女は、息子ホッテンボローには勿論のこと自分や国王や娘のフランシカ王女にまで事細かく気を遣って疲れていただろうに、今はフランシカ王女を誘って市井(いちい)の見学に行っているとのことであった。


 フラウ王女は、興奮冷めやらぬ表情のままプリエモール男爵家で見聞きした不思議な機械仕掛けの人形や、王城との連絡用の遠話器に関して国王夫妻に話し始めた。

 

 国王夫妻もナイトール大臣からプリエモール男爵家の研究のすばらしさと、実用性の面で極めて優れていることは何度も聞かされていた。しかしその一方で王族が妙にプリエーモール男爵にだけ肩入れすることは、他の科学者を雇っている貴族家との軋轢(あつれき)を産む可能性も考えられたため、表だっての大掛かりな支援は行っていなかった。


「いかがでしょうか?差し出がましいことではありますが、男爵家で研究を担当している科学者達をこの王城に呼び寄せるというのはいかがでしょうか?」


 フラウリーデ王女は王国最高の科学者が男爵家から同時に二人抜けることで、残った研究者達が動揺し、場合によっては他の貴族家へ身売りするようなことにでもなれば、プリエモ王国の大きな損失につながるのではないかと危惧(きぐ)していた。


 確かに、研究の中心であった男爵とその孫の二人が抜けるというのは男爵家の研究室にとっては大きな問題であった。優秀な指導者不在の研究所では、多くの研究者はその目標を失うことになる。その結果、研究者が他の貴族家に身売りする可能性は大いに考えられることであった。


 事実、研究者を育てるためには長い時間と莫大な費用を要する。そのような観点から考えると、プリエモ王国内に王立の研究所を設立し、残された研究者をそこで雇用し、ナイトール大臣が管轄することが可能となれば、貴重な人的資源を王国が失わずにすむことになる。


 フレデリカ王妃は、キングスタット王に早速研究所の設立について考えてくれるように進言した。


 キングスタット国王は、フラウリーデ王女の考えに同調したのか、それともフレデリカ王妃の進言に納得したのか、男爵家の研究員全員を王国内で雇用し、ナイトール大臣に研究の仕事の管理を任せることにした。

 そして王国内に研究所が完成するまでの当分の間は、プリエモール男爵家の研究所をそのまま利用することで、最終的な話はまとまった。


 そうなると、トライトロン王国と近い将来同盟を結ぶにしても、全てがトライトロン王国任せにする必要がなくなるし、ある意味対等での国同士の付き合いとすることができるようになる点でも歓迎される内容であった。


 フラウ王女自身は、プリエモ王国が彼女の提案に同調しなかった場合には、研究者達をトライトロン王国で引き取り、カラクリ機械等の研究をさせるのもむしろ好ましいと考えていたが、それはプリエモ王国の貴重な知的財産を奪ってしまう結果にもなりかねないため、プリエモ王国で研究を継続してもらうのが最も妥当だと考えた。

 従ってプリエモ王国がそのような結論を出したことには大賛成であった。


「あの技術は、必ずやプリエモ王国の基幹産業となり得ます 」


 フラウリーデ王女の言葉に、ナイトール大臣はしばらく考えていたが、覚悟を決めたようである。元々彼も男爵家を訪問するたびに新しいカラクリ装置に驚かされて、王国として肩入れしようと考えないでもなかった。しかしプリエモール男爵から貴重な財産を王国が取り上げてしまうようで、そのままとなっていた。


「確かに良い機会かも知れませんな 」


「今度プリエモ王城に来る時が楽しみになりました。恐らく、城内中色々なカラクリ仕掛けが登場し、見るだけでも楽しめそうです。王城内で失業者が出なければ良いのですが、、、 」


 フラウリーデ王女がそう呟くと、ナイトール大臣はカラクリ人形がいくら優秀であっても、人間に変わりうるのは未だ未だず〜と未来のことだと笑った。


 実際ナイトール大臣は、機械人形はともかくとして遠話器による連絡手段などについては王城内だけであれば、今直ぐにでも利用できそうで、大いに興味を惹かれていた。


 ナイトール内務大臣のこの時の決断により、カラクリ人形と遠話器を中心とするプリエモ王国の産業革命は新たな第一歩を歩き始め、後に『 カラクリ王国 』と言われるまでに発展することになるのだが、それはこの物語とは別の話である。

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