1−17 龍神の騎士姫(りゅうじんのきしひめ)
卑弥呼は、唐突にフラウ王女にトライトロン王国においては『 龍神の騎士姫 』との渾名で呼ばれている剣士だそうだなと話しかけた。
フラウ王女は、卑弥呼が何故そのことを知っているのか不思議に思った。
卑弥呼は自分がフラウ王女の手助けをする見返りにフラウから剣術の指南を受けることを要望した。
卑弥呼はこれまで好んで剣を持つことはしてこなかった。呪術が得意なため剣の出番が無かったというのが本当のところである。しかし卑弥呼はフラウ王女のこれまでの生き方を知り、剣でも人助けは可能かもしれないというちょっとした興味を持ったのも確かである。
そして卑弥呼は、女子がすらりとした剣で優雅に舞う様子を想像すると、とてもいい絵姿になるのではないかと、フラウ王女にはとても見当つかないことを考えていた。
「剣で人助けですか?」
卑弥呼の考えでは、フラウ王女の精神体が自分の頭の中にいる間であれば、自分の剣の上達も早いだろうとの考えもあった。
「上達が早くなるというのいは、あくまでもわしの感じゃがのう。とにかく、それが交換条件ということではどうじゃ 」
少し恥じらう様に言う卑弥呼の顔は、到底、何世代も生き抜いてきた女王とは思えぬほどに若々しくてその目はキラキラと輝いるように思えた。
「そんなことで良ければ、私にとっては何の問題もありませんが、それにしても私の『 二つ名 』のこと。どうしてご存じだったのですか?」
卑弥呼は先にフラウ王女がこの前この神殿に迷い込んできたとき、長年生きている自分であっても全く初めての経験だった。それでフラウ王女の身辺調査をしていた。といってもフラウの記憶の中をちょっと覗いて見ただけであったが、、、 。
・・・・・・・!
実際、一体何者なのか?何の目的で魔法陣を発動させたのか?あるいは魔法陣がなぜ発動したのかなど呪術師の卑弥呼であっても色々と疑問だらけだった。
卑弥呼自身、全くの他人の脳の中に入り込めて、その人間の考えていることやその人間の過去の歴史がなんでもわかる能力を持っているわけではなかった。恐らく、フラウ王女がたまたま自分と同じ血液の持ち主であったところから読みやすかったとも考えられた。
自分と同じ血を持つフラウ王女が、たまたまそれとは知らずに魔法陣に乗ってしまい、さらに偶然に指を切ってその血液が滴り落ちたために邪馬台国と繋がっている魔法陣が発動し、神殿の魔法陣の上に現れてきたというのが事実のようである。
それでも、そのような条件が偶然にそろうことなど、現実ではありえないことである。
実際、最初にフラウ王女の精神体がが邪馬台国に訪れたとき、余りにも偶然が重なり過ぎていた。
最初の時は、洞窟へ入り込んだというより迷い込んだといったほうが適当なのかもしれないが、少なくともその時点でフラウ王女が邪馬台国に来る必然性はなかったはずである。
しかし今回は偶然ではなく、いくつかの必要な条件を自らの考えで解決して邪馬台国にやってきたと判断すると、そこまで偶然性が幾つも重なることも、非常に考えにくく、むしろそれは必然であったと考えるほうがより妥当なようである。
フラウ王女が最初に邪馬台国に紛れ込んできたことについても、もし必然性があるのであれば、必ず再び戻ってくるであろうと卑弥呼はそう確信できていた。そのため一旦再びフラウを王国へと送り返すことにした。
それにしても、こんなにも早く魔法陣の鍵を自ら解き明かし再び邪馬台国にやってくるとは卑弥呼であっても予想できていなかった。
そう考えると、この出会いには運命的な結びつきがあった可能性が高くなる。
そして卑弥呼はフラウとの出会いは必然だったと確信するに至っていた。
「それにしてもフラウは無茶をするよのう。前回のは偶然だろうから仕方ないが、今回は自らの意思でやって来たのだから、相当の覚悟があってのことじゃろう 」
卑弥呼はそれくらいフラウ王女がハザン帝国の侵略に危機を感じているのであろうと考えた。
しかし、フラウ王女の決意とは別に一歩間違えば、彼女の身体は魔法陣の中で塵となって消え去っていても不思議では無かった。
卑弥呼の古い記憶の中でも不用意に魔法陣に飛び込み、消えたまま再び帰って来なかっと者を幾人も知っていた。もちろん、その人間は別の世界で生きている可能性も考えられたが、恐らく多くの者は魔法陣の中の異空間にとらわれたか、あるいはその身体と精神が原子レベルにまで粉砕され元に戻らなかった可能性が高かった。