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5−27 リーベント・プリエモール男爵

 翌日、ナイトール内務大臣に連れられてフラウリーデ王女、ニーナ・バンドロン蔵書館長、クロード近衞騎士隊長及びラングスタイン大将がリーベント・プリエモール男爵の屋敷を(おとづ)れていた。


 フラウリーデ王女は妹ジェシカ王女をホッテンボロー王子とフランシカ王女との親交を深めるようにと、城に残してきていた。ジェシカ王女にしても、ニーナ蔵書館長が同行するのであれば、技術的な点で自分が同行する意味は少ないと考えていた。そのため、むしろ喜んで王子との時間を大切にしたいと考えたようで嬉しそうな顔をしていた。

 

 ナイトール大臣はリーベント・プリエモール男爵邸の門の前に立つと、門柱に取り付けられた小さいボタンを押した。すると鉄の格子状の門が一人でに開き始めた。これだけ大きな屋敷に門番がいないことをフラウ王女は不思議に思った。


「どうして、私達が来たことを男爵様はお分かりになったのでしょうか?」


 フラウ王女は、門番がいないのにもかかわらず小さいボタンを押しただけで門が開いたことに驚いたからだ。

 声をかけたわけでもないので普通は誰か訪ねてきたかまでは判らないはずなのに、どういうわけか門は自動的に開いた。

 訪問者の確認も無しに門を開けたとなると、とても物騒極まりないのではとも考えられた。


 プリエモール男爵は機械仕掛けのカラクリ人形やカラクリ仕掛けの機械の研究を長年行ってきており、一部のカラクリ人形などのおもちゃは市販されてもいた。

 実際、彼の屋敷には機械仕掛けのカラクリが所狭しと置かれている。ナイトール大臣はその一部を既に目にしていた。


 カラクリ人形の他に、プリエモール男爵は王城と男爵家との間を離れていても連絡を取り合える手段。男爵自ら考案した物で『 遠話器(えんわき) 』と男爵が名付けているものもあった。


 プリエモール男爵の考案した『 遠和器 』はどこでも誰とでも話せるというものではなかったが、王城と男爵邸が極めて近い場所に位置していたことと、ナイトール内務大臣と極めて懇意にしていた背景もあって、現在王城と男爵家の間は、その遠和器専用の細い線でつながれていた。

 

 昨晩、ナイトール内務大臣はトライトロン王国のフラウリーデ第一王女とニーナ蔵書館長が、プリエモール男爵に会うためにプリエモ王国を訪問していることをその『 遠和器 』を使って既に連絡していた。そのため、男爵は訪問者を確認をする必要はなかった。それにしても、自分達が来る時間の詳細までは明確に伝わっていないはずなのに、訪問と同時に鉄格子が開いたのかについては疑問が残った。


 ナイトール大臣も最初に男爵邸を訪問した際に不思議に思い聞いたことがあった。

 門柱にあった客の訪問を知らせる押しボタンの上には、男爵が『 レンズ 』と呼んでいる透明なガラス製のものが()め込まれており、その幾枚かのレンズと鏡を利用し、男爵の居間に置いてある鏡に来訪者の姿が映し出される仕掛けとなっていた。


 フラウ王女はプリエモール男爵の居る部屋は門から直線的な場所ではあり得るはずはいと確信していたため、なぜ来訪者の顔までわかるのかが不思議でならなかった。

 

 トライトロン王国においては、鏡を使って光を屈折させるという考えは一般的ではなかった。

 フラウ王女の住んでいる王城を例にとって考えた場合、城の入口からフラウの居住している部屋までは、歩いて10分以上かかる。その間幾重にも曲がった廊下があり、部屋に行き着くまでには更に二つの曲がり階段を登らなければならない。このように入口から居住空間までが直線であることは普通はあり得ない。

 もし、フラウ王女が3階の部屋に居ながら、来訪者を知ることができる装置があるとすれば、安全の面でも遥かに向上することになる。


 ナイトール大臣のその話を聞いたニーナ蔵書館長の目が既にキラキラと輝き始めていた。この時点でニーナはリーベント男爵の持つ極めて(まれ)でかつ実践的な科学的知識にすっかり魅了されてしまったのかもしれない。


 そしてこの男爵のユニークな発想こそがニーナが考えている今後の飛行船の推進機関を始めとする産業発展の成功の鍵を握るとの確信を持つに至った。


 一行が門を潜り終わると、その門は少し音を立てながらひとりでに閉まってしまった。門から屋敷の玄関までは大理石の石が行く先を示すように続いていることから、その大理石に沿って歩いていくと、やがて屋敷の玄関に辿り着いた。


 その玄関の柱の中央部分にも小さな丸いボタンのようなものが設置されていた。ナイトール大臣がそのボタンを押すとドアの鍵はかかっていなかったのか、ナイトール大臣様どうぞお入りくださいと少し硬質な女性の声が返ってきた。


 玄関を潜り抜け屋敷の中に入ると、キリキリ、ゴロゴロと音が聞こえてきたかと思うと、執事の服を着た人形と思われるものが目の前に現れ、いらっしゃいませ とこれもまた人の肉声とは少し異なる硬い声で話しかけてきた。


 その人形はそのまま後ろを向くと、どうぞこちらでお待ちですといいながら再び動き始めた。

 もうフラウ王女やクロード近衛騎士隊長やラングスタイン大将は、すっかり度肝を抜かれてしまって言葉も出てこなかった。

 

 男爵の部屋に案内された一行は、その部屋全体が数えきれない程のカラクリ仕掛けの機械で埋め尽くされているのを見て更に唖然(あぜん)としていた。


 プリエモール男爵は、そう言えば、ナイトール大臣もこの研究室は初めてだったのですなとナイトール大臣に握手を求めてきた。


「おおかたの話はキングスタット国王様から聞いておりますが、国王様も科学のことになると当然のことですが、熟知されていないようだったので、、、早速ですが訪問の具体的な話をお聞かせ願えませんかな?」


 フラウ王女は自己紹介を兼ねてニーナ蔵書館長を紹介し、具体的的な話はそのニーナに任せていることを付け加えた。その前にと言って、ハザン帝国において戦争用の飛行船が開発中であることに加え実際に自分はハザン帝国の飛行船の実物とその開発状況を知っていることを付け加えた。


「ほう、貴女がトライトロン王国の第一王位継承者のフラウリーデ王女殿下ですか?『 龍神の騎士姫(りゅうじんのきしひめ) 』の渾名(あだな)はプリエモ王国でも知らない者はいないが、申し訳ない。もう少し偉丈夫(いじょうぶ)な人を想像しておりました 」

 

 プリエモール男爵はそう話しながら、興味深そうにフラウ王女の顔を見ていた。

 

 一通りの挨拶が終わると、今回自分達がプリエモール男爵を訪問した真の目的についての具体的な内容をニーナ蔵書館長が話し始めた。当初はソワソワと落ち着かない様子でニーナの話を聞いていた男爵であったが、その内男爵は身を乗り出し、ニーナの書いた推進機関の図を眺めていたが、急にそのメモ書きをニーナからひったくると、じっと見入っていた。


 彼はやがて大きくうなづくと、それで、トライトロン王国はわしに何を期待しておられるのかなとフラウ王女に聞いてきた。


「研究費用や生活費は全てトライトロン王国持ちで当分の間、王国の飛行船開発の指導者になって欲しいとのお願いです 」

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