5−24 理系女子
キングスタット国王は少し不思議そうな顔をしていた。それは、フラウ王女が連れてきたニーナ・バンドロンが、ジェシカ王女やフランシカ王女とあまり年の違わない少女であったからだ。
キングスタット国王は、ニーナ・バンドロンが若い娘でありながら科学に極めて興味を持っていることを不思議に思っていた。当時、女性が科学や化学に興味を持つことそれ自体極めて珍しく、かりに興味を持ったとしても、それを育成する土壌は全くといっていいほど育っていなかった。
そのこともあってか、キングスタット国王は、ニーナ蔵書館長に興味をひかれたようである。
『 どうして科学等の学問に興味を持たれたのですかな?ニーナ殿は!」
恐らくニーナ自身もそのキングスタット国王の問いに正確には答えることができなかった。実際のところ彼女自身気が付いたらいつの間にか科学や化学が好きになっていたというのが本当のところであった。
フラウ王女は、妹のジェシカ王女もニーナに負けず劣らず、科学や化学に興味を持っており、今回の王国科学技術省設立の中心的人物となっていることを少しバツがが悪そうに話した。
やはり、当時トライトロン王国やプリエモ王国においては、というよりその時代世界的に女性は学問より情操教育の方が遥かに優先されていた。その意味ではかりに能力持っていたとしても、その実力を発揮できない環境でしかなかったといえる。
キングスタット国王はジェシカ王女の座学の能力に優れていることはある程度ホッテンボロー王子から聞いていた。それでも科学技術省の設立に欠かせない程の技術的資質を持っていることまでは聞かされていなかった。 恐らくホッテンボロー王子自身もジェシカ王女がそこまでとは考えていなかったようである。
「国王様!誤解なきように付け加えますが、ジェシカの今回の参加は私の強制的な指示によるもので、決して本意ではないと思いますので、その点は誤解なきように、、、」
「しかし、それ程ジェシカ王女殿下が必要不可欠な人材ということなのですな!」
本来、ジェシカ王女はフラウ王女とは違い、政治とかには普段全く興味を示していなかった。むしろフラウ王女とはと真逆でお稽古事は全て完璧にこなす女性らしい王女でであった。
フラウ王女は、そのことに関しニーナに同意を求めた。
「ジェシカ王女様は、私とは違いとても女性的で優しい王女様です 」
「いや、わしは決して非難している訳じゃなく心から感心しておるのじゃ!そのように多岐に渡る能力をお持ちでありながら、その片鱗も悟らせないジェシカ王女様こそ、むしろ大歓迎ですぞ。なあフレデリカ女王!」
キングスタット国王はジェシカ王女の為人は、息子から聞いており把握しているつもりであったが、彼女の知識が科学や化学にまで及んでいることを今回改めて知ったわけであるが、これからのプリエモ王国にとってもむしろ大いに歓迎すべき才能だと考えていた。
元々、プリエモ王国は技術立国である。現時点ではリーベント・プリエモール男爵家と懇意にしている大臣がいるため、優先的にその技術は王国に報告され、時には王国としてその技術を取り入れたりしていた。
「いやいや、王子の良き相談相手になってくれることでしょう。やがて剣の時代が終わり産業育成の時代がやってくると常々王子もそう申しております故、その一翼を担っていただければ、この上もないことですな!」
キングスタット国王は、早晩王子にこの王国の将来を委ねたいと考えていた。先にトライトロン王国を訪問した折に、フレデリカ女王が譲位を仄めかしていたのを聞いて、自分達もホッテンボロー王子への攘夷を考えてもいい頃だと思うようになっていた。
この時点で、ホッテンボロー王子は、トライトロン王国とハザン帝国における技術革新のしのぎが削られていく渦中にジェシカ王女がその中心的役割を果たしていくことなどという意識は全く持っていなかった。
しかし最近の国王の政務を見ながら、次にプリエモ王国に求められてくるのは産業の発展のための技術革新ではないだろうかと漠然と考えるようにはなっていた。
そう!プリエモ王国の最も得意とする分野。それは高価な貴金属加工や宝石の研磨技術、加えてリーベント・プリエモール男爵により考案されたカラクリ仕掛けを応用した種々の生活用品を一般市民にも提供できるように、大量生産する技術の育成だろうと漠然考えていた。




