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5−22 プリエモ王国へ(2)

 翌朝早く、5人は馬を走らせプリエモ王国へと向かっていた。

 プリエモ王国へ向かう王国の道路沿いの宿場町は活況で、そこそこの数の食堂や宿泊所があった。今回はジェシカ王女やニーナ蔵書館長が同行していることもあり、無理な行軍を避け、二人のこれまでの労を(ねぎ)う意味もあって少し観光的な気分を味わってもらうために、途中で一晩宿泊する予定を組んでいた。


 旅慣れないジェシカ王女やニーナ蔵書館長にとって、道中の何もかもが珍しいものばかりで、周りの景色に興味をそそられてついつい馬の走りがゆっくりとなる。フラウ王女達はジェシカ達二人の速度に合わせて馬の手綱を緩めていた。


 先般、ニーナ・バンドロン蔵書館長がハザン帝国への潜入に参加した折には、隠密行動ということもあり、しかも大半の道は砂漠であったため、街の様子など見ることは全くできなかった。またハザン帝国の首都に潜入した後も、無闇に顔を(さら)すわけにはいかず、観光どころではなかった。


 一行が丁度昼に差し掛かった頃、フラウ王女は手頃な食堂を見つけ昼食をとることにした。

 未だこの辺りはトライトロン王国内であるため、食事のメニューが王国と大きく変わることはないが、当然ながら王城内での食事とは異なり庶民的な内容のものが多かった。もちろん、むやみに素性を知られたくないという思惑もあって、周りの多くの客が食べているような庶民的な料理を中心に注文した。

 それでも、湯気を立てながらの熱々の料理の数々に、5人共がとても満足そうな顔をしていた。


「皆んなと一緒に旅先でこんな食事をするのも良いものだな。ハザン帝国に行った時なんか、堅パンに干し肉と水だけだったものな 」


 帰りに立ち寄ったダナン砦では大いに歓待してもらったが、こういう宿場町の食堂で食べるのは解放された気分もあって一味も二味も美味しく感じてしまう。

 フラウ王女は、折角こうして旅にでてきたのだから、少し歩いて宿場町の出店でも見て回るのも気分転換になりそうな気がしていたし、ここ数ヶ月の二人の献身的な努力に少しでも報いてやりたいとも考えていた。


 ジェシカ王女とニーナ蔵書館長は出店されている色とりどりな髪飾りや首飾りに興味を示していた。やはり年頃の娘の子らしい(まぶ)しい笑顔を見せていた。

 そういうフラウ王女ですら未だ19歳になったばっかりではあるが、彼女は元々衣服や装飾品の(たぐい)には全く興味もなく、むしろ甲冑姿の方がむしろ余程落ち着くと感じていた。


「城に帰れば、それより良いものは一杯あるじゃないのか?」

 とフラウ王女は不思議な顔をした。


「お姉様!それとこれとは違います。安物のビードロですが、ほらこのように色々綺麗な色をしているではないですか?こうしてすかしてみると別の世界を 見ているようでとても楽しいものなんです 」

 むしろこの二人の反応の方が、よほど正常であるのだが、フラウ王女はそのことに思い至らない。


「そういうものなのか?私には良くわからないが、、、」


 ジェシカ王女は、ここがもし武具屋であればフラウ王女は間違いなく目の色を変えて剣を手に取ったり、甲冑に触ったりしているはずだと笑った。

 しばらくの間出店を見て回って十分に満喫できたのか、二人は旅を続けようと馬に(またが)り先を急いだ。


 夕刻陽が落ちる少し前に宿泊所を捜し当てた。その宿泊所は一階が食堂で、2階が宿泊所となっている主として行商人が寝泊まりするところのようである。それでも行商人の宿泊所としては可成り設備の整った宿のようにも思えた。


 この時代、宿屋での入浴は珍しく宿泊代と同額の出費を別に必要とした。それでも旅慣れないジェシカ王女とニーナ蔵書館長のことを考慮し、その部屋を選択した。


 夜の食事は獣の肉をふんだんに使い色々な根菜と煮込んだ熱々のスープと、塩胡椒と香草を(まぶ)して焼き上げた鳥のもも肉やローストビーフのサラダなどがでてきた。

 フラウ王女、クロード近衛騎士隊長とラングスタイン大将はワインを、ジェシカ王女とニーナ蔵書館長はオレンジを絞って冷やした果実水を頼んだ。


 この時代、冷やした果実水は極めて贅沢(ぜいたく)な飲み物で、ワインよりもはるかに高価である。

 それは高山の洞窟内にある氷を溶かさないように幾重にも(むしろ)を重ねて宿屋街まで運んでくる必要があったからである。その為、氷そのものが貴重なため必然的にワインよりも高い値段となってしまう。

 宿屋の主人は彼女達の注文内容から、この一行が王都でも可成の身分の者であると値踏みしていた。


 このまま行くと、明日の昼前にはプリエモ王国の首都に着きそうである。そうなると、プリエモ王国首都の市街地で昼食をとったとしても、王城には夕方前には確実に到着することになりそうである。

 そして王城に着いたらキングスタット国王夫妻にリーベント・プリエモール男爵と親交の深い王城の人材を紹介してもらうつもりにしていた。


「そうなると、その日の内に男爵様には会うのは難しいかも知れませんね!」


 ジェシカ王女の問いにフラウ王女は全く別のことを考えていた。

 今回ジェシカ王女を連れてきた主な目的は、リーベント・プリエモール男爵に合わせるためではなく、ホッテンボロー王子との親交を深めさせることであった。

 

「まあ、ここまで来たのだから、もうそうあせることもあるまい。ジェシカは明日はホッテンボロー王子に王国市街地にでも連れて行ってもらえば良い 」


 フラウ王女はジェシカ王女にホッテンボロー王子との二人の時間をゆっくり過ごすように勧め、市中での二人の身の安全を確保するようにラングスタイン大将の同行命じた。

 ジェシカ王女としては、ニーナ蔵書館長に同行し、リーベント・プリエモール男爵と会ってみたいと考えていたが、ホッテンボロー王子との王都散策をフラウ王女からほのめかされ、そちらの方へ天秤が少し傾いた。


 翌朝、宿泊所を出た一行はプリエモ王国の王都に向かって馬を走らせた。早々に国境沿いの検問所に着いたが、どうやら既にトライトロン王族の一行がプリエモ王国入りすることについては既に王城より通達が出されていたらしく、全く待つことも無くプリエモ王国の地を踏むことができた。


 しかも王城までの案内かつ安全を守る為の護衛兵まで派遣されていた。当初、昼食は王都街でと考えていたフラウ王女であったが、既に王城で用意されているとの報告を聞きそのまま王城に直行することにした。

 フラウ王女としてはプリエモ王国における一般食堂にも興味があったのだが、プリエモ王国夫妻の好意を無にするわけにはいかず、護衛隊長の申し入れを素直に受け入れた。

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