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5−19 記憶からの取り出し

 ダナン砦に着いた5人は早速シャワーを浴びてすっきりとした気分になった。

 ニーナ蔵書館長だけはダナン砦に着いた途端、紙とペンをもらうと、部屋にこもったまま次々と自分の頭の中から記憶を引きずり出し、黙々とペンを走らせていた。


 一度フラウ王女がドアを軽くノックして声を掛けたが、全く気付く様子もなくペンの走る音と紙をめくる音だけが部屋を満たしていた。フラウは、そっとドアを閉めると足音を忍ばせて再び皆んなの元に戻っていった。


 フラウ王女はニーナ蔵書館長のその様子について皆に、まるで鬼神(きしん)が乗り移っているようでとても声をかけれる状況ではなかったと表現した。

 その夜、遅くにニーナは両手に大量の紙を抱えて皆んながくつろいでいる部屋に入ってきた。


 彼女のその両手に抱えている用紙に記載された文字の細かさとその枚数の多さに全員が度肝を抜かれ、誰も話し掛ける切っ掛けを見つけることができないでいた。

 たった1時間程度の短い時間にこれだけの内容を頭の中に詰め込んでいたのかと思うと、誰一人言葉が出てこないのも当たり前である。


 実際には最近ジェシカ王女はニーナ蔵書館長以上の記憶力を身につけていた。ニーナは今回の潜入作戦に参加するにあたって、ジェシカ王女から極めて大量の記憶を一端詰め込み、そしてその詰め込んだ情報を効率よく取り出す方法を習ってきていた。

 

「もしかしたら、ニーナの記憶力は自分の何倍も(すご)いと私に語ったのはジェシカの謙遜だったのか?

 あまり記憶力が良すぎてもボローが泣くかもな 」


「ボロー様ってどなたですか?」

「ああ、悪かった。今のは聞かなかったことにしてくれ。未だ私とジェシカしか知らないので、、、近い内にニーナにも話すことになると思うが、もうちょっと待って欲しい 」

 

 ニーナは勘も鋭く何か思い当たったらしく、

 ” 大丈夫ですよ、学問以外のことではそれ程の記憶力を発揮なさらないので、、、ジェシカ王女様は!”

とジェシカを擁護(ようご)した。


 フラウ王女が知る限りジェシカ王女は座学に優れていたり、この世界の主要な国の言語を読み書きできるのは知っていたが、そのような記憶力まで持っていることまでは知らなかった。


 このジェシカ王女の記憶力の変化に関しては、邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)女王のジェシカに付与した能力の一部で間違いないとフラウリーデには確信できた。


 卑弥呼は、トライトロン王国が飛行船建造のための研究所を設立し、必要な学者を集め短期間に成功させるためには、ジェシカ王女の牽引力が必要と考え、ジェシカに掟破(おきてやぶり)りの記憶力と理解力を付与してくれたのであろう。

 

 フラウ王女はニーナ・バンドロンの持っているその紙の厚さを見ただけで頭が痛くなってきた。その為、彼女が今一番知りたいと思っていることを二つほどニーナに聞いた。

 その一つはハザン帝国の飛行船に使用されている『 ガス 』の特定と、そしてもう一つは飛行船を推進するために使用されている仕掛(しかけ)けの種類であった。


 ニーナ・バンドロンは、フラウ王女の疑問二つについて直ちに彼女の今回の研究所潜入により得られた情報の中から自分のたどり着いている予測について話し始めた。


 彼女がハザン帝国の研究資料から発見した飛行船に使用されているガスは想像通りの『 水素ガス 』と確信できていた。


 また推進の仕掛けは、水を沸騰させて小さい穴から風車に強く吹き付ける事で推進力を得たという最近の記録から『 蒸気機関 』の原理を用いたものであると推測できた。この蒸気機関による推進方法は、まさにニーナ・バンドロンが考えていた推進方法であった。


 なお、そして『 ヘリウム 』の存在についてはどこにもその記録が見当たらなかったことから、実用化には至っていないと思えるのだが、蒸気機関を使用することを前提に飛行船開発が行われているにもかかわらず燃えにくいガスの検討がなされていなかったことに若干の疑問は残った。


「蒸気機関の原理だというと、その方法はニーナ達が王国の飛行船開発に応用しようと考えているものと同じだよな 」

「そうですね。私達がこれから進めようと考えている推進機関によく似ています。これに関しては早晩開発競争になりそうです 」

 ニーナ蔵書館長のその答えを聞いて、王国ものんびりとはして居られる状況ではないことを確信させた。


「とにかく有難うニーナ!明日は王都に帰ることになるから、今晩はゆっくり休んでくれ。というか、これは命令だ。今晩はまずニーナの頭を休めるんだ。お前はトライトロン王国の大切な頭脳なのだからな!」


 ニーナ・バンドロンは、自分がトライトロン王国の飛行船開発のために大きく貢献できたことに満足していた。自分とその家族がフラウ王女の決断により命を助けられ、今ではトライトロン王国の市民として完全に受け入れられている。

 加えて最先端の技術の習得さえも自分の努力次第で、いつでも可能な環境をも与えてもらっている。


 自分にそういう身分を与えてくれたフラウ王女に何としても形のあるもので少しづつでも返して行きたいと考えていた。

 そのため、今回の作戦が成功したことは彼女にとっても極めて嬉しく感じられた。

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