1−16 卑弥呼の年齢(とし)
壁に貼られた紙を見終わると卑弥呼は大きく頷いた。そして直ちに村人をを集め祭殿、物見櫓それから村の家々などの暴風対策を万全に行うようにと九郎兵衛に指示した。
「肥後軍の侵攻は、いかがなさるおつもりで?もうそこまで来ておりますが 」
九郎兵衛は突然暴風対策の話をし始めた卑弥呼が理解できなく、いぶかしそうな顔で卑弥呼女王に尋ねた。卑弥呼は、先の壱岐国との戦で、九郎兵衛が自分を信じるといったあの言葉は嘘だったのかと切り返した。
「滅相もございません。九郎兵衛には女王様のお考えが全く理解及ばない故、どうかもう少し私にも理解できる様に、お話し下さる訳にはいかないものでしょうか?」
九郎兵衛からそう言われたものの、卑弥呼は彼が納得可能な話は出来そうに無いと感じていた。
そこで、卑弥呼は自分を信じて従っくれと言うにとどめた。これはフラウ王女が洞窟に行くことを両親やクロードを説き伏せた言葉に似ていた。
「わしからの指示、皆に徹底する様にしてくれ。頼んだぞ 」
「何か聞きたそうじゃの、フラウ?」
少し、揶揄うように卑弥呼の思念がフラウの頭の中に入ってきた。
「どうしてお分かりに?卑弥呼殿 」
「んん、今『 殿 』と聞こえたような気がしたが。どこで知ったのかそんな言葉使いを?」
殿という呼び方であるが、蔵書館に『 東の日出る国 』という書棚の中の蔵書に、国を司る為政者のことを『 殿 』と表現している部分があった。フラウ王女は卑弥呼にはその言葉こそふさわしい様な気がしていた為、ついその思考が漏れ出てしまったようである。
「女王様!いかがなされたのですか?」
との九郎兵衛の問いかけに、
” 心配ない。ちょっと考えごとをしていただけだ。直ちに暴雨風の対策を急ぐように皆に伝えるのだぞ ”
と卑弥呼はちょっと気恥ずかしそうに命じた。
「うーん、わしの思考が九郎兵衛にもダダもれれだったようだな。以後注意しないと、、、!」
卑弥呼はそう独り言ちた。
卑弥呼はフラウ王女の問いに未だ答えてなかったことを思い出した。
邪馬台国には昔より『 星読み 』とか『 先読み 』と呼ばれるものがあった。つまり太陽や月さらには星の動きを見て、やがて来るであろう季節や、特別な日とかに何が起こるかを予測して、それにもとづき予め対応する考えである。人々はそれを呪術と呼んでいた。
太陽が出て、やがてその太陽は沈み、そして再び登ってくるのを邪馬台国では一日とし、その365回を1年としていた。そして1年で人は歳が一つ増えると表現した。
その点はフラウの住むトライトロン王国も同様であった。
その卑弥呼が指差した壁紙には、一年分の天候や天災、潮の高さとか風の方向とか色々な過去の事象がことこまかに記録してあった。
そして、その膨大な過去の記録から未来に起こる可能性のある気候変動や天災地異などを予測し、戦や、農耕、漁や狩猟の参考にするのだと卑弥呼はいう。
今回卑弥呼は、その過去のデータを肥後国との戦に使うつもりのようであった。
「未来を先読みする目的ための過去からの膨大な記録なのですね 」
王国においても過去のそういった記録は残されているはずである。フラウ王女はそのことよりその壁紙が全部で何枚位あるかの方が気になっていた。
「そうじゃのー、かれこれ数百枚ぐらいかな?わしが書いた分だけで、、、」
「” 嘘ーー? ” ” それじゃー卑弥呼殿は一体今何歳??? ” 」
「こら、フラウ!たった今、とってもわしに失礼なこと考えていなかったか?」
・・・・・・・!
「まあ良い良いが、、、 」
実際フラウ王女の考えている通りであった。それでも、卑弥呼はフラウのことが妹のように思えてならなかったことに違和感を感じていた。実際卑弥呼は両親は勿論のこと、妹や友達とはもうずーっと、とっくの昔に死に別れてしまっていた。
「フラウ!処で、私の友達になってくれないかのう? 私のような得体の知れない怪物は怖いか?」
「滅相もございません卑弥呼殿、こんな私でも卑弥呼殿の友達としてお役に立てるでしょうか?」
卑弥呼女王さえ差し支えなければ、是非も無いことと思念した。同時に自分には卑弥呼が必要とするものは何も持っていないだろうとも、、、。