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5−12 二人が選んだ専門家

 ここはトライトロン王国飛行船建造計画提案の詮議の場。年齢若干16才の少女二人が壇上に立って、飛行船の模型を手書きで記載した紙を持って説明を始めた。


 ジェシカ王女は飛行船の外形の説明が終了すると、今度は飛行船を浮かせるために必要な要素を記載した紙を新たに取り出し更に説明を続けた。


 次に空に浮かんだ飛行船を前進させるために必要と考えられる推進機関に関しては、ニーナ蔵書館長が簡略模型を記載した紙を用いて説明した。


 出席者のほとんどが当然のことながら、十分に理解するには至らなかった。それは出席者の能力がジェシカ王女やニーナ蔵書館長に遥かに及んでいないところから、ある意味仕方のないことである。


 しかし実際上、ジェシカとニーナの考えを理解できる人間は、サンドラ・スープランやリーベント・プリエモール男爵を除けば、王国内外を探しても5本の指で十分に足る人材しか存在しないと考えられた。

 

 この研究開発に莫大な費用と人材を投入するにあたり、このプロジェクトをジェシカ王女とニーナ蔵書館長に全てを任せ切ることができるか否かが決め手になると思われた。


 それでも、彼女達の説明を聞きながら、この二人の能力がこの時代の知識や常識をはるかに超えていることを詮議出席者の誰もが感じ始めていたためか、反対する意見が積極的に出ることは無かった。


「ジェシカ王女それにニーナ蔵書館長!、私の理解では、飛行船を建造するために欠かせ無いと思われるその二人の研究者にお前達二人の考えている飛行船建造計画案を直接提示するのだな?」

 

 フラウリーデ王女の問いかけに、二人は、科学者と化学者の両方の視点から見て、自分達が企画している飛行船建造計画案が現実に実現可能か、あるいは余りにも常軌を失した考え方かどうかをまず評価してもらうのが最優先課題だと主張した。

 もし自分達の提案が彼らから見てもあまりにも荒唐無稽(こうとうむけい)な考え方と評価されれば、最初からやり直す必要があると考えていた。


「もし彼らの結論が不可能と出された場合には、飛行船建造計画は中止するということになるのかな?」


「いくつかの考え方の修正程度で済めば問題ないと思われますが、彼らにとって、この計画があまりにも科学的・化学的常識を逸脱していると判断された場合には、あるいは中止もやむを得ないでしょうね!」


 二人の学者からこの計画が全く受け入れられなかった場合、トライトロン王国が科学や化学の面で、少なくともハザン帝国よりも遥かに劣るのを認めざるを得ないだろうし、恐らくそれが現実であろう。

 これまでの長い間、トライトロン王国は科学の発展に関し見ないふりをして惰眠(だみん)(むさぼ)っていたわけであるからそれも仕方なかった。


 この若いジェシカ王女とニーナ蔵書館長の二人は、現段階ではトライトロン王国の科学や化学の技術水準がハザン帝国に大きく劣っていることを王国自身がまず認め、反省してこの仕事に取り組まない限り、ハザン帝国を追い越すこどころか、肩を並べることすら絶対に不可能だろうということを主張していた。


 王国の技術レベルの実情を冷静に見極めない限り、この先一歩も前には進むことは難しいという、若い能力のある二人からの痛烈な皮肉でもあった。


 現実にはトライトロン王国がこれらの研究開発を行おうと、あきらめるにしても早晩この世界では似たような技術の実現のために、他の国々でも(しの)ぎが削られるのは明白で、それに乗り遅れた国家は遅かれ早かれ恐らく淘汰(とうた)を余儀なくされるのは確実である。


 若い天才児二人は詮議開催の冒頭で、少しの心の痛みもなく、始まってまだ一時間もしないうちに、詮議出席者の退路を完全に絶ってしまっていた。


「本来、平和のための技術開発であったとしても、得られたその技術は必ず新種の武器として応用研究されることは間違いなく起こります 」

・・・・・・・!

「そのため、早晩色々な国が似たような武器を開発してくるでしょう。例えトライトロン王国がその危険性故に開発を中止したとしても、、、」


 確かにトライトロン王国が将来戦争の兵器となり得る可能性のある飛行船の建造計画には一切手をつけないという選択肢がない訳ではないが、遅かれ早かれ周りの国家でこれらの技術開発が行われ、その成果は確実に兵器としても取り入れられることになることは明白である。


 実際に、ハザン帝国においては既に兵器としての実用化の一歩手前まできている。トライトロン王国がハザン帝国の飛行船の開発をつい最近まで全く知らなかったからといって許されることではなかった。また他の国々でも情報を入手できていないと考えるのは極めて危険である。

 王国の情報網から漏れた他所(よそ)の国が似たような兵器の開発に関しもう既に(しの)ぎを削っていないとは絶対に言い切れなかった。


 フラウ王女はむしろハザン帝国が考えついた程度のものであれば、他の国でも既に開発されていると見る方がむしろ現実的なような気さえしていた。


「今から、皆の考えをそれぞれ述べて欲しい。まずフラウ第一軍務大臣!(けい)はどう考えている?」


 スチュワート摂政の問いにフラウリーデ王女一瞬目を(しばた)かせたが、ひとつ大きく呼吸をして、意を決したように話し始めた。


「私はハザン帝国の飛行船を実際にこの目で見て、かつ将軍達の話を聞き、まず最初に感じたのはあの飛行船でハザン帝国の兵士達が我が王国の上空に突如として現れた時の王国のパニックを想像してしまいました 」


 フラウリーデ第一軍務大臣が飛行船の開発を焦っているのは、実際にその目で見てきたからであって、トライトロン王国において全く未知のものが、戦争用の大量破壊兵器として、その完成を急いでいるという事実であった。そして前回のハザン帝国との戦の経過から見て、その矛先は確実にトライトロン王国に向いているとの確信があったからこそ、今回の提案に至っていた。


 事実、この時点でフラウ王女は、ハザン帝国の飛行船に対する対抗手段は、飛行船しかあり得ないと考えていた。そのため、王都の中でも最も知識のが豊富と思われるジェシカ王女とニーナ・バンドロン蔵書館長に、王国での実現の可能性と、実現させるために必要な人材を探させていた訳である。


「王城内でもハザン帝国の飛行船に対抗できるものを作れるというのか?」


 スチュワート摂政の単刀直入な問いに、フラウ王女としてはこの時点で自信がある訳ではなかった。だが、挑戦しないということは、座して死を待つことだと確信していた。

 そのため現段階では、この分野に関して少なくとも王国内で最高の知識を有すると思われるジェシカ王女とニーナ蔵書館長に頼るしか方法はないと判断していた。

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