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5−10 飛行船建造計画書(1)

 その日の午後、フラウ王女はジェシカ王女とニーナ蔵書館長と一緒に『 東の日出る国(ひがしのひいずるくに) 』のコーナーの前に立っていた。


 半年前初めてジェシカ王女とこの蔵書館に来た。あの日のジェシカはフラウにとって幼い可愛い過ぎる妹に他ならなかった。

 あの時、ジェシカは邪馬台国(やまたいこく)の絵本の読み物を喜んで読んでいた。


 この妹のわずかな間のこの大きな変化にはやはり邪馬台国の卑弥呼が関与していたのだった。フラウ王女はいつだったか、卑弥呼が妹のジェシカ王女に幾つかの能力を付与したとつぶやいていたことを思い出していた。


 ジェシカ王女の退屈しのぎに邪馬台国の言葉が読めるようにしたともいっていたが、あの後、恐らくあわせて常人をはるかに越えた読解能力や記憶力をも付与してくれていたのであろう。

 そう考えると、ジェシカ王女の今の大きな変化に関する辻褄(つじつま)があってくる。


 『 東の日出る国 』の蔵書を引っ張り出し、邪馬台国の未来を記載した蔵書のページをめくると、トライトロン王国で使用されている『 黒い水 』は、恐らく『 石油 』と呼ばれているものと同じと思われた。


 それには多くのガス状の物が含まれており、そのほとんどは燃え易いものから成り立っていた。しかし、ほんの一部は燃えにくく、空気よりも軽い気体が存在しているらしいことも記載されていた。


 それは、『 ヘリウム 』と呼ばれるものである。また、この他に空気より軽い物質として『 水素 』と呼ばれるガスも含まれているが、爆発的に燃え易いとあった。更にページをめくっていくと、その世界では発展の途中で、大量の人間を移動させる目的で飛行船の開発が行われたことも記載されていた。


 だがその飛行船は水素ガスを使用していたため、雷に打たれて爆発的に炎上し、乗員全てが焼死か墜落死したとあった。


 それ以降は、燃えにくいヘリウムガスを使用した飛行船が実用化されたようである。それでも、飛行船が使用されたのは極短い期間であって、その後は、世界中で戦争の為に使用される飛行袋を必要としない『 飛行機械 』と呼ばれる高速で空を移動できるものに取って変わってしまったようである。


 その飛行機械もやがて人や街を広範囲に破壊することが可能な兵器としての多くの国でその開発のしのぎが削られた。


 少なくとも飛行船開発については、王国の技術レベルでも全く不可能といえるものではなかったが、次世代の飛行機械に関してはあまりにも未知の技術が多く、卑弥呼から知恵を授かっているジェシカ王女であっても到底理解できる内容ではなかった。

 仮りに、内容は理解できたとしても、飛行機械が必要とする多くの部品を作ることは、その世界の当時の技術では全く不可能であった。


 ここまで読み進んだフラウ王女は、ジェシカ王女とニーナ蔵書館長のあの憔悴(しょうすい)しきっていた理由を完全に知ることができた。彼女達はより安全な飛行機械を開発をすることを前提に自分に話をしてたことに、、、。


 飛行船を空に浮かせるために必要な『 ヘリウム 』と呼ばれるガスについては、石油と名付けられた黒い水から取り出す方法も記載されていた。また、そのヘリウムガスを詰めるためのガス袋についても併せていくつかの記録が残されていた。


 一方、その頃ニーナ蔵書館長は飛行船を移動させるための駆動機関についての情報を探していた。

 今、ニーナは蒸気機関について記載されているページを開いている。そしてその原理やそれを作るために必要な技術更には物質を頭の中に取り込んで行った。その内容であれば、今のトライトロン王国でも優れた人材とそれなりの費用を投じれば、全く到達できない技術ではないと考えることができた。


 複写機などない時代、重要なことは記憶するかメモするしか方法はないが、幸いニーナ蔵書館長の場合その殆どを頭の中に詰め込むことに並外れた能力を有していた。ニーナ・バンドロン蔵書館長のその無限大の記憶力に関しては後日あるプロジェクトによって証明されることになる。


 ジェシカ王女とニーナ蔵書館長二人は、蔵書館に3日間程通い詰め、飛行船建造に必要な情報の概要を記憶していった。そして、ニーナは今自分がトライトロン王国内で王国の技術的発展の大きな鍵を握っていることを実感し、喜びで身体が震えるのを覚えていた。


「最近、蔵書館に通い詰めているようだが、余り根を詰めると病気するぞ!」

 フラウ王女の呼びかけに二人は、未知の知識を学べるのはとても面白いことだと答えた。

 フラウはあきれてしまったが、いずれにしても自分に手伝えることは無さそうなので、

 ” 宜しく頼む ”

との言葉だけを残して鍛錬場へと急いだ。


 ジェシカ王女達は正直もう少し蔵書館に通い、更に知識を深めたいと思っていたが、詮議の場に調査内容を報告しなければならない時期が迫っていることから、ある程度の処で一旦ケリをつける必要があった。

 そのため、その日1日の調査で取りまとめて報告書を作成するつもりでいた。


 目下、未知でかつ技術的内容が中心となっているこれらの情報を技術レベルの高くないというか一般常識以上の知識を持ち合わせていない詮議会メンバーにどう説明したら拒否感を持たれずにある程度理解させることができるだろうかということに腐心していた。

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