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5−6 ジェシカとニーナが考えた飛行船

 ジェシカ王女とニーナ蔵書館長は、今回の調査で王国科学技術省及びその研究所の設立に関する大まかな目処が立ったことを確信した。


 それでもジェシカ王女の頭の中は未だスッキリしなかった。それは、科学者や化学者リストに記載の人材を集め王国の豊富な国費で研究所を設立したと仮定しても、自分達の目指す飛行船が既に数年前から開発を進めているハザン帝国に肩を並べ、それよりさらに優れた飛行船の開発が本当に可能だろうかと考え始めたからである。


 ジェシカ王女自身は漠然と何となく()に落ちないという不安感を覚えていたのだったが、実はその彼女の不安は核心をついていたことを後々に知ることになる。


 事実上、目的の研究メンバーをかき集めたと仮定しても、彼女達の最終的に目指している飛行船はその研究者達の生きている世代はおろか次世代でも実現は不可能ではないかと考え始めたからである。


 ジェシカ王女とニーナ蔵書館長の見た『 未来予言書 』的な蔵書に記載されていた飛行船は、観光や貨物運搬を前提とした安全性の高い飛行船であり、戦争用の兵器として作られたものではないように思えた。


 彼女達が最終的に目指している飛行船がその蔵書の中で完成するのは、研究が開始されてから実に百年以上も後のことである。途中確かに兵器としての飛行船が使用された時期がなかった訳ではなさそうだが、ごく短期間であったようだ。


 自分達がこれから研究しようとしている飛行船は、ハザン帝国の飛行船を迎え撃つのにふさわしいものであるか疑問を感じ始めていた。今回の自分達に与えられたプロジェクトの必須条件は、ハザン帝国の飛行船開発と数年以内に肩を並べることであった。

 このジェシカ王女の疑問は、ハザン帝国の飛行船であっても全く同様で、飛行船それ自体が攻撃用の戦争兵器として本当にふさわしいのだろうかという漠然とした疑念であった。


 ニーナ蔵書館長も同じ結論に達していたと見えて、二人が同時に大きなため息をついた。

「ニーナ!どうやら私と同じ結論に達したようね 」

 

 そう、二人が目指していた飛行船は、飛行船というより『 飛行機械 』と表現する方が本当なのかもしれない。

 観光用や貨物輸送を主目的とする飛行船であれば、安全性が最も優先されなければならないが、ハザン帝国の飛行船ではその実現は到底困難と考えられた。


「ジェシカ様、私達の目指す飛行船が出来上がるまで、私達は生きていることは出来ませんね!」

「そうみたい!」


 二人の見解では自分達の考えている飛行船は、王国が全財産を注ぎ込んでこの研究に着手したとしても、目指す飛行船が完成するのは奇跡に近かった。本来、技術の革新というのは基本的には技術の一歩一歩の積み重ねでしか達成し得ない。

 勿論、極めて優れた研究者が経費の制限なしで研究に取り組んだ場合、あるいはその段階を1つ、2つ飛び越すくらいは可能かもしれないが、数百年分の技術を一気に飛び越すことは絶対に不可能であろう。


 しかし、その時ジェシカ王女とニーナ蔵書館長が考えていた飛行船は彼女達が二世代ほど努力しても完成し得ない高度な飛行船であった。

 彼女達の考えていた飛行船とは、その世界においては全く想像もつかない革新的な無数の技術を必要としていた。安全性と大量輸送を最優先した、その理想的な飛行船は、この時代では完成が望めない新しい概念を有する複数の機械を用いる必要があった。


「それでは、ジェシカ様、どうなさるつもりなのですか?」


「飛行船開発を直ちに中止にしようとは思わないけど、この事実を全く伏せたまま計画を推進することは、ある種の王国への裏切りになるかもしれないような気がするの 」


 先ほどまでの二人の喜びが、ぬか喜びであったことに気がつき、悄然(しょうぜん)となった。


 ジェシカ王女は、姉フラウリーデ王女に相談することにした。フラウ王女は、今回の飛行船開発プロジェクトのリーダーでもあり、いよいよの場合には邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)女王から、何か良いヒントを与えてもらえるかもしれないと考えたからである。

 そう思い直すと、ジェシカ王女とニーナ蔵書館長は、王城へと帰って行ったが、やはり自分達で結論を出し得なかったことが、とても残念に思えた。

 

「ジェシー!どうした?そんなに疲れた顔をして?」


 フラウ王女は心配そうにジェシカ王女とニーナ蔵書館長の顔をのぞきき込んだ。少し遅れて食堂に入ってきたフラウは二人の変化に一目で気がついた。昨日まではあれ程自信に満ちた顔をしていたのに、今見る二人は憔悴(しょうすい)しきっている。

 

「何があったのか?良かったら話してくれないか?私で力になれる内容であれば、なんでも協力するぞ。科学者や化学者の選別が上手くいっていないのか?」


「いえ、人選については、明日にでも動ける状態です 」


 ジェシカ王女は自分達が極めて重大なことに気が付いてしまったことを話し始めた。仮りに研究者集めができたと仮定しても、目指す飛行船が完成出来るのは気が遠くなるほどの先になってしまうことを、、、。


 実際、王国いやその世界のその時点の技術レベルは飛行機械を作るには技術も知識も余りにも低レベル過ぎていた。


 この時ジェシカ王女とニーナ蔵書館長が想定していた飛行船とは、ハザン帝国で開発中の飛行船ではなく、空を飛行する輸送機械、いわゆる次々世代以降に実用化されることになるであろう安全かつ大量輸送の可能な空飛ぶ機械であった。

 いわゆる、彼女たちが考えた安全性が保証された『 飛行機械 』とは、ハザン帝国が開発している飛行船などではなく、次世代の空を飛べる機械であった。


「ジェシカの言うことも解るが、しかしそうなるとハザン帝国には既に飛行船の試作機があるということは、我々よりハザン帝国は数世代進んでいるということなのか?」

 

 ジェシカ王女は、ハザン帝国が開発しているあの程度の飛行船を作るだけであれば、恐らく数年もあればトライトロン王国でも可能ではないかと答え、ニーナもそれに同調した。


「どういうことなのかな?私には二人の考えていることがさっぱり理解出来ないのだが、、、」


 二人に言わすれば、ハザン帝国のあの試作品は人や荷物の移動手段としての実用性は極めて低いと判断しているようであった。本来、飛行船の目的は安全かつ早く大量の人間や物資を遠くまで運ぶことにある。その点、ハザン帝国の飛行船はそのいずれの必要条件も満たされていないと見ていた。


 フラウ王女は、卑弥呼義姉と話をする口実が得られたことに喜び、邪馬台国の卑弥呼を思念した。

「卑弥呼お義姉様!ニーナは蔵書館の蔵書の持つ秘密をすっかり知ってしまったようです。お姉様も何れニーナは気付くだろうと言っておられましたが、もう完全に理解してしまったようです 」


「そうか!いずれ話さなければとは思っていたんだが、もうその時期が来てしまったのだな 」


「それに加えて、二人が考えている飛行船は、どうやらこの時代では全く想像もつかない飛行船というより、空を飛ぶ輸送機械のようで、その技術は50年や百年ではとても完成できないものだと、相当なショックを覚えているみたいです 」

 

「二人の飛行船に感じている悩みは判った!私なりにじっくりと考えてみることにする。もう少し時間をくれないかな?」

 卑弥呼はそう答えると、二人とも疲れただろうから早く食事を済ませてゆっくりとベットで休むように伝えてくれと言って思念を切った。


 卑弥呼の伝言を聞いたジェシカ王女は、ここしばらくソファに横になった位でゆっくりベットにも寝ていなかったことを思い出した。

 食事が終わると、二人はスゴスゴとジェシカ王女の部屋に戻って行った。その二人の後ろ姿はフラウ王女から見れば、やはり少し前屈みのような気がした。


 その後ろ姿を見ながらフラウ王女は、

 ” お前達に今(つぶ)れられると、王国の知的財産が崩壊してしまう ”

とつぶやいた。


 フラウ王女は、食後の蒸留酒を少し口に含みながら、一気に飲み下した。フラウ王女の白い喉元がピクリと動いたことから琥珀色の液体が胃の中に流れ落ちたことが分かった。そして心のどこかで、義姉の卑弥呼に逢える口実ができたことにむしろ喜びを感じていた。

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