5−5 未来予言書
ニーナ蔵書館長もジェシカ王女とほぼ同じ結論に達していたが、やっと少し残っている自分の頭の中の理性は、『 まさか、そんなことはあり得ない 』と否定していた。それでも同時に二人が同じ結論に達した以上、自分の固定概念をまずは捨てて考えてみることにした。
「王国の蔵書に記載されている卑弥呼様とフラウお義姉様の頭の中に存在していたという卑弥呼様とは同一人物なのですか? 」
「いいえ!この蔵書の中に記載の卑弥呼と『 東に日出る国 』の卑弥呼義姉様は全くの別人と考えるべきでしょう!おそらく、、、 」
「何故、何を根拠にそのように思われているのですか?」
「何故かって、あの蔵書は千年以上前に記載された物であることは絶対に間違いないので、、、」
・・・・・・・!
「それにしても、邪馬台国といい、卑弥呼女王といい、名前だけでも偶然に一致することなど現実的にはなかなか考えにくい気もするんだけど、、、」
実際、あの蔵書館の蔵書は、このトライトロン王国ににおいて将来起こるかもしれないこととかが記載されている『 未来予言書 』的な可能性があった。
この時、ジェシカ王女は既にフラウ王女よりも真実に近い部分に辿り着いていた。ここに邪馬台国の卑弥呼がいたら、ジェシカの見識とその推論に舌を巻いただろう。卑弥呼女王自身があの蔵書を読んで、辿り着いている結論にほぼ近いジェシカ王女の理解度であった。
事実卑弥呼が最も危惧しているのは、この蔵書館の秘密が良からぬ考えを持つ国の知るところとなり、もしその蔵書が奪われてしまった場合、全世界を滅亡に導く程の世界征服大戦が始まるかもしれないということであった。
フラウ王女は妹のジェシカ王女に対してもここまでの話は未だしていない。というより、そこまでは未だフラウ自身が到達できていなかったから話せなかったというのが事実なのであろう。
ジェシカ王女は、フラウ王女が時々無意識に独り言のようにつぶやいていることなどを総合して、ほぼ真実に近いこの結論に既に辿り着いていたのである。
ニーナ蔵書館長はジェシカ王女の話を聞いていて、それが決して荒唐無稽な作り話とばかりは考えなかった。それはこれまで蔵書を見ながら自分自身が漠然と疑問に感じていたいくつかの謎がこれまでのジェシカ王女との話で不思議と納得できたからであった。
二人の才女の共通の利点は、現実に起こり得ないことだと思われるような内容であってもそれは絶対ではなく、時間と場所などの条件が変われば真実になり得る可能性を本能的に否定しない部分であった。
この二人の共通したその柔らかい思考がこの先のトライトロン王国の運命を確実に変化させて行くのを予感させた。
「それでは、ジェシカ様!私達が必要としている人材についてこの蔵書の中から探せませんかね?」
「ニーナが自分で気が付いてくれて良かった。実は姉様から未だこのことに関して打ち明けるのは禁じられていたの、、、」
・・・・・・・!
「私に一つ約束して欲しいの!ニーナはこの知識をトライトロン王国のためにだけ使うということを 」
ニーナ・バンドロンの家族全員は、フラウ王女に出会ったことで、今現在こうして生きていることができていた。その意味で彼女自身ハザン帝国のことを故郷とはあまり思わないようになっていた。そしてそれは日に日に強くなってきており、まだ期間も短いというのに、トライトロン王国が自分の国のように思えていた。
もちろん、ニーナも含め全員トライトロン王国の民となってはいたが、、、
「私達の生涯はこの王国のためにだけ捧げます 」
「有難う!そこまで深刻に考える必要はないのだけど、この情報が他国に流れた場合、恐らく全世界を巻き込んでの大戦争がひき起こるのは間違いないだろうから、用心するにこしたことはないと思うの 」
ジェシカは自身が作成した蔵書のリストを取り出し二人で見始めた。この中にトライトロン王国に於ける飛行船建造について記載されている蔵書が無いか探してみることにした。
少しでも関連のありそうな蔵書については、その蔵書を取り出し、ページをめくったりしてみた。しかし目的とするものはなかなか見当たらなかった。
ただ化学に関する学問における著名な人物や、その当時似たようなな研究に従事していた人名のリストが公開されていた。ニーナ蔵書館長が発見したように、その蔵書は既に1000年以上も前に作成されたものであるにもかかわらず、今からトライトロン王国がやろうとしている、あるいはやりたいと思っている研究の内容の記述がちらほらと見受けられた。
その内容をよく見ると、現在のトライトロン王国と似ている部分も多いが、異なる部分も少なくない。
これが卑弥呼の言う別の時間の流れの中で書かれた蔵書なのだからであろうか?もしそう仮定すると、恐らく部分的には現在のトライトロン王国の未来の一部と重なっているのかもしれないことが予想された。
ジェシカはニーナに頼んで、蔵書の中で活躍していたと思われる科学者のリストを探させた。
程なくしてニーナは科学者リストを発見したが、その中には幾人かの錬金術師の名前は予測通り、確かに現在活躍している者の名前と一致していた。
ジェシカ王女とニーナ蔵書館長はこの時点で、自分達が目的としていた調査がほぼ終了したことを確信していた。
「ねえー、ニーナ!今晩は久しぶりにたっぷり寝て、目一杯朝寝坊しましょうよ 」
二人は、暗くて長い洞窟の中で、やっと出口の薄明かりを発見し、その明かりを目指して走り始めることになる。
「さあ、あと一踏ん張り。この蔵書に記載されている飛行船の歴史について読み終わったたら、王城に帰りましょう 」




