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5−2 ラウマイヤーハウト・リンネ侯爵家

 ここは、王国内でゼークスト公爵家に次ぐ私兵数を持つラウマイヤーハウト・リンネ侯爵家の一室。

 若い女性諜報員が侯爵に王都の状況について報告している。

 

「王国の第一王位継承者フラウリーデ王女様と第二王位継承者ジェシカ王女様が、王城内に飛行船を建造するため科学技術省の設立を提案なされたとの確かな(うわさ)があります 」

 

「飛行船というと、確かハザン帝国に放っている諜報員が帝国の主都で巨大な飛行船を見たと報告してきていたが、それのことか?」


 その諜報員は、フラウ王女がハザン帝国に行った時にその飛行船を見て、それが兵隊の大量輸送に使われるのではないかと危惧(きぐ)し、急遽(きゅうきょ)その研究開始を王国でも急がせているという詳細な情報に関してまで知らなかった。


「ところで、その情報を入手している貴族家は他にも居るのか?」

「恐らくシュトクハウゼン・ゼークスト公爵家の諜報員は、既に公爵様に報告済みかと思います。偵察がてらに垣間見(かいまみ)た公爵家の城門付近で急いで中に入っていく彼を見ましたので 、、、」


 それを聞いたリンネ侯爵は、今後不味(まず)いことになるかもしれない予感がした。

 ゼークスト公爵家は日頃から王家に対して極めて不遜(ふそん)な態度を示しており、飛行船の横取りや開発の妨害などを画策してくることが想定された。

 そうなると、近い将来王国を二分するような内乱に発展する可能性も否定できない。


「ゼークスト公爵家のその諜報員の動きも併せてそれと無く探っておいてくれないか?」


「お義父様!万が一そのような事態に陥った場合、どちらの側に付かれるのでしょうか?」


 リンネ侯爵の心はすでに定まっていた。というより、先祖代々リンネ侯爵家はずっと王族よりであった。リンネ侯爵は、侯爵領は王家より先祖が拝領を受けたものだと考えていた。女王からの拝領品であり、そこに住む民の税金により自分達は貴族としての対面を保ってこれた。今更筆頭貴族のゼークスト公爵家に付いたところで、侯爵家にとっては利することは何もなく、むしろ災いの種となりかねないと考えていた。


 王家への父侯爵の考えを聞いて、その諜報員は、これからも安心して自分の仕事が続けられることが確認できてほっとしていた。

 その女性諜報員の名前はマリンドルータ・リンネで公爵家の後継者であった。


 3日前にリンネ侯爵家に女王からフラウリーデ王女の結婚式の招待状が来ていた。

 その時、リンネ侯爵は養女マリンドルータが幼い頃、自分より幼いフラウリーデ王女から助けてもらった話を思い出していた。


「マリン!フラウリーデ王女様の結婚式にお前も一緒についてこないか?」

 

「もし、お許し頂けたらとても有り難く思います。私はどうしてもあの八年前の御礼を王女様に自分で言わなければならないと思っていましたので、、、 」


 リンネ侯爵は心のどこかで、あの時の娘がこのようにに大きく立派になったのを王女に見せたいと思った。しかし、この侯爵のこの一言が侯爵家のこれからの運命を後に大きく変えてしまうことなど、この時点では、誰も予想し得なかった。


「マリン!引き続き王家を中心とした調査を継続してくれないか!頼んだぞ。それにもし時間があればゼークスト公爵家の諜報員の動きもな、、、 」


 リンネ侯爵家の王都内女性諜報員の名前はマリンドルータ・リンネ。その実の父の名前はリーベルン・ハウマン。元々侯爵領で侯爵の竹馬の友でありかつ長い間軍事総参謀長として重用され、王国内でもその正義感と勇猛さで名前を()せていた。


 確たる証拠はないが、リンネ侯爵とリーベルン総参謀長との仲をやっかんだ同僚の裏切りに会い、内乱の鎮圧に赴いた彼は事故に見せかけられて殺害されしまった。

 それからしばらくすると、彼は何故か反乱の首謀者として仕立て上げられてしまっていた。更には彼が最初からその目的で侯爵家に取り入っていたとのうわさまで流れ始めた。


 リンネ侯爵は躍起になって親友に関するその悪いうわさの火消しを行ったが、そうすればする程益々その疑いが増すような更なる怪情報が流布(るふ)されていった。


 それ以来リンネ公爵は側近の参謀長をつけることはしなくなった。代わりに複数の参謀達を自分が直轄することで、一人が突出できないような体制を取った。


 そんな矢先、裏切り者のレッテルを押されしまったリーベルマン・ハウマンの噂が(ちまた)でも蔓延(まんえん)し、そのの妻いわゆるマリンドルータの母はその迫害に耐えきれず、娘を一人残して自殺してしまった。

 マリーンドルータが15歳の時であった。


 両親を一度に亡くし自暴自棄になっていたその頃、相変わらず周りの大人達の心無い避難を毎日のように彼女は受け続けていた。

 身を寄せるところのないマリンドルータは、多くの孤児が集まっている侯爵領のスラム街で、他の少年少女達と、その日暮らしを続けていた。


 1日に、良くて1回カビの生えた硬い黒パンをかじり、汚い水で流し込む。運が悪いと、丸一日水以外のものは口にしない日さえあった。

 マリンドルータと同じ年の女の子は、未だ完全に成長しきれない身体を売りながら、その日の食事を得たりしている者も少なくはなかった。


 マリンドルータは、持ち前の身のこなしの良さで金を持っていそうな者から財布を()ったり、そういう人間が身につけている貴重な飾り物を盗んだりしてその日暮らしをしていた。

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