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4−35 兵器と産業の発展

 トライトロン王国の重鎮達を集めた詮議は終了し、彼女達が提案した事項は全て受け入れられた。だが現実にはこれからフラウ王女達が解決していかなければならない課題は予測できないほど無数に存在していた。まだそのことを知る由もないフラウ王女は、今大きな欠伸(あくび)をしながら明日のラングスタイン大佐との練習試合に思いを()せていた。

 

 彼女の顔は試合への期待とハザン帝国の飛行船危機に対する不安がない混じっていたが、模擬試合への期待の方が少し勝っていた。


 この頃、フラウリーデ王女は次期女王としての風格を少しづつ現わし始めていたのだが、まだ邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)を除いては誰一人そこまで思い至る者はいなかった。


「フラウよ!ジェシカ達の説明、うまくいったようじゃの。それにしてもあの二人は途方もない能力を持っているぞ。王国において現時点では、この飛行船開発に挑戦可能な人材は正直あの二人を除いては皆無だろうな 」


 卑弥呼の住む邪馬台国においては、この種の学問はほとんど重用されていなかった。自然科学の分野に関しても卑弥呼の呪術能力が優れていたためか、彼女とその一族が常にその中心的存在となり、一般の庶民が関与するところではなかった。


 卑弥呼に極めて突出した呪術能力があったためか、これまで邪馬台国は他国からの大掛かりな侵略に見舞われることは数えるくらいしかなかった。その結果として科学や化学分野の発展が遅れてまったのかもしれない。

 また、大和国(やまとのくに)では邪馬台国をはじめとして周辺諸国における情報を総合しても科学者や化学者が重用されるようなことはなかった。


 トライトロン王国においてもハザン帝国の飛行船建造の一件がなければ、真剣に向き合う必要は生じなかった可能性が高い。仮りに、その必要が出てきたとしても、フラウ王女のずっとずっと後の世代になってからであっただろう。それが是か非(ぜかひ)かは誰にもわからなかった。


 邪馬台国には邪馬台国としてのゆったりとした時間が流れている。無理に寝た子を起こすような必要はなかった。もし邪馬台国の卑弥呼が大和の国(やまとのくに)の統一を本気で考えていたとすれば、彼女の持つ知識で飛行船どころか更に優れた兵器の開発が可能であっただろう。


 卑弥呼は、邪馬台国が未だその時期には至っていないと確信していた。そのため、中途半端な情報を提供することで、『 日の本(ひのもと) 』の本来たどるべき道を大きく誤らせる可能性が高くなることを危惧(きぐ)していたのであろう。

 

 そういう意味ではトライトロン王国には酷な話となってしまうが、技術革新の先駆者となってもらうことで化学や科学の発展が国同士の関係にどう影響するのかを確認する必要もあった。


 フラウ王女の住む世界では、心ならずも既に新しい技術に関する開発競争が始まってしまっていた。そのような状況下では勝たなければ逆に淘汰(とうた)されてしまう。

 この開発競争に負けることは、直ちにトライトロン王国が消滅することを意味し、かと言って、かりにトライトロン王国がハザン帝国に干渉することで、ハザン帝国が飛行船を平和利用のための路線に方向転換するとは決して考えられなかった。


「万が一にも不測の事態が想定された場合、わしがどのような手段を講じてでもその阻止にあたるつもりじゃ 」

 

 そういう意味では確かにテストケースとも考えられるが、卑弥呼がフラウ王女の住んでいるトライトロン王国が侵略・蹂躙(じゅうりん)されるのを黙って見ているとは到底考えられなかった。


「わしとフラウの関係じゃ。フラウは理解してくれると信じている 」


 フラウ王女の住んでいるトライトロン王国と卑弥呼の住んでいる邪馬台国は、時間軸が全く異なるばかりではなく、存在世界すらも全く違う場所と思われるところから、相互に影響し合う心配は必要がないと考えられた。


 トライトロン王国の存在する世界にとっては、ハザン帝国の飛行船の開発が兵器としては不十分で、トライトロン王国の考える飛行船開発から得られる新しい技術が、今後のこの世界の産業の発展や観光事業の振興に向いてくれるのが最も好ましい展開と考えられた。


「わしとフラウでその世界を産業革命の方向に持って行こうではないか?二人で力を合わせると必ず実現出来ると信じておるぞ 」


「確かにお義姉様のおっしゃる通り、飛行船の技術は平和利用にこそ意義を見出せると私も考えています 」


 フラウ王女は、ハザン帝国の飛行船が兵器としては使用に耐えないことを期待し、むしろ対抗するための研究開発か派生するであろう多くの技術が産業発展に方向転換可能となることを期待していた。


「お義姉様!いつも私に迷いが生じた折々には直ちに介入下さり、とても感謝しています 」


 ついさっきまで、王国の飛行船開発の遅ればかりが気になっていたフラウ王女は、万が一の時にはハザン帝国の飛行船プロジェクトを完全に潰すことを具体化しようと考えていた。しかし、今卑弥呼の思念を受け、もう少し大局的な見方も必要な気がし始めてきた。


「そうよな!叩き潰すだけでは脳がなさすぎる。良い案が練られたら、わしにも教えてくれないかのう 」


 義姉卑弥呼の思念は薄れ始め、やがてプツンと切れてしまった。



 来年はトライトロン王国歴1000年、やがて訪れようとしている年の終わりと次に来るであろう年の始めがこれからのトライトロン王国の未来を大きく変えて行く起点になることなど、未だこの時点では誰もが考えてもいなかった。

 また、このトライトロン王国建国千年の節目にフラウリーデ王女が介在することになったのは、天の采配なのかもしれなかった。千年に一人現れるという類稀(たぐいまれ)なる女王として、、、。


                          



           (第4話終わり)

 ハザン帝国の上空に浮かんでいたものが飛行船であり、トライトロン王国を始めとした近隣諸国侵略を目的としていることが明確になり、トライトロン王国においても飛行船の研究開発に乗り出すことになった。

 その主たる調査を行ったのが、フラウ王女の妹ジェシカ王女と、ハザン帝国からの亡命者ニーナ・バンドロンであった。しかしながら、研究開発に全く投資してこなかったトライトロン王国にとって、飛行船開発は大きな壁となった。

 次話は、いよいよ王国内とプリエモ王国内での錬金術師(科学者・化学者)の選任が始まる。

 また、将来『 女王の剣 』となるマリーン・ドルータやトライトロン王国の二大貴族も新たに登場してくる。 

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