１−１４ 五芒星(ごぼうせい)の魔法陣
洞窟の中は暗くて、かなり広い。先般フラウ王女が間違ってこの洞窟内に入った時は、初めてだったのもあって、周囲の状況をほとんど確認しないままただ光の渦に自分が飲み込まれてしまうあの現象に遭遇した。
今回はクロード近衛騎士隊長が一緒ということもあって、周囲を十分に確認する余裕があった。洞窟の壁の４箇所に光を灯すための大きな皿が置いてあり、その中には『 黒い水 』とそれにどっぷりと浸された一本の棒切れが見えた。
「灯りが欲しい！ 」
・・・・・・・！
「そうだ！これに火をつけると灯りが得られる 」
フラウ王女がそう思った瞬間、不思議なことにどのような仕掛けかは分からないが、洞窟の入口から取り入れられた朝の光が次々と洞窟の内部のあちこちを照らし始めた。
やがて洞窟内全部にその光が行き渡ると、洞窟の中のあらゆる場所が鮮明に見え始めてきた。
この時、フラウ王女はこれからのトライトロン王国を取り巻くこの世界のあらゆる出来事をこの明かり取り用の黒い水が大きく変えていくこと。そしてその黒い水がおそらく千年以上も前の時代からここに設置されていたということには全く気がついていなかった。
前に自分が洞窟に入った時にはこの採光のカラクリは作動しなかった。
これは後にフラウ王女が卑弥呼から聞いたことであるが、最初に彼女がこの洞窟に入った時は、彼女は洞窟にとって単なる迷い込み人に過ぎなかった。
もともと、この洞窟は侵入者を阻む目的を持って作られていることを後にフラウ王女は知ることになる。もしこの洞窟がフラウ王女を侵入者として認識していた場合、恐らく色々な仕掛けで彼女は既に抹殺されていただろ。しかし、この洞窟はそうではなかった。また加えて彼女がこの魔法陣を自分で発動させることができたということは、この洞窟がフラウ王女を自分の主として認めたからであろう。
先般、彼女が洞窟に迷い込んだ時、暗くて単なる岩の上だと思っていたその場所は、採光された明るい中で良く見ると、フラウ王女が蔵書館において邪馬台国に関する古書で見たものと同じ形をした図形が描れていた。
確かあの古書には『 魔法陣 』と書いてあったような、、、フラウ王女の中でたった今、パズルのピースの重要なパーツとなる一個がきっちりとハマって全体像が少し見えてきたような気がした。
フラウ王女は、その魔法陣の真ん中に立ってみた。
それでも、魔法陣には何の変化も生じない。座ってみたり、横になったりしてみたが、何かが起こる気配は全く感じられない。
フラウ王女は、何か重要なことを見落としているのではないかと、最初から思い起こしていた。
” 歴代の女王にのみ口伝で伝えられた ”
という母の言葉、それは血の繋がりのことをいっているのは確かだと思われた。
そういえば初めてここに迷い込んだあの時、確か扉を開ける前に鋭い雑草の葉で自分の指を切ってしまったことを思い出した。その時は驚きのあまり、そのまま放っておいたのだが、その切り傷は血液が１〜２滴程度は滴るくらいの傷だったのかも知れない。
それらの記憶が呼び起こされた瞬間、フラウ王女には、全てのピースが完全に納まったことを理解した。
「クロ、これから私の身に起こる現象を良く見ておいてくれ！」
と言うなり、腰から小剣を引き抜くと自分の掌を切り裂き、魔法陣の中心の穴に血液を滴り落とした。しばらく待つとその魔法陣は眩しく光り始めた。
「クロ！間違いない。この魔法陣は、トライトロン王国歴代の女王の血液によって仕掛けが発動するように作られているに違いない 」
フラウは確信を得た様にクロードに告げた。
「この魔法陣は間違いなく邪馬台国につながっているはずだ 」
フラウ王女は、これで邪馬台国に行けることと確信した。そしてクロードに女王にだけはこの話をしてくれるように頼んだ。
「血液に関しては母上しか知らない。母以外には未だ口外しないでくれないか？」
魔法陣の発する光を浴びながら少しづつ薄れゆく自分の姿を見ながらフラウ王女は、
” これで、確実に帰って来れるぞ、クロ！安心して待っていてくれないか！"
とクロードに言った。
クロードは不安と安堵のない混じった複雑な顔をして、
” ご安心ください！確と女王様にお伝えいたします ”
と少し震える声でそう応えた。
クロード・トリトロンの返事を聞き終えるのと同時に、フラウ王女の姿はまるでそこには元から何も無かったかのように搔き消えてしまった。
「フラウ様、ご武運を！」
とのクロードの声は彼女には届くことは無く、虚空に虚しく響いた。
