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4−33 錬金術師と飛行船

 翌日の詮議場も当然のことながら前日と同じ顔ぶれである。しかし、彼らのジェシカ王女とニーナ蔵書館長を見る目は大きく異なっていた。

 少なくとも、昨日のと比べ『 小娘 』を見るような目つきではなく、二人の口から発せられる声をというかその一言一句を聞き逃すまいとする真剣な眼差しに変わっていた。


 フラウ王女は、昨日デモンストレーションの終わった後一旦詮議を打ち切ったことがむしろ良い効果を及ぼしたのだろうと改めて思った。


 詮議を早めに打ち切ったことで出席者は会議が終わった後、自分達の知識は全く及んでいないにもかかわらず、心の何処かで『この小娘達 』という気持ちがあったのは確かである。それを払拭するのには十分な時間であったのかもしれない。


 それが今日の皆んなの眼に現れている。


 ジェシカ王女とニーナ・バンドロン蔵書館長から語られたこの世界における錬金術師に関する報告は大体次のようなものだった。

 トライトロン王国においては、過去より錬金術に関する3大潮流が存在していた。最も古くから行われているのが、呪術を用いて将来を占ったり、幻術、いわゆる目眩(めくらまし)しのようなもので人を幻惑したり、あるいは人を洗脳したりする種類のものである。


 昨今はそのような少しいかがわしい術師は淘汰され衰退の一歩をたどっている。それは別の見方をすれば、人間が徐々に成長しつつある証拠なのかもしれない。

 だが、この種の人材は今回の飛行船建造に限って考えると役に立たないというより、むしろ開発の妨げになることが危惧(きぐ)される。


 さらに錬金術のもう一つの潮流として、季節とか天候とか、地震や洪水などの自然発生の災害等を多くの過去のデータから予測して災害を防ぐ、あるいはその対策を予め取っておくように注意を喚起する錬金術師のグループが存在している。このような錬金術師は古くから宮廷内でも数名がそれらを担っている。


 この気象や天災的事象の研究に関しては、今後王国がそれなりの費用を投じても十分見合うプロジェクトとなると考えられた。先のハザン帝国との戦において邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)が砂嵐の発生とその進行方向を予測して見せたところから、ある程度はトライトロン王国内においてもその重要性が再認識され始めていた。

 しかし、今回の飛行船建造プロジェクトとは直接関係ないため、あえてジェシカ王女達はここで論じることはしなかった。


 最後に残ったもう一つの流派が『 無から有を生み出す錬金術師 』である。

 一見、素晴らしく聞こえる魅力的な学問であるが、現実には無から有は絶対に生まれないことから、やはり荒唐無稽(こうとうむけい)には違いない。


 今回の飛行船開発においては錬金術を化学や科学の学問に結び付けることが欠かせなかった。そのため計画を実現させるためには、どうしても避けて通れない部分であったため、ことさらジェシカ王女はくどいと思われるほどの前置きをおこなった。


「以上の前置きを前提に、私から飛行船建造計画に必要な錬金術師の選別案について報告並びに提案させてください。現在、我が王国における『 その無から有を作る錬金術師 』こそが飛行船を作れるのです 」


 ジェシカ王女のこの『 無から有を作り出す 』発言がまた皆なを少しばかり混乱させることになった。先程無から有は作り出せないと明言したばかりなのに、今度は無から有を作り出す錬金術師が飛行船開発に必要となると彼女は言っているのだ。


 ある程度前もって、情報の一旦を知らされているフラウリーデ王女とは違い、少々彼らの頭を回転させたところで真実の一端にたどり着くことは、普通不可能だろう。そこでジェシカ王女は具体的な研究を行っている事例を出して更に話を進めたが、そのことが出席者を更に混乱させることになった。


 目に見えない物同士を組み合わせると新しく目に見える物ができたという事実やあるいは目に見えている物に目に見えない物が触れることによって今までの我々が知っている物とは全く姿形(すがたかたち)を変えてしまう場合があることとか。

 また、実際にそのような研究をずっと繰り返しているグループが王国内にもちゃんと存在している事実などを報告した。


「そこで、私達は直ちに王城内の敷地にその研究グループ用の飛行船建造研究施設を作ることを提案します。また、その研究所で働く科学や化学に詳しい研究者達の選別については、私達に一任頂けるようにお願いします 」


 ジェシカ王女の報告と提案に続き、ニーナ蔵書館長が新たな別の提案書を追加した。


「ジェシカ王女様のご提案は、飛行船本体を作るために必要な主として『 化学者 』と呼ばれている人たちです 」


 飛行船を作ってそれを浮かすことは出来ても目的地まで飛ばすためには別の種類の研究者が必要なことを出席者に理解させるために、ニーナは風車(かざぐるま)を取り出し、それに息を吹きつけた。

 風車はクルクルと回り始めた。そしてこの風車を応用した物を飛行船に取り付けることによって、飛行船は前に進むのが可能となり、地上100m以上の所を目的地まで飛べるようになると説明した。

 

「この風車は今回私の息で回りましたが、飛行船には息ではなくて自動的に動くような大掛かりな機械仕掛けが必要になります 」


と言いながら、そのような研究をしているグループがプリエモ王国に存在していることを報告した。

 この種の研究を中心にして物作りをしている研究者は『 科学者 』と呼ばれて、近隣諸国ではプリエモ王国がその先駆者であることも追加した。

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