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4−32 飛行船の欠点

 ジェシカ王女は、ニーナ・バンドロンに目で合図した。今度は布の中から別の小さい風船を取り出し、衛兵に火を持って来させた。そしてその小さい風船に火を近づけた。たったそれだけでその風船はたちまち爆発音を立てて燃え落ちてしまった。


 この時点で、ジェシカ王女達がその風船の中に詰めたものは、黒い水から採れたあらゆるガスが混じっているものをそのまま使用していた。


 もちろん二人はハザン帝国の飛行船が黒い水から採れるガスをそのまま使用しているとは考えていなかった。しかし現在の二人の技術力ではその黒い水から発生する数種類のガスを分離する手段を持っていなかったため、黒い水から発生したガスをそのまま使用するしか方法がなかったわけである。


 実際には、現段階ではその内容であってもデモンストレーション用としてはなんの差し(さわ)りもなかった。

 ガスの分離については優れた錬金術師さえ見つければ、恐らく可能になるだろうと考えていたため、今回は時間を優先して敢えて黒い油から発生したガスの混合物をそのまま使用していた。


「これは、黒い水から採れる空気より軽いものを風船に詰めたものですから、すぐに火がついてしまうのです。この程度のガスで飛行船を造るのであれば、明日からでも飛行船の建造に入れます 」


 詮議場の出席者の皆んなが一斉に感心したように『 ほうっ 』と声を出した。

 恐らく、飛行船の開発に一歩近づいたのではないだろうかと感じたからであった。しかし、その後に続けられたジェシカ王女の言葉に皆んなは深く溜息をつかざるを得なかった。


 その後にジェシカ王女が続けた言葉とは、そのガスを使用する限り飛行船としては全く実用向きではなく、火矢が1本その風船に命中しただけで、一瞬のうちに爆発し乗員は高い空から落ちて全員死んでしまうだろうという内容であった。

 ジェシカ王女は極めてショッキングな話を最初にぶっつけ、そして出席者の注意を引くことで、理解を促すように更に話を続けた。

 あの黒い水から発生するガスの中に空気より軽くて燃えにくいものが必ず存在していると自分たちは考えているということを、、、。


 ジェシカ王女にしても、ニーナ蔵書館長にしてもその道の専門家ではない。そうすると、二人が今達している結論で精一杯ということになる。そこで次に必要になってくるのが王国内外から優秀な錬金術(れんきんじゅつ)生業(なりわい)としている技術者や専門の研究者を探すことになる。


 実際には、浮いた飛行船をどうやって前に進めるかとか、どうやって方向転換するか等の課題はまだ数えきれないほど存在しているが、まず出発点は黒い水の中から燃えにくく、空気より軽いガスの存在を見つけ出す必要があることに絞って彼女らのこれまでに到達している見解を述べることにした。


 そしてその実現のためには、王国や近隣国から優れた錬金術師を探し出し王都に呼び寄せて十分な費用を投入し、彼らに調査研究を始めさせることこそが出発点であると説いた。


 ジェシカ王女の説明とニーナ蔵書館長のデモンストレーションに衝撃を受けた出席者からは何も声が出ない。


「ジェシカ王女!城内に居る錬金術師ではどうなのか?」

「フラウ王女様、お言葉ですが城勤めの錬金術師ではその実現は全く不可能です 」


 実際、王城勤めの錬金術師も数人は居たが、基本的に呪術研究者か自然科学研究者に限られていた。王族の健康を占い、そして健康状態を調べ、必要に応じ薬を調合するとか、あるいは砂嵐がいつ頃近づくとか、今年は日照りが続くとか、洪水が起こりそうだとかの自然災害を予測する程度の錬金術師しか王城にはいなかった。

 

 今回、ジェシカ王女やニーナ蔵書館長が必要としている錬金術師は科学や化学分野に精通した専門家であり、最早錬金術師と呼ぶよりも科学や化学の研究者と呼ばれる存在しか役に立たないであろうことも付け加えた。

 更に、それ以外の者は役に立たないというよりむしろ今回の計画推進の大きな妨げになるだろうと彼女達はキッパリと言い切った。

 

 フラウ王女は当初、錬金術師の専任までこの日に行う計画であったが、二人の話が、出席者にとって可成の衝撃的な内容であったためか、少し疲れているように見受けられたため、人選については再度集まってもらうように摂政に依頼した。

 そして翌日に飛行船開発に相応しい化学者や科学者の選別とその責任者には誰が相応しいかについて話し合いを行うことでその日の詮議は終了した。


「ジェシカ!ニーナ!今日の説明は衝撃的だったな 」

「かつて、お姉様が詮議の時に黒い水に火をつけたという話を聞いておりましたので、理屈よりも自分の目で見るのが一番分かり易いかと思いましてニーナと相談し、小細工をしてしまいました 」


「いやいや!小細工なんてもんじゃなかったぞ!全員度肝を抜かれていじゃないか。それにしてもジェシカは最近急に積極的になってきたような気がするな。ニーナという友達ができたせいかな 」


 確かにニーナの存在はジェシカ王女にとって無視はできない。しかし最近ジェシカ王女がいつまでも姉に守られてばかりの自分ではではいけないと考え始めたというのが本当の理由であった。

 そんな矢先、人には人それぞれの戦場があるということを認識させてくれたのがニーナ・バンドロンであった。


「そうか、ジェシカにも良い友達ができたな!」


 フラウ王女はそういいながら、いつだったか卑弥呼がジェシカとニーナは終生の友達となるといっていたことを思い出していた。


「それじゃ、ジェシカ、ニーナ!明日もよろしく頼む 」


 フラウ王女は二人の肩を軽く叩き、詮議場を後にした。王城へはクロード近衛騎士隊長と一緒に帰ったが、途中ジェシカ王女の変貌ぶりを話題にしていた。この前まフラウリーデの後ろを追っかけていた妹が、ニーナ・バンドロンという強力な助っ人を得て、城内でも屈指の知識所有者となっていることについて、驚きを交えながら賛辞(さんじ)した。


 そのジェシカ王女の大いなる変貌の裏には邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)が関連しているであろうことについて、フラウ王女はクロード近衛騎士隊長にもこの時は話さなかった。

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